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[SSS10-P12] 地震発生層以浅の構造を考慮した断層近傍の強震動予測モデルの検討 ―2016年熊本地震を例として
キーワード:断層モデル、浅部地殻内地震、地表地震断層、熊本地震
1.はじめに
熊本地震など活断層による浅部地殻内地震では,1)断層直上での地盤の変位・変形,2)断層近傍の強震動,によって構造物の被害が予測される.特に都市直下の活断層による被害や経済的損失はきわめて甚大となる.断層変位については,活断層の分布や変形様式の調査や過去の地表地震断層の出現形態の解析が有用であるが,強震動については断層近傍に特化した予測手法の検討は現在も十分には進んでいない.特に,熊本地震などで断層近傍の強震動が浅部構造に影響を受けることが指摘されている(Irikura et al., 2016)にも関わらず,地震発生層上端付近よりも浅い部分を考慮した検討は少ない.このことから,著者らは活断層近傍に着目した強震動予測手法を構築することを目的とした研究を進めている.本発表では特に地震発生層以浅の断層モデルの取り扱い方についての検討を報告する.
2.断層モデル設定方法の検討
著者らはこれまでに断層近傍地域の地盤変形および強震動を予測するための断層モデル形状の詳細化について検討してきた(乗松・遠田,2020:地震学会秋季大会).その結果,地震発生層以浅の断層形状が断層近傍の地盤変形および強震動に強く影響することを確認した.特に地震発生層以浅の構造を断層モデルの中に考慮するか否かで,変位や地震動の規模,分布の傾向に大きな違いが生じた.スリップパーティショニングを生じる分岐断層や上端形状の複雑さを予めモデルに反映することで予測精度の向上が期待できる結果となった.本研究では,更に熊原ほか(2016)による地表地震断層分布をもとに断層モデル上端形状を詳細に設定し,Toda et al.( 2016)で示唆された出ノ口断層と布田川断層の並走形状をモデルに反映した.その結果,熊本地震で生じた建物被害の特徴(吉見・遠田,2020:活断層学会)を説明できる可能性があることがわかった.特に断層トレースの折れ曲がりや並走のような,形状が複雑で変位が集中する地域で地震動が大きくなり,実際の建物被害の分布と整合する結果となった.
3.地震発生層以浅の強震動の検討
現在,「強震動レシピ(地震本部,2017)」は強震動評価の標準的な方法を示すモデルとして一般に使用されている.しかし「強震動レシピ」は地震発生層内のみを対象とする手法であり,地震発生層以浅を対象とした強震動評価方法について標準的な手法は確立されていない.一方,地震発生層以浅では物性や断層の挙動が地震発生層内と異なっている可能性がある.引間ほか(2012)や田中ほか(2017)では地震発生層内と地震発生層以浅ですべり速度時間関数の形状が異なっていることを示唆している.また,田中ほか(2017)では地震発生層以浅のすべり速度時間関数として規格化Yoffe関数(Tinti et al., 2005)を使用することを提言している.本研究においても,波数積分法による強震動シミュレーションに規格化Yoffe関数を導入することを検討した.地震発生層以浅のすべり速度時間関数を規格化Yoffe関数とし,地震発生層内のすべり速度時間関数を「強震動レシピ」を参考に中村・宮武関数(中村・宮武,2000)とした.地震発生層以浅のすべり速度関数を見直すことにより,計算波形の過大評価を低減できる可能性が見られた.今後,観測波形の再現性についてどのように寄与するか詳細に検討をすすめる.
4.まとめと課題
これまでの検討において,浅部の構造が断層近傍の強震動や地盤変形に大きく影響する可能性が示された.断層近傍地域の防災・減災を進める上では断層浅部を対象とした断層モデル設定方法や強震動計算手法の検討は重要である.断層浅部の構造を十分に考慮して詳細な断層モデルを設定するためには,地表地震断層や活断層などの地形・地質情報の活用は有効であり,これらの情報は過去の地震を説明する断層モデルの設定のみならず,活断層による強震動予測モデルを想定する場合にも有効である.また,今後の課題として,地震発生層以浅のモーメント量の扱い方について検討が必要である.地表面付近における応力降下量については,今のところ詳細かつ明確な推定基準がない.実際は無視できる程度に小さい地震モーメントしか発生させないのか,あるいは地下深部と同様のモーメント量を仮定すべきなのか,地震発生層以浅の扱い方を整理し,手法を検討していく必要がある.
