日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS10] 活断層と古地震

2021年6月4日(金) 09:00 〜 10:30 Ch.21 (Zoom会場21)

コンビーナ:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、白濱 吉起(国立研究開発法人産業技術総合研究所地質調査総合センター活断層火山研究部門活断層評価研究グループ)、佐藤 善輝(産業技術総合研究所 地質情報研究部門 平野地質研究グループ)、吉見 雅行(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、座長:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、白濱 吉起(国立研究開発法人産業技術総合研究所地質調査総合センター活断層火山研究部門活断層評価研究グループ)

10:15 〜 10:30

[SSS10-06] 岐阜県北部,古川断層帯稲越断層の活断層露頭

*田村 友識1、大橋 聖和1、丸尾 渚1 (1.山口大学大学院創成科学研究科)


キーワード:稲越断層、活断層露頭、変動地形、1858年(安政5年)飛越地震

稲越断層は,岐阜県飛騨市に位置する古川断層帯を構成する活断層の一つであり,NE–SW~ENE–WSW方向に約13 km連続する(鈴木・杉戸, 2010; 熊原, 2019; 熊原ほか, 2019).断層東部では活断層露頭が報告されているが(岐阜県活断層研究会編, 2008),地形的に栗ヶ谷川地域にまで続くとされている断層西側では,断層露頭などの直接的な証拠は報告されていない.本発表では,稲越断層西部で新たに発見した活断層露頭の詳細を報告するとともに,稲越断層西部の最新活動イベントを議論する.

断層帯は幅約5 mの断層ガウジ・断層角礫帯から構成され,地形学的に検出された断層トレース(鈴木・杉戸, 2010; 熊原, 2019; 熊原ほか, 2019)の直上にある.この断層帯の大局的な走向傾斜はN55° E85° Sであり,断層ガウジ中にはP面とR1面からなる右横ずれの複合面構造が認められる.断層帯の上部は未固結の砂礫層が不整合で覆うが,一部,断層帯に落ち込んで分布する.断層ガウジ帯近傍の礫の長軸は鉛直方向を向き,礫表面に条線が認められる.砂礫層中には一部腐植土が含まれており,その放射性炭素年代はAD1527–1658年であった.

上述の通り,本断層露頭は稲越断層の断層トレース直上に位置し,その走向も調和的である.また,断層ガウジの複合面構造から右横ずれのせん断センスが認められ,変動地形とも整合的である.以上の証拠から,本断層露頭は稲越断層の中軸部(断層コア)であると考えられる.また,断層を覆う砂礫層は,断層帯に挟まれる部分が認められることや礫に条線や長軸方向の定向性がみられることから,断層運動によってできた開口割れ目に入り込み変形したと考えられる.このイベント年代は,砂礫層の放射性炭素年代測定の結果から,AD1527–1658年以降である.岐阜県北部で発生した歴史地震には,1586年(天正13年)の天正地震,1826年(文政9年)高山周辺飛騨大野郡の地震(M6.0),1855年(安政2年)飛騨白川・金沢郷周辺の地震(M6.8),1858年(安政5年)飛越地震があり(宇佐美, 1987),稲越断層はこれらいずれかの地震に伴って活動した可能性がある.