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[SSS10-02] 北伊豆断層帯の丹那断層と分岐断層の活動の連動性
キーワード:北伊豆断層帯、丹那断層、分岐断層、静的クーロン応力変化(⊿CFF)、2016年熊本地震
伊豆半島北東部には,ほぼ南北走向の北伊豆断層帯が分布し,主たる左横ずれ断層である丹那断層と浮橋中央断層の東側一帯には,主に南東方向に派生する分岐断層が分布する(地震調査研究推進本部,2005).1930年の北伊豆地震時に,一部の分岐断層で変位が報告されており(松田,1972),北伊豆断層帯の主体をなす丹那断層との連動破壊が示唆されるが,活動の連動性(丹那断層の活動によって,分岐断層の変位が誘発されるか)については明らかでない.活断層の連動性を検討することは,主断層に沿った地域以外に地表変位が生じる可能性がある場所の推定など,活断層周辺の構造物の防災対策にとって重要である.また,活動度の高い活断層の周辺に分布する活断層の評価や,断層変位地形の発達過程を考える上でも重要である.そこで本研究では,高精度航空レーザー測量データを用いた地形判読と現地踏査を行い,地形判読で堰き止め谷とされた分岐断層沿いの地点で掘削調査を実施し,活断層の詳細な分布・形状,分岐断層の変位速度を明らかにした.さらに,丹那断層の活動が分岐断層に与える静的クーロン応力変化(⊿CFF)を計算し,それらを基に,丹那断層と分岐断層の活動の連動性について検討した.
本研究では,まず,地形判読と判読した活断層の踏査を行い,活断層分布図を作成した.その結果,北伊豆断層帯は主に雁行する左横ずれ断層によって構成され,北端部の芦ノ湖の南や南端部の早霧湖周辺では,東西走向の右横ずれ断層が分布することが分かった.丹那断層と浮橋中央断層の東側には,主に北西―南東走向の分岐断層が分布し,変位のセンスに基づいて,分岐断層を3つのタイプに区分した.タイプ1は,主に北西―南東走向の右横ずれを主体とする活断層,タイプ2は,芦ノ湖南東の顕著な地溝状の構造を呈する北西―南東走向の正断層,タイプ3は,タイプ2には含まれない,主に北西―南東走向の上下変位を主体とする活断層である.そして,明瞭な堰き止め地形(堰き止め谷)が認められる分岐断層のタイプ2,タイプ3のそれぞれの活断層(タイプ2:YG断層,タイプ3:NM断層)沿いで掘削調査を実施し,掘削コアのテフラ分析を行った.その結果,富士宝永スコリアテフラ(AD1707;町田・新井,2003),神津島天上山テフラ(AD838;町田・新井,2003),富士砂沢スコリアテフラ(約3.0 ka;産業技術総合研究所,2021),天城カワゴ平テフラ(約3.2 ka;Tani et al., 2013),鬼界アカホヤテフラ(約7.2 ka;Smith et al., 2013)が認められた.テフラの年代に基づく堰き止め開始時期と地形から求めた累積変位量を用いて,分岐断層であるYG断層とNM断層の上下変位速度を求めたところ,B級程度(0.1-1.0 mm/yr)の可能性があることがわかった.
さらに,丹那断層が分岐断層に与える静的クーロン応力変化(⊿CFF)の計算を行い,丹那断層が分岐断層の活動を促進・抑制するかを調べたところ,結果は以下のようになった.タイプ1に対する⊿CFFの値は正となり,丹那断層の活動がタイプ1の活動を誘発する可能性が高い.タイプ2に対する⊿CFFの値は負となり,静的クーロン応力変化の観点からは,丹那断層の活動がタイプ2の活動を誘発する可能性は低い.しかし,熊本鞍岳地域の正断層群と伊豆丹那地域の正断層群に複数の類似点が認められ,Fujiwara et al.(2020)で述べられている2016年熊本地震の事例と同様に,丹那断層が起こす地震動による動的応力変化によって,タイプ2の変位が誘発される可能性が考えられる.タイプ3(NM断層:2条のタイプ1に挟まれた領域に位置する活断層)に対する⊿CFFの値は負となり,丹那断層の活動がタイプ3の活動を誘発する可能性は低い.しかし,周辺のタイプ1の分岐断層が丹那断層に誘発され,活動するとき,かつタイプ1の分岐断層の横ずれ変位量が,Wells and Coppersmith(1994)の経験式から得られる値の2-3倍になる場合,タイプ3(NM断層)に対する⊿CFFの値は正となる.したがって,このような特殊な場合に限り,タイプ3の活動が誘発される可能性がある.これらをまとめると,北伊豆断層帯の分岐断層は,丹那断層と連動して活動する可能性が考えられ,連動破壊する要因は⊿CFFや動的応力変化など,分岐断層の位置・形態・変位のセンスなどによって様々な要因があると考えられる.また,熊本地域の地形図を左右反転させ,右横ずれの布田川・日奈久断層帯の変位センスを伊豆地域の左横ずれの北伊豆断層帯に合わせ,両地域を比較したところ,火山(カルデラ)と活断層の位置関係,断層帯に対するタイプ2の正断層群の位置,断層帯周辺の活断層の分布・形状に一致が認められ,両地域の地形配置の類似性が認められた.このような類似性は,活断層の発達や発現に両地域に共通する地形,地質,応力場などが関係していることを示唆しており,今後の研究が期待される.