熊本地震など活断層による浅部地殻内地震では,1)断層直上での地盤の変位・変形,2)断層近傍の強震動,によって構造物の被害が予測される.特に都市直下の活断層による被害や経済的損失はきわめて甚大となる.断層変位については,活断層の分布や変形様式の調査や過去の地表地震断層の出現形態の解析が有用であるが,強震動については断層近傍に特化した予測手法の検討は現在も十分には進んでいない.特に,熊本地震などで断層近傍の強震動が浅部構造に影響を受けることが指摘されている(Irikura et al., 2016)にも関わらず,地震発生層上端付近よりも浅い部分を考慮した検討は少ない.このことから,著者らは活断層近傍に着目した強震動予測手法を構築することを目的とした研究を進めている.本発表では特に地震発生層以浅の断層モデルの取り扱い方についての検討を報告する.
2.断層モデル設定方法の検討
著者らはこれまでに断層近傍地域の地盤変形および強震動を予測するための断層モデル形状の詳細化について検討してきた(乗松・遠田,2020:地震学会秋季大会).その結果,地震発生層以浅の断層形状が断層近傍の地盤変形および強震動に強く影響することを確認した.特に地震発生層以浅の構造を断層モデルの中に考慮するか否かで,変位や地震動の規模,分布の傾向に大きな違いが生じた.スリップパーティショニングを生じる分岐断層や上端形状の複雑さを予めモデルに反映することで予測精度の向上が期待できる結果となった.本研究では,更に熊原ほか(2016)による地表地震断層分布をもとに断層モデル上端形状を詳細に設定し,Toda et al.( 2016)で示唆された出ノ口断層と布田川断層の並走形状をモデルに反映した.その結果,熊本地震で生じた建物被害の特徴(吉見・遠田,2020:活断層学会)を説明できる可能性があることがわかった.特に断層トレースの折れ曲がりや並走のような,形状が複雑で変位が集中する地域で地震動が大きくなり,実際の建物被害の分布と整合する結果となった.
3.地震発生層以浅の強震動の検討
現在,「強震動レシピ(地震本部,2017)」は強震動評価の標準的な方法を示すモデルとして一般に使用されている.しかし「強震動レシピ」は地震発生層内のみを対象とする手法であり,地震発生層以浅を対象とした強震動評価方法について標準的な手法は確立されていない.一方,地震発生層以浅では物性や断層の挙動が地震発生層内と異なっている可能性がある.引間ほか(2012)や田中ほか(2017)では地震発生層内と地震発生層以浅ですべり速度時間関数の形状が異なっていることを示唆している.また,田中ほか(2017)では地震発生層以浅のすべり速度時間関数として規格化Yoffe関数(Tinti et al., 2005)を使用することを提言している.本研究においても,波数積分法による強震動シミュレーションに規格化Yoffe関数を導入することを検討した.地震発生層以浅のすべり速度時間関数を規格化Yoffe関数とし,地震発生層内のすべり速度時間関数を「強震動レシピ」を参考に中村・宮武関数(中村・宮武,2000)とした.地震発生層以浅のすべり速度関数を見直すことにより,計算波形の過大評価を低減できる可能性が見られた.今後,観測波形の再現性についてどのように寄与するか詳細に検討をすすめる.
4.まとめと課題
これまでの検討において,浅部の構造が断層近傍の強震動や地盤変形に大きく影響する可能性が示された.断層近傍地域の防災・減災を進める上では断層浅部を対象とした断層モデル設定方法や強震動計算手法の検討は重要である.断層浅部の構造を十分に考慮して詳細な断層モデルを設定するためには,地表地震断層や活断層などの地形・地質情報の活用は有効であり,これらの情報は過去の地震を説明する断層モデルの設定のみならず,活断層による強震動予測モデルを想定する場合にも有効である.また,今後の課題として,地震発生層以浅のモーメント量の扱い方について検討が必要である.地表面付近における応力降下量については,今のところ詳細かつ明確な推定基準がない.実際は無視できる程度に小さい地震モーメントしか発生させないのか,あるいは地下深部と同様のモーメント量を仮定すべきなのか,地震発生層以浅の扱い方を整理し,手法を検討していく必要がある.