16:15 〜 16:30
[SSS08-26] 室内水圧破砕実験中に生じる大量のAEのモーメントテンソル解析
キーワード:Acoustic Emission、Deep learning、Hydraulic fracturing
室内実験や数十〜数百m規模までの比較的狭い範囲での破壊現象の観察にはAE(Acoustic Emission)センサが用いられる.AEセンサは地震計より感度が良く微小な破壊を検知可能だが,特性が複雑で,接着手法・状況の影響を強く受けるため,波形を使った詳細な解析が難しい.本研究ではこれらの課題を克服し,室内水圧破砕実験中に生じるAEのモーメント・テンソル(MT)解析を実現した.また,畳み込みニューラルネットワーク(CNN)による極性読み取り手法を導入することで,トータル5万個を超える大量のAEのMT解を推定した.AE活動及び発震機構解の詳細な時間変化を明らかにすることで,水圧破砕による亀裂造成プロセスの詳細を描き出すことに成功した.
解析には,非在来型資源の開発で重要度が増す水圧破砕による亀裂造成プロセスと,その破砕流体粘度の影響を調べることを目的として実施した,室内水圧破砕実験で得られたAEデータを用いた.供試体には,65 x 65 x 130 mm の直方体形状に整形した山口県産の黒髪島花崗岩供試体10個を用い,5MPaの一軸圧縮下で実験を実施した.破砕には紫外線照射下で発光する蛍光剤を添加した樹脂(メチルメタアクリレート;常温常圧下で0.8 mPa·s)を用い,実験後に供試体を切断し,その断面において流体浸入域及び造成亀裂を観察した.この樹脂に増粘剤を添加して粘度を約10, 50, 300, 1000 mPa·sに調整したものも用意し,計5種類の粘度でそれぞれ2供試体の破砕を実施した.試験中に生じるAEは,供試体に設置した高感度・広帯域のM304Aセンサ16個,共振型(共振周波数約550 kHz)センサ(Pico)8個によって10 MS/sで連続収録した.得られたAEデータからイベント検出,走時検測を自動処理で実施し,震源決定・相対震源決定を行い,AEのイベントカタログを作成した.
得られた個々のAEイベントに対し,P波の初動極性と振幅値から逆解析によってMT解を推定した.AEセンサで得られる波形の振幅値を適切に取り扱うため,1)様々な方位から入射発振した波に対する感度を測定して指向性を評価,2)破砕試験直前,AEセンサのセッティングが終了した状態で音波透過試験を実施し,個々のセンサ感度と供試体の減衰特性を推定,という処理をおこない,これらの効果を補正してMT解析を行った.
実験では,1供試体あたり3755–12,872個という大量のAEが発生したため,その極性読み取りにおいてはP波周辺150サンプル分の波形を入力とし,その波形の初動極性を0(引き)から1(押し)の連続量で出力するCNNを用いた自動処理を導入した.SN比が良いデータの極性を手動で読み取って得た68,152個の訓練データで学習を実施し,合計1,366,118個の極性読み取りに成功した.これらを用い最終的に54,727個のMT解を得た.
AEの時空間分布からは,主亀裂造成の準備過程として2つのフェーズが確認された.最初のフェーズは,破砕孔での流体圧が,主亀裂造成に伴う流体圧の急降下(breakdown) が生じる圧力の 10–30%で始まり,破砕孔から時間とともに三次元的に広がる AE 活動で特徴づけられる.同フェーズのAEは,様々な方向を向いた引張亀裂に対応するMT解を持ち,これは供試体内の既存亀裂に流体が貫入することで生じたと考えられる.2つ目のフェーズは,breakdown 圧の 90–99%で始まり,破砕孔から最大圧縮軸方向に二次元的に進展する AE 活動で特徴づけられる.第2フェーズでみられる二次元状AE分布は,水圧破砕の古典理論から予想される方位の亀裂を描き出しており,同フェーズは主亀裂の造成と進展に対応すると考えられる.第2フェーズにおいては,AEが描き出す主亀裂の開口を示唆する引張型が支配的であったが,それまでほとんど発生しなかった剪断型のイベントも多く発生した.また,実験後の断面において観察された流体浸透域や,第2フェーズ継続時間,破砕圧力において,顕著な粘度依存性が確認された.
