日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS10] 活断層と古地震

2021年6月4日(金) 17:15 〜 18:30 Ch.15

コンビーナ:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、白濱 吉起(国立研究開発法人産業技術総合研究所地質調査総合センター活断層火山研究部門活断層評価研究グループ)、佐藤 善輝(産業技術総合研究所 地質情報研究部門 平野地質研究グループ)、吉見 雅行(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)

17:15 〜 18:30

[SSS10-P01] 断層の活動性と断層ガウジの化学組成の関係:線形判別分析による試み

*立石 良1、島田 耕史2、丹羽 正和2、末岡 茂2、清水 麻由子2、菅野 瑞穂2、石井 千佳子2、石丸 恒存2 (1.富山大学、2.日本原子力研究開発機構)

キーワード:断層ガウジ、活断層、化学組成

はじめに:活断層の認定は,現在の地形及び第四紀後期の被覆層の変位・変形によりなされるが,第四紀の被覆層が存在しない地域における断層の活動性の決定は困難となる.この場合,断層の物理的・化学的性質に着目し,活断層と既に活動を終えた断層の活断層(ここでは非活断層と呼ぶ)の違いを見出すことになる.両者の大きな違いは最新活動後の経過時間であり,活断層が概ね100年から104年オーダーと考えられるのに対して,非活断層は105年以上である.従って,断層活動により生じる現象は両者とも同じであったとしても,その後の断層活動休止期間に生じる累積的な変化は大きく異なる可能性がある.このような累積的な変化が普遍的に生じていることが確認されれば,活断層の認定に応用できる可能性がある.筆者らは,この考えに基づき,断層の化学組成に着目して研究を進めている.立石ほか(2019,2020)は,国内における活断層と非活断層の断層ガウジの化学組成データを用いて線形判別分析を行い,両者を高確率で識別できること,両者の違いがいくつかの元素により表されることを示した.本研究では,花崗岩を母岩とするデータを用いて同様の解析を行い,解析結果と断層の活動性との関係について検討した.なお,活断層のデータは横ずれ断層のものに限定した.
手法:まず,文献を収集し,国内の断層ガウジの化学組成データを抽出した.これと同時に,原子力機構保有の断層ガウジ試料の化学分析を行い,両者を統合した.なお,これらのデータには,活動性に関する2つの分類を与えた.次に,できるだけ試料数が多くなるように元素を取捨選択し,そのデータに対数比変換(Aitchison, 1986;太田・新井,2006)を施した.さらに,そこから判別に適した元素を抽出するため,赤池情報量基準(AIC:Akaike,1973)を用いて変数選択を行った.最後に,AICで選択された元素の組合せを説明変数として線形判別分析を行った.線形判別分析は,多次元における2群の中心点を基準として,2群が最も良く分かれる判別式を一次式として求める手法である.今回のように元素を説明変数とした場合,判別式の形はY=β1×SiO2+β2×TiO2+...-αという形をとる.ここで,Yは判別得点,αとβは判別係数で,Yの正負でどちらの群に属するかが決まる.なお,Yの絶対値は,他方の群からの距離を示す.本研究の場合,Yが負の場合は活断層,正の場合は非活断層と判別されたことになる.


結果:文献収集により,公表論文8編と原子力機構の報告書7編から断層岩の化学組成データを抽出した.これに原子力機構保有の断層岩51試料の化学分析結果を加えた総数327試料のデータベースから断層ガウジのデータを抽出し,説明変数の候補となる元素をSiO2,TiO2,Al2O3,Fe2O3*,MnO,MgO,CaO,Na2O,K2O,P2O5,Ba,Rb,Sr,Th,Yの15元素とした.断層ガウジのデータの数は,活断層45試料,非活断層51試料の合計96試料である.次いでAICを行った結果,TiO2、Al2O3、MnO、CaO、Na2O、K2O、P2O5、Ba、Rb、Sr、Thの11元素が説明変数の候補として選択された.これらの結果から,①AICで選択された11元素,②AICでp値が0.01未満となった4元素(TiO2,Ba,Rb,Sr),③AICでp値が0.001未満となった3元素(TiO2,Rb,Sr)の組合せで線形判別分析を行った.その結果,活断層と非活断層の判別率は①で96%,②で86%,③で84%となった.

判別結果/元素濃度と断層の活動性との関係に関する考察:①②③のうち,判別率の高かった①について,試料を採取した断層の最新活動時期を,新しいものからI〜Vの5つに区分し,判別得点と元素濃度を比較した.なお,I〜IVは活断層,Vは非活断層の区分である.その結果,ばらつきはあるものの,判別得点がクラスIからクラスVへ高くなる傾向が認められた.また,元素濃度はTiO2とP2O5でクラスIからクラスVへ低く,ThとYはクラスIからクラスVへ高くなる傾向が認められた.これらの元素の遷移は,断層活動後の経過時間に大きなギャップがあると推測されるクラスI〜IVとクラスVの間に折れ点が認められ,いずれもVの変化がごく小さくなる.これらのことから,TiO2とP2O5は断層活動で濃集したものが,その後の活動休止期間に溶脱していく過程が想起され,ThとYは断層活動で溶脱し,活動休止期間に濃集していく過程が考えられる.この中で,一般にTiは移動しにくい元素とされており,このような遷移が生じるとは考えにくい.しかし, Pe-Piper et al. (2011) は,白亜系砂岩中から産するチタン鉱物の晶出過程を議論した上で,Tiは不動元素ではないと主張している.この主張が正しいとすると,Tiは移動しにくくとも不動ではなく,断層活動のような激しい現象で大きく移動し,その後の休止期間にゆっくりと溶脱した可能性がある.また,このような元素移動は,ある程度の時間が経過すると落ち着くものと考えられる.

本報告は経済産業省資源エネルギー庁委託事業「令和2年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(地質環境長期安定性評価技術高度化開発)」の成果の一部である.

引用文献:Aitchison, J., ed., The statistical analysis of compositional data, Chapman & Hall, London, 416p, 1986;Akaike, H., Proceedings of the 2nd International Symposium on Information Theory, Petrov, B. N., and Caski, F. (eds.), p. 267-281, 1973;Pe-Piper et al., J. Sed. Res., 81, 9, 762, 2011;太田・新井,地質学雑誌,112,p.173-187,2006;立石ほか,日本地球惑星科学連合2019年大会,SSS15-P27,2019;立石ほか,JpGU-AGU Joint Meeting 2020,SSS16-P14,2020.