日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS08] 地震発生の物理・断層のレオロジー

2021年6月4日(金) 17:15 〜 18:30 Ch.14

コンビーナ:金木 俊也(京都大学防災研究所)、大谷 真紀子(東京大学地震研究所)、岡崎 啓史(海洋研究開発機構)、吉田 圭佑(東北大学理学研究科附属地震噴火予知研究観測センター)

17:15 〜 18:30

[SSS08-P13] 長野県西部地域で発生したM3-4クラスの小地震の前震の震源分布について

*野田 雄貴1、飯尾 能久2 (1.京都大学大学院理学研究科、2.京都大学防災研究所)


キーワード:10kHz波形、相対震源決定、前震

大きな地震(本震)の発生する前にその近傍で複数の小さな地震(前震)が発生することがある.また,地震は突然始まるのではなく破壊の「種」,すなわち破壊核形成過程が必要であると考えられており,前震が本震と時空間的に近接して発生することはその背後にある破壊核形成過程の存在を示唆している.破壊核形成過程を非地震性すべりや流体の移動のような地震以外の現象で説明するモデルや,地震そのものの発生により生じる応力変化で説明するモデルが唱えられているが,どちらが実際の前震発生過程をより正確に表しているかという問題は未解決である.そこで本研究では,長野県西部地域で発生したマグニチュードが3~4クラスの地震の前震や余震の震源再決定を行い,前震の時空間発展から前震発生過程について考察した.また,本研究において本震およびその前震は,通常の震源決定法による震源のマグニチュード,発震時の前後関係,震源間の距離から時空間的に定義している.
長野県西部地域では1995年6月から稠密地震観測網が展開されていて,観測点は1984年に発生した長野県西部地震の余震域の東部を中心に設置されている.その中で10kHzのサンプリング周波数でデータを記録しているものが最大で57ヶ所に設置された.この地域で発生する地震は震源が浅いものが多く,さらに観測点の周囲が静かでノイズレベルが小さいため,多数の微小地震データが得られている.各地震の破壊開始点について高精度な相対震源決定を行うために,この稠密地震観測で得られた10kHz波形データを使用し,各観測点における2つの地震のP波到達時刻の差を,P波初動のみを含むような0.01秒幅のウインドウを使って相互相関により求めた.そのようにして求めたP波到達時刻の差を用いて,Ito (1985) を参考に相対震源決定を行った.
再決定後の前震と余震の位置関係において,余震の決定された領域は本震および大半の前震の震源を包含していたが,前震の密集する領域内に決定されている余震は少ない傾向が見られ,このことから前震によるすべりが発生した領域で本震の破壊が始まった可能性が示唆された.また,3.0≦M≦4.3の範囲でM0.1ごとに1つずつ選んだ地震それぞれについて,その地震発生に伴う応力集中により発生したと考えられる余震の発生域の大きさから,1つの地震が発生したときに生じる静的応力の変化により次の地震を発生させることが可能な範囲の上限を推定した.その結果,地震発生により生じる静的応力の変化だけでは説明できない可能性のある前震活動が見つかったが,このことは前震の発生に応力伝達以外の要因があることを示唆している.