本研究は独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構 (JOGMEC) および,科研費 (16H04614) ,京都大学教育研究振興財団の援助により行われました.
解析には,非在来型資源の開発で重要度が増す水圧破砕による亀裂造成プロセスと,その破砕流体粘度の影響を調べることを目的として実施した,室内水圧破砕実験で得られたAEデータを用いた.供試体には,65 x 65 x 130 mm の直方体形状に整形した山口県産の黒髪島花崗岩供試体10個を用い,5MPaの一軸圧縮下で実験を実施した.破砕には紫外線照射下で発光する蛍光剤を添加した樹脂(メチルメタアクリレート;常温常圧下で0.8 mPa·s)を用い,実験後に供試体を切断し,その断面において流体浸入域及び造成亀裂を観察した.この樹脂に増粘剤を添加して粘度を約10, 50, 300, 1000 mPa·sに調整したものも用意し,計5種類の粘度でそれぞれ2供試体の破砕を実施した.試験中に生じるAEは,供試体に設置した高感度・広帯域のM304Aセンサ16個,共振型(共振周波数約550 kHz)センサ(Pico)8個によって10 MS/sで連続収録した.得られたAEデータからイベント検出,走時検測を自動処理で実施し,震源決定・相対震源決定を行い,AEのイベントカタログを作成した.
得られた個々のAEイベントに対し,P波の初動極性と振幅値から逆解析によってMT解を推定した.AEセンサで得られる波形の振幅値を適切に取り扱うため,1)様々な方位から入射発振した波に対する感度を測定して指向性を評価,2)破砕試験直前,AEセンサのセッティングが終了した状態で音波透過試験を実施し,個々のセンサ感度と供試体の減衰特性を推定,という処理をおこない,これらの効果を補正してMT解析を行った.
実験では,1供試体あたり3755–12,872個という大量のAEが発生したため,その極性読み取りにおいてはP波周辺150サンプル分の波形を入力とし,その波形の初動極性を0(引き)から1(押し)の連続量で出力するCNNを用いた自動処理を導入した.SN比が良いデータの極性を手動で読み取って得た68,152個の訓練データで学習を実施し,合計1,366,118個の極性読み取りに成功した.これらを用い最終的に54,727個のMT解を得た.
AEの時空間分布からは,主亀裂造成の準備過程として2つのフェーズが確認された.最初のフェーズは,破砕孔での流体圧が,主亀裂造成に伴う流体圧の急降下(breakdown) が生じる圧力の 10–30%で始まり,破砕孔から時間とともに三次元的に広がる AE 活動で特徴づけられる.同フェーズのAEは,様々な方向を向いた引張亀裂に対応するMT解を持ち,これは供試体内の既存亀裂に流体が貫入することで生じたと考えられる.2つ目のフェーズは,breakdown 圧の 90–99%で始まり,破砕孔から最大圧縮軸方向に二次元的に進展する AE 活動で特徴づけられる.第2フェーズでみられる二次元状AE分布は,水圧破砕の古典理論から予想される方位の亀裂を描き出しており,同フェーズは主亀裂の造成と進展に対応すると考えられる.第2フェーズにおいては,AEが描き出す主亀裂の開口を示唆する引張型が支配的であったが,それまでほとんど発生しなかった剪断型のイベントも多く発生した.また,実験後の断面において観察された流体浸透域や,第2フェーズ継続時間,破砕圧力において,顕著な粘度依存性が確認された.
本研究は独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構 (JOGMEC) および,科研費 (16H04614) ,京都大学教育研究振興財団の援助により行われました.