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[SSS08-P01] 東北地方の応力場と発生した地震の断層面との関係
キーワード:Slip Tendency、東北地方、1998年岩手県雫石町の地震、2008年岩手・宮城内陸地震、2003年宮城県北部の地震
目的
現在の東北日本の応力場は、概ね東西方向に最大圧縮軸、上下方向に最小圧縮軸が向き逆断層運動が生じる傾向にある(例えばTerakawa and Matsu’ura, 2010)。東北日本および日本海東縁地域には、日本海形成時の引張応力場によって発達した正断層や褶曲、海盆が存在する(岡村・加藤, 2002; 岡村, 2010)。現在の地震活動は、日本海形成時に形成された古い地質構造に強く規制され、古い正断層(高傾斜角面)が逆断層として活動するテクトニックインバージョンによって主に発生することが考えられている(例えばOkamura et al., 1995)。
我々は、日本海東縁地域で発生した大規模地震周辺の応力場に対する断層面のすべりやすさの検討をSlip Tendency法を用いて行い、低角東傾斜の面が高角西傾斜の面よりすべりやすく、概ね実際に発生した地震の断層面に対応していることを確認した(田上・他, JpGU-AGU Joint Meeting, 2020; 田上・他, 日本地震学会, 2020)。
東北日本の内陸地域においても日本海形成時に活動した高角断層のテクトニックインバージョンが確認されている。そこで、本研究では東北日本内陸地域で発生した3つの大規模地震(1998年岩手県雫石町の地震、2008年岩手・宮城内陸地震、2003年宮城県北部の地震)に着目し応力場に対するすべりやすさの検討を行った。
データと手法
応力場はF-netメカニズム解と2011年東北地方太平洋沖地震緊急合同観測および2019年山形県沖の地震の余震観測などの臨時地震観測データを利用し得られたメカニズム解データ(岡田・他, 2019)を使用し、応力テンソルインバージョン法(Michael, 1984; Michael, 1987)を用いて推定した。応力場に対する断層面のすべりやすさはSlip Tendency 法(Morris et al., 1996)を用いて検討を行った。
結果
2011年東北地方太平洋沖地震の影響を確認するため、1997年から2011年、2011年から2019年の2つの時間枠を設定し、応力場の推定を行った。本震のメカニズム解(F-net)の2つの節面をそれぞれ断層モデルとし、Slip Tendency値(ST値)を算出した。
・1998年岩手県雫石町の地震(Mjma 6.1)
応力場は概ね横ずれ断層型を示した。最大水平圧縮応力方向は1997年-2011年の時間枠でE-W方向、2011年-2019年の時間枠ではWSW-ENE方向であった。1997年-2011年の時間枠では西傾斜の面がより高いST値を示し、2011年-2019年の時間枠では東傾斜の面がより高いST値を示したが、いずれも0.6以下であり、すべりにくい状態であった。
・2008年岩手・宮城内陸地震(Mjma 7.2)
応力場については2011年東北地方太平洋沖地震に加え、本地震前後の変化も考慮し1997年-2008年、2008年-2011年、2011年-2019年の3つの時間枠で応力場の推定を行った。どの時間枠においても逆断層型の応力場を示した。最大水平圧縮応力方向は1997年-2008年と2008年-2011年の応力場ではWNW-ESE方向、2011年-2019年ではNE-SW方向を示した。いずれの時間枠でも、東傾斜の面がより高いST値(0.7以上)を示した。
・2003年宮城県北部の地震(7/26 7:13 Mjma 6.4)
応力場は概ね逆断層型を示した。最大水平圧縮応力方向は1997年-2011年でE-W方向、2011年-2019年でNE-SW方向であった。ST値はいずれも東傾斜の面が0.7以上のST値を示し、西傾斜の面より高いST値を示した。
・全体の傾向
対象とした3つの地震はいずれも先行研究では西傾斜の断層面の傾向が確認されている。本研究では西傾斜の面のST値は東傾斜の面より低く、応力場に対しすべりにくい状態で活動したことが示唆される。その理由として、東北日本の内陸地域では高い間隙流体圧や低い摩擦係数などにより断層強度が低いことが考えられる。
References
岡村行信, 2010, 地質学雑誌, 116(11), 582-591.
岡村行信・加藤幸弘, 2002,『日本海東縁の活断層とテクトニクス』(大竹政和・平朝彦・太田陽子 (編) ), 東京大学出版会, 47-69.
Okamura, Y., Watanabe, M., Morijiri, R., and Satoh, M., 1995, Island Arc, 4(3), 166-181.
Michael, A. J., 1984, Journal of Geophysical Research: Solid Earth, 89(B13), 11517-11526.
Michael, A. J., 1987, Journal of Geophysical Research: Solid Earth, 92(B1), 357–368.
Morris, A., Ferril, D. A., and Henderson, D. B., 1996, Geology, 24(3), 275-278.
