日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS11] 強震動・地震災害

2021年6月6日(日) 09:00 〜 10:30 Ch.18 (Zoom会場18)

コンビーナ:染井 一寛(一般財団法人地域地盤環境研究所)、松元 康広(株式会社構造計画研究所)、座長:津田 健一(清水建設 株式会社 技術研究所)、岩城 麻子(防災科学技術研究所)

09:30 〜 09:45

[SSS11-09] データ駆動型強震動予測モデルにおける地震動シミュレーションデータの活用の可能性

*岩城 麻子1、藤原 広行1、森川 信之1、前田 宜浩1 (1.防災科学技術研究所)

キーワード:強震動予測、地震ハザード評価、地震動予測式、地震動シミュレーション

強震動予測において,震源・波動伝播モデルに基づく地震動シミュレーション(しばしばphysics-based simulation; PBSと呼ばれる)は震源・地下構造モデルの高度化や計算技術・性能の向上により高精度かつ大量に実施することが近年可能になりつつある.PBSは観測データの回帰による地震動予測式(ground-motion prediction equation; GMPE)による方法と比べ,多様な震源過程や三次元地下構造モデル中の伝播過程を反映でき,これは複雑なテクトニクス環境の上に成り立つ日本において重要視される点である.

一方,確率論的地震ハザード評価(probabilistic seismic hazard assessment; PSHA)の観点からは,世界的に見ても最も実用的な強震動予測モデルはやはりGMPEである.我々のチームでは,日本におけるPSHAの課題解決のため,データ駆動型強震動予測モデル構築のための基盤となる強震観測データベースの構築を開始している(藤原・他および森川・他2021,本大会).

現状のGMPEによる強震動予測における課題として,断層近傍地震動など観測記録が不足している稀な事象に対する予測性能が担保されていない点や,複雑な波動伝播効果が反映される地震動,例えば巨大地震時の平野部等での長周期地震動を表現しにくい点が挙げられる.そこで,観測記録の時空間的な不足やGMPEが不得手とする部分をPBSデータで補い融合させることを試みる.

PSHAにおいてPBSデータを活用する例として,断層近傍強震動の特徴を補正する目的でのPBSデータ導入や(NGA-West2など),大量のPBSデータそのものに基づくPSHAの試み(CyberShakeなど)がある.本研究では,日本の地震ハザード評価のための強震動予測モデル構築への適用を念頭に,観測データベースの不足を補うPBSデータベースの構築を目指し,PBSデータの適用性について検討する.

PBSデータの一例として,関東地域における複数のM7クラスの主要活断層帯について断層モデルに基づく広帯域地震動シミュレーションを実施し,K-NET, KiK-net強震観測点位置におけるPBSデータを作成した.強震観測点位置に限ったのは,既知のサイト特性を利用してPBSにおける不確定性を一部低減するためと,現実的な空間解像度でのデータ作成のためである.得られたPBSデータについて統計的な分析を行い,平均的な地震動強さ,イベント内/間ばらつきが現実的であるかどうかの確認を行う.PBSデータのPGAやPGVといった指標の平均値はGMPEと大きく乖離しないため,一定の質は担保されていると判断できるが,一定のマグニチュードと距離範囲における地震動強さの分布形状は距離やPBSのシナリオケース数によっても異なる.今後,観測データベースの分布との比較も行いながら,距離や指標別に観測データとPBSデータを相補的に融合させるための条件について検討する.