日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS08] 地震発生の物理・断層のレオロジー

2021年6月4日(金) 17:15 〜 18:30 Ch.14

コンビーナ:金木 俊也(京都大学防災研究所)、大谷 真紀子(東京大学地震研究所)、岡崎 啓史(海洋研究開発機構)、吉田 圭佑(東北大学理学研究科附属地震噴火予知研究観測センター)

17:15 〜 18:30

[SSS08-P18] 初期亀裂の分布が断層帯の内部構造と透水性に与える影響

*菊池 結花1、上原 真一1、溝口 一生2 (1.東邦大学理学部、2.一般財団法人 電力中央研究所)


キーワード:ダメージゾーン、透水性、初期亀裂の分布、変形実験

断層沿いの透水性を評価することは、たとえば、CO2の地下貯留のリスク評価や、地下水の分布や移動経路の評価、地震のメカニズムに関する知見の拡充など、様々な分野において重要である。断層沿いの透水性は、断層帯の内部構造に強く依存する。断層帯の内部構造は、大きく分けて、断層コアとダメージゾーンという領域で構成されており、これらの占める割合が、透水性に大きな影響を及ぼす(Caine et al., 1996)。ダメージゾーンは、亀裂が網目状に連結した構造であることから、母岩や断層コアと比較して透水性が高くなる傾向にある。よって、ダメージゾーンの構造が、断層帯全体の透水性を決定づけると言える。ダメージゾーンの構造の決定に影響する要素として、様々なものが考えられる。例えば封圧の条件は、岩石の変形機構に影響する。一般に、低温度下では、岩石は低封圧で脆性を示し、封圧が大きくなるにつれ、延性へと遷移することが知られている(Paterson, 1986)。脆性領域での破壊では明瞭な破断面が生成するのに対し、延性領域での破壊では局所的な破断面は生じず試料全体が変形する。したがって、封圧の条件は断層帯の内部構造に影響すると考えることができる。また、岩石の初期亀裂の分布は、岩石の破壊挙動に影響すると考えられる。封圧下での岩石の軸変形実験では、弾性変形領域を超えて変形した場合、微小亀裂の発生や伸展により非弾性変形が起こる(Brace et al, 1966)。したがって、初期亀裂の密度や長さが異なる場合、非弾性変形領域の破壊挙動に影響し、その結果、断層帯の内部構造に影響する可能性がある。しかし、初期亀裂の分布が断層帯の内部構造に与える影響について、系統的に調べられた例はない。そこで本研究では、応力条件と岩石中の初期亀裂の分布が、断層帯の内部構造およびその透水性に及ぼす影響について調べることを目的として、室内岩石変形・透水実験をおこなう。

本研究では、東邦大学の岩石圧縮透水試験機を用いて、変形実験と透水実験をおこなう。透水実験では、定差圧流量法を用いて破断面沿いの透水係数を導出する。さらに、変形後試料について、Wilson et al.(2003)の手法を参考に、ダメージゾーンの幅や亀裂密度を調べる。はじめに、予察的実験として、脆性 – 延性遷移が起こる応力条件を調べることを目的とした、封圧5 ~ 50 MPa下での変形実験をおこなった。実験試料として、インド産の砂岩(構成鉱物: 石英68.2%, 斜長石9.5%, カリ長石18.2%, 雲母0.7%, その他3.3%. 高知コア研究所より情報提供)を、直径20 mm、長さ50 mmの円柱形に整形し、イオン交換水で飽和したものを用いた。その結果、封圧5 ~ 20 MPaでは脆性を示し、30, 50 MPaでは徐々に延性を示した。本研究では、特にダメージゾーンの構造と透水性に注目するため、これらの計測が容易である単一の破断面が生成した条件を対象として評価する予定である。そのため今後の実験は、封圧5 ~ 20 MPa下でおこなう。

次に、初期亀裂の分布が異なる試料の作成方法の検討のため、整形後、加熱(温度上昇率: 2℃/min, 目的温度で1時間加熱)冷却処理を施した試料を作成し、間隙率を計測した。間隙率は、水で飽和させた試料の重量から乾燥状態の試料の質量を差し引くことで岩石中の空隙の体積を求め、これを試料の体積で割ることで算出した。作成した試料は、加熱冷却処理を施さない試料(未加熱試料)、650℃で加熱し、加熱炉内に静置することで緩やかに冷却(温度低下率: -3℃/min)した試料(650℃_slow)、650℃に加熱し、加熱終了後すぐに氷水に入れ、急激に冷却した試料(650℃_rapid)、900 ℃で加熱し、緩やかに冷却した試料(900℃_slow)の計4種類である。測定の結果、間隙率は、未加熱試料では11.5%、650℃_slowでは11.7%、650℃_rapidでは13.2%、900 ℃_slowでは14.6%となった。加熱冷却処理を施した試料は、どれも未加熱試料と比較して間隙率が高くなったことから、加熱冷却処理により、試料に含まれる初期亀裂の体積が変化したと考えられる。これらの試料を用いて、封圧10 MPaでの変形実験をおこなったところ、処理方法に関わらずすべての実験で脆性破壊がみられた。一方で、未加熱試料の最大差応力が約100 MPaであったのに対し、900 ℃_slowでは約170 MPaであり、900℃で加熱処理した試料は未加熱試料と比較して破壊強度が高くなった。この理由として、加熱処理により実験試料を構成する鉱物が変性した可能性が考えられる。変形実験において、内部亀裂の分布以外の条件は可能な限り同じであることが望ましいため、今後の実験では、900℃_slowは使用しないこととする。実験結果を踏まえ、今後の変形・透水実験では、初期亀裂の分布の異なる試料として、未加熱試料と、650℃で加熱処理した試料2種類を使用し、Pcは5 ~ 20 MPaに設定する。

<参考文献> Brace, W.F., Paulding, B.W., Jr, & Scholz, C.H., 1966, Dilatancy in the fracture of crystalline rocks, Journal of Geophysical Research, 71(16), 3939 - 3953; Caine, J.S., Evans, J.P., & Forster, C.B., 1996, Fault zone architecture and permeability structure, Geology, 24(11), 1025 - 1028; Paterson, M.S., 1986, Experimental rock deformation – The brittle field, Springer – Verlag Berlin Heidelberg New York; Wilson, J.E., Chester, J.S., & Chester, F.M., 2003, Microfracture analysis of fault growth and wear processes, Punchbowl Fault, San Andreas system, California, Journal of Structural Geology, 25, 1855 - 1873.