日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS08] 地震発生の物理・断層のレオロジー

2021年6月4日(金) 17:15 〜 18:30 Ch.14

コンビーナ:金木 俊也(京都大学防災研究所)、大谷 真紀子(東京大学地震研究所)、岡崎 啓史(海洋研究開発機構)、吉田 圭佑(東北大学理学研究科附属地震噴火予知研究観測センター)

17:15 〜 18:30

[SSS08-P17] 岐阜-長野県境周辺で発生した通常地震と深部低周波地震の震源スペクトル形状の比較解析

*織茂 雅希1、吉田 圭佑1、平 貴昭2、松澤 暢1、長谷川 昭1 (1.東北大学理学研究科付属地震噴火予知研究観測センター、2.カリフォニア大学バークレイ校地震研究所)

キーワード:震源スペクトル

震源スペクトルは地震時の断層破壊の時空間発展の把握のために重要な情報源である。Aki (1967) は地震の震源スペクトルの高周波側が周波数の2乗で減衰するオメガ二乗モデルを提案し、このモデルが観測された地震波の特徴とよく調和することを示した。オメガ二乗モデルは地震の震源スペクトルの標準モデルとして地震の解析に幅広く用いられているが、あらゆる地震がオメガ二乗モデルによりよく記述されるかどうかは自明ではない。深部低周波地震に関しては、震源スペクトルの高周波側が周波数の2乗ではなく1乗程度で緩やかに減衰することを示唆する先行研究 (e.g., Ide et al., 2007; Yoshida et al., 2020) が存在する。2020年4月1日から2020年5月11日までに岐阜―長野県境付近で発生した群発地震活動は震源域が観測点網に囲まれており、通常の地震に加え深部低周波地震も多数発生している。本研究では群発地震活動の地震と周辺の深部低周波地震の震源スペクトルを推定し、その高周波側の減衰の特徴を調べた。

震源スペクトルの推定のために、最初に、コーダ規格化法 (Aki and Chouet, 1975 ; Aki ,1980)を用いて震源域周辺の Q-1 (f)とサイト特性 A(f) の推定を行なった (Takahashi et al., 2005 ; Yoshida et al., 2017)。この方法では、地震の震源スペクトルがオメガ二乗モデルに従うことを仮定する必要がない。研究対象域周辺で発生した44個の地震 (Mjma≧3.0) の地震波形をデータとして用いた。次に、得られたと Q-1(f)A(f) を用いて、研究対象域で発生した通常地震 (Mjma≧2.0) 350個と深部低周波地震35個の震源スペクトルを求めた。

震源スペクトルの形状を定量化するための尺度として、震源スペクトルの高周波側での周波数減衰の冪指数 n を用いることにした。各地震の震源スペクトルに理論スペクトルをフィッティングすることにより、地震モーメント、コーナー周波数、冪指数 n の3つのパラメータを求めた。通常地震について得られた n は平均値が2.05、標準偏差が0.25であった。一方、深部低周波地震について得られた n は平均値が1.93、標準偏差が0.17であった。深部低周波地震に推定された n の平均値の方がやや小さいが、有意な違いは見られず、どちらの地震の場合も基本的にはオメガ二乗モデルに従うようである。推定された n の値は通常地震と深部低周波地震のどちらの場合もある程度ばらついて分布している様子が見られた。得られた n の多様性は、地震ごとに地震時の断層破壊の様式が異なっていることを反映している可能性がある。

本研究では、震源域周辺の Q-1(f) が空間的に変化しないことを仮定して解析を行なった。一方で、深部低周波地震は通常の地震よりも深部で発生するため、実際には代表する Q-1(f) が異なっている可能性も考えられる。このため、本研究で推定した深部低周波地震の震源スペクトル形状が系統的に誤って推定されている可能性は否定できない。Q-1(f) の空間変化を考慮した解析を行うことにより、震源スペクトル形状の多様性についてより詳細な情報が得られると期待される。