Terakawa, T., & Matsu’ura, M., 2010, Tectonics, 29:TC6008.
現在の東北日本の応力場は、概ね東西方向に最大圧縮軸、上下方向に最小圧縮軸が向き逆断層運動が生じる傾向にある(例えばTerakawa and Matsu’ura, 2010)。東北日本および日本海東縁地域には、日本海形成時の引張応力場によって発達した正断層や褶曲、海盆が存在する(岡村・加藤, 2002; 岡村, 2010)。現在の地震活動は、日本海形成時に形成された古い地質構造に強く規制され、古い正断層(高傾斜角面)が逆断層として活動するテクトニックインバージョンによって主に発生することが考えられている(例えばOkamura et al., 1995)。
我々は、日本海東縁地域で発生した大規模地震周辺の応力場に対する断層面のすべりやすさの検討をSlip Tendency法を用いて行い、低角東傾斜の面が高角西傾斜の面よりすべりやすく、概ね実際に発生した地震の断層面に対応していることを確認した(田上・他, JpGU-AGU Joint Meeting, 2020; 田上・他, 日本地震学会, 2020)。
東北日本の内陸地域においても日本海形成時に活動した高角断層のテクトニックインバージョンが確認されている。そこで、本研究では東北日本内陸地域で発生した3つの大規模地震(1998年岩手県雫石町の地震、2008年岩手・宮城内陸地震、2003年宮城県北部の地震)に着目し応力場に対するすべりやすさの検討を行った。
データと手法
応力場はF-netメカニズム解と2011年東北地方太平洋沖地震緊急合同観測および2019年山形県沖の地震の余震観測などの臨時地震観測データを利用し得られたメカニズム解データ(岡田・他, 2019)を使用し、応力テンソルインバージョン法(Michael, 1984; Michael, 1987)を用いて推定した。応力場に対する断層面のすべりやすさはSlip Tendency 法(Morris et al., 1996)を用いて検討を行った。
結果
2011年東北地方太平洋沖地震の影響を確認するため、1997年から2011年、2011年から2019年の2つの時間枠を設定し、応力場の推定を行った。本震のメカニズム解(F-net)の2つの節面をそれぞれ断層モデルとし、Slip Tendency値(ST値)を算出した。
・1998年岩手県雫石町の地震(Mjma 6.1)
応力場は概ね横ずれ断層型を示した。最大水平圧縮応力方向は1997年-2011年の時間枠でE-W方向、2011年-2019年の時間枠ではWSW-ENE方向であった。1997年-2011年の時間枠では西傾斜の面がより高いST値を示し、2011年-2019年の時間枠では東傾斜の面がより高いST値を示したが、いずれも0.6以下であり、すべりにくい状態であった。
・2008年岩手・宮城内陸地震(Mjma 7.2)
応力場については2011年東北地方太平洋沖地震に加え、本地震前後の変化も考慮し1997年-2008年、2008年-2011年、2011年-2019年の3つの時間枠で応力場の推定を行った。どの時間枠においても逆断層型の応力場を示した。最大水平圧縮応力方向は1997年-2008年と2008年-2011年の応力場ではWNW-ESE方向、2011年-2019年ではNE-SW方向を示した。いずれの時間枠でも、東傾斜の面がより高いST値(0.7以上)を示した。
・2003年宮城県北部の地震(7/26 7:13 Mjma 6.4)
応力場は概ね逆断層型を示した。最大水平圧縮応力方向は1997年-2011年でE-W方向、2011年-2019年でNE-SW方向であった。ST値はいずれも東傾斜の面が0.7以上のST値を示し、西傾斜の面より高いST値を示した。
・全体の傾向
対象とした3つの地震はいずれも先行研究では西傾斜の断層面の傾向が確認されている。本研究では西傾斜の面のST値は東傾斜の面より低く、応力場に対しすべりにくい状態で活動したことが示唆される。その理由として、東北日本の内陸地域では高い間隙流体圧や低い摩擦係数などにより断層強度が低いことが考えられる。
References
岡村行信, 2010, 地質学雑誌, 116(11), 582-591.
岡村行信・加藤幸弘, 2002,『日本海東縁の活断層とテクトニクス』(大竹政和・平朝彦・太田陽子 (編) ), 東京大学出版会, 47-69.
Okamura, Y., Watanabe, M., Morijiri, R., and Satoh, M., 1995, Island Arc, 4(3), 166-181.
Michael, A. J., 1984, Journal of Geophysical Research: Solid Earth, 89(B13), 11517-11526.
Michael, A. J., 1987, Journal of Geophysical Research: Solid Earth, 92(B1), 357–368.
Morris, A., Ferril, D. A., and Henderson, D. B., 1996, Geology, 24(3), 275-278.
Terakawa, T., & Matsu’ura, M., 2010, Tectonics, 29:TC6008.