本研究では,まず,地形判読と判読した活断層の踏査を行い,活断層分布図を作成した.その結果,北伊豆断層帯は主に雁行する左横ずれ断層によって構成され,北端部の芦ノ湖の南や南端部の早霧湖周辺では,東西走向の右横ずれ断層が分布することが分かった.丹那断層と浮橋中央断層の東側には,主に北西―南東走向の分岐断層が分布し,変位のセンスに基づいて,分岐断層を3つのタイプに区分した.タイプ1は,主に北西―南東走向の右横ずれを主体とする活断層,タイプ2は,芦ノ湖南東の顕著な地溝状の構造を呈する北西―南東走向の正断層,タイプ3は,タイプ2には含まれない,主に北西―南東走向の上下変位を主体とする活断層である.そして,明瞭な堰き止め地形(堰き止め谷)が認められる分岐断層のタイプ2,タイプ3のそれぞれの活断層(タイプ2:YG断層,タイプ3:NM断層)沿いで掘削調査を実施し,掘削コアのテフラ分析を行った.その結果,富士宝永スコリアテフラ(AD1707;町田・新井,2003),神津島天上山テフラ(AD838;町田・新井,2003),富士砂沢スコリアテフラ(約3.0 ka;産業技術総合研究所,2021),天城カワゴ平テフラ(約3.2 ka;Tani et al., 2013),鬼界アカホヤテフラ(約7.2 ka;Smith et al., 2013)が認められた.テフラの年代に基づく堰き止め開始時期と地形から求めた累積変位量を用いて,分岐断層であるYG断層とNM断層の上下変位速度を求めたところ,B級程度(0.1-1.0 mm/yr)の可能性があることがわかった.
さらに,丹那断層が分岐断層に与える静的クーロン応力変化(⊿CFF)の計算を行い,丹那断層が分岐断層の活動を促進・抑制するかを調べたところ,結果は以下のようになった.タイプ1に対する⊿CFFの値は正となり,丹那断層の活動がタイプ1の活動を誘発する可能性が高い.タイプ2に対する⊿CFFの値は負となり,静的クーロン応力変化の観点からは,丹那断層の活動がタイプ2の活動を誘発する可能性は低い.しかし,熊本鞍岳地域の正断層群と伊豆丹那地域の正断層群に複数の類似点が認められ,Fujiwara et al.(2020)で述べられている2016年熊本地震の事例と同様に,丹那断層が起こす地震動による動的応力変化によって,タイプ2の変位が誘発される可能性が考えられる.タイプ3(NM断層:2条のタイプ1に挟まれた領域に位置する活断層)に対する⊿CFFの値は負となり,丹那断層の活動がタイプ3の活動を誘発する可能性は低い.しかし,周辺のタイプ1の分岐断層が丹那断層に誘発され,活動するとき,かつタイプ1の分岐断層の横ずれ変位量が,Wells and Coppersmith(1994)の経験式から得られる値の2-3倍になる場合,タイプ3(NM断層)に対する⊿CFFの値は正となる.したがって,このような特殊な場合に限り,タイプ3の活動が誘発される可能性がある.これらをまとめると,北伊豆断層帯の分岐断層は,丹那断層と連動して活動する可能性が考えられ,連動破壊する要因は⊿CFFや動的応力変化など,分岐断層の位置・形態・変位のセンスなどによって様々な要因があると考えられる.また,熊本地域の地形図を左右反転させ,右横ずれの布田川・日奈久断層帯の変位センスを伊豆地域の左横ずれの北伊豆断層帯に合わせ,両地域を比較したところ,火山(カルデラ)と活断層の位置関係,断層帯に対するタイプ2の正断層群の位置,断層帯周辺の活断層の分布・形状に一致が認められ,両地域の地形配置の類似性が認められた.このような類似性は,活断層の発達や発現に両地域に共通する地形,地質,応力場などが関係していることを示唆しており,今後の研究が期待される.