日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS08] 地震発生の物理・断層のレオロジー

2021年6月4日(金) 17:15 〜 18:30 Ch.14

コンビーナ:金木 俊也(京都大学防災研究所)、大谷 真紀子(東京大学地震研究所)、岡崎 啓史(海洋研究開発機構)、吉田 圭佑(東北大学理学研究科附属地震噴火予知研究観測センター)

17:15 〜 18:30

[SSS08-P07] 準高速すべり速度におけるインド砂岩の摩擦・摩耗特性

*前田 純伶1、山下 太1、大久保 蔵馬1、福山 英一1,2 (1.国立研究開発法人 防災科学技術研究所 、2.京都大学)

断層帯の幅は断層の累積変位量と正の相関があり (e.g., Otsuki, 1978),断層の成熟度や活動度を評価する上で重要な情報である.一方,砂岩内に発達する断層帯は累積変位量に対する幅の増加率(変位量の増加に伴う幅の成長量)が著しく小さいことが明らかにされている(Shipton et al., 2006).Hirose et al. (2012) は石灰岩質砂岩を用いた実験に基づき,断層面に発達するshiny slickenside surfaceが増加率を小さくする可能性を示唆している.しかし,砂岩の摩擦・摩耗特性は構成鉱物や粒径,固結過程の環境により大きく異なると予想されるため,砂岩内に発達する断層帯の幅の増加率が低い要因を明らかにするためには,種類の異なる砂岩の摩擦・摩耗特性を調べる必要がある.

本研究では,その一環として,インドラジャスタン州カラウリに産出する白砂岩(以下,インド砂岩)を実験対象とし,回転式高速剪断摩擦試験機を用いて摩擦・摩耗特性の調査を行う.実験ではインド砂岩を筒状に成形し(外径: 40 mm,内径: 16 mm),室温条件下で低速から中速のすべり速度(等価変位速度:1.2×10-3~8.8×10-2 m/s)で最大300 mのすべり距離まで剪断した.実験中,垂直荷重は0.56 MPaで一定に保った.また,実験中の試料接触面近傍の温度を,赤外放射温度計(KEYENCE IT2-02, IT2-50)を用いて連続的に計測した.本研究では定常すべり時の摩擦係数をターゲットとし,Mizoguchi and Fukuyama (2010)と同様にすべり距離が60-100 mの間で測定された摩擦係数の平均値(μave)を使用する.

本実験結果から,10-3 m/sオーダーのすべり速度では,μaveが約0.5の値を示すのに対し,10-2 m/s以上のすべり速度ではすべり速度の上昇に伴いμaveが約0.2まで低下することが明らかとなった.摩耗率を調べるために軸方向の変位(短縮)の計測を行ったが,1回の実験では有意な変位は認められなかった.そのため,14回の実験で生じた軸方向変位の合計に対する総すべり距離を計算したところ,6.9×10-2 µm/mという非常に低い値が得られた.また,実験後に試料の接触面を確認したところ,全ての実験においてshiny slickenside surfaceが形成されていた.

本実験結果から,インド砂岩は石灰質砂岩(Hirose et al., 2012)に比べ低速-中速のすべり速度における摩擦係数が低いことが判明した.Di Toro et al. (2004) は,石英質岩は摩擦熱が発生しない低速度下においても摩擦強度弱化が発生し,摩擦係数が非常に低いことを明らかにしている.本実験に使用したインド砂岩の構成鉱物の70%弱が石英であることから,この低い摩擦係数は主要構成鉱物である石英の摩擦特性を強く反映していると考えられる.

過去に行われた石灰質砂岩の高速回転剪断試験では,低速時に摩耗が促進され,高速時にはshiny slickenside surfaceが発達することにより摩耗が抑制されることが指摘されている (Hirose et al., 2012).一方,インド砂岩は全てのすべり速度に対して摩耗率が低いことが判明した.この磨耗率の低さは,全てのすべり速度下においてshiny slickenside surfaceが発達し,摩耗が抑制されたためと考えられる.