日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS10] 活断層と古地震

2021年6月4日(金) 10:45 〜 12:15 Ch.21 (Zoom会場21)

コンビーナ:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、白濱 吉起(国立研究開発法人産業技術総合研究所地質調査総合センター活断層火山研究部門活断層評価研究グループ)、佐藤 善輝(産業技術総合研究所 地質情報研究部門 平野地質研究グループ)、吉見 雅行(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、座長:佐藤 善輝(産業技術総合研究所 地質情報研究部門 平野地質研究グループ)、吉見 雅行(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)

10:45 〜 11:00

[SSS10-07] 奈良盆地東縁断層帯の帯解断層と天理断層の活動履歴と変位速度

★招待講演

*堤 浩之1、杉戸 信彦2、木村 治夫3、川嶋 渉造1、森島 虎之助1、谷口 薫4、小俣 雅志4 (1.同志社大学理工学部環境システム学科、2.法政大学人間環境学部、3.電力中央研究所、4.株式会社パスコ)

キーワード:奈良盆地東縁断層帯、帯解断層、天理断層、トレンチ掘削調査、ボーリングデータ、活動履歴

奈良盆地東縁断層帯は,京都盆地の南東部から奈良盆地の南東端付近まで延びる東傾斜の逆断層帯である.これまでの古地震調査では活動履歴や変位速度が精度良く解明されていないため,今後30年間の地震発生確率の見積もりが0〜5 %と幅広い.2019〜2021年度に,文部科学省の委託事業として「奈良盆地東縁断層帯における重点的な調査観測」(研究代表者:京都大学防災研究所教授・岩田知孝)を実施している.その中で,断層のマッピングや変位速度の算出・活動履歴の解明を主目的とした調査を進めている.本報告では,奈良盆地域の帯解断層や天理断層を対象に行った調査結果を紹介する.

 縮尺1万分の1の米軍空中写真の判読や航空レーザ測量による0.5 mメッシュの標高データの解析により,活断層をマッピングし,活動履歴調査候補地を選定した.奈良市今市町では,帯解断層が中位段丘を切って形成する明瞭な撓曲崖の南方延長に,沖積面を横切る比高約1 mの西落ちの低崖を確認した.この低崖の周辺で,2020年度にGPR探査・トレンチ掘削調査・群列ボーリング調査を実施した.2020年4月に低崖を横切って実施したGPR探査により,低崖の数 m東側で地層の西への急傾斜が確認されたため,2020年12月にトレンチ掘削調査を行った.長さ約9 m,深さ約2 mのトレンチの壁面には,西へ流下した河川の堆積物と湿地性のシルト層が現れた.断層は現れなかったが,地層は西もしくは南西へ傾き,逆断層運動に伴う変形構造であると解釈した.液状化跡や開口亀裂も認められた.地層の変形構造から,2回の断層運動の痕跡を認定した.断層運動の時期を明らかにするために,壁面から採取された試料の放射性炭素年代測定を行っている.

 奈良市八島町では,天理断層の東側に幅約100 mの細長い開析谷が東西方向に発達している.谷底面の北半部は,東西方向に延びる段丘崖を境として南半部よりやや高く,沖積段丘面となっている.この沖積段丘面の西縁は比高約2 mの西落ち低断層崖によって限られる.谷底面には変動崖は認められない.沖積段丘面と谷底面の形成時期を明らかにするために,2020年12月に,深さ約2 mのピットを人力で掘削した.それぞれのピットの壁面には,大阪層群とそれを覆う段丘礫層・フラッドローム層が現れた.谷底面の段丘礫層から採取された炭から,980±30 yBPと1030±30 yBPの年代値が得られ,谷底面の年代時期がおよそ1000 yBPであること,すなわち天理断層の最新活動がそれ以前であることが明らかとなった.沖積段丘礫層からは年代測定可能な試料が得られなかった.

 奈良盆地東縁に分布する活断層の変位速度や変形帯の幅を明らかにするために,「関西圏地盤情報データベース」を用いて断層を横切る地質断面図を作成した.帯解断層の周辺では,低位段丘礫層の上面をボーリングデータで連続的に追うことができる.大和郡山市石川町で作成した断面では,帯解断層によって低位段丘礫層の上面が約9 m西落ち撓曲変位し,変形帯の幅は約500 mであることが明らかとなった.低位段丘面構成層からは2.5〜3万年の放射性炭素年代値が得られているので,帯解断層の上下変位速度は0.3〜0.4 mm/yrと求められる.