09:45 〜 10:00
[SSS11-10] 自己相似モデルによる震源パラメータの不均質性評価 ―日本と世界の地震のすべり分布特性の比較検討―
キーワード:自己相似、不均質、断層すべり、波数領域
1.はじめに
震源断層は、その領域内においてすべりや応力降下量などの震源パラメータが一様ではなく、不均質な分布を有している。震源の複雑さを考慮したモデルの一つとして、空間的に不均質な分布を波数領域でモデル化した自己相似モデルがある(Hanks, 1979) 。自己相似モデルについては、波数kに対して高波数側の振幅がk-2に比例して減衰するk-squareモデルと、震源スペクトルのω-squareモデルの関係性が、Andrews (1980, 1981)やHerrero and Bernard (1994)により理論的および数値解析的に示されている。全世界を対象とした実地震のすべり分布の不均質性は、波数スペクトルに基づいてSomerville et al. (1999)やMai and Beroza (2002)が評価している。評価された不均質性は、Graves and Pitarka (2010)により地震動評価に展開され、SCEC BBPなどで世界の複数の地震の強震動シミュレーションを介して検証されている。しかし、これらの評価に用いられた日本のデータは4地震と少なく、日本の地震の不均質性の検証例は少ない。そこで本研究では、日本で発生した多数の地震を対象に震源断層のすべり分布を収集し、自己相似モデルによりすべりの不均質性を評価する。
2.評価概要
対象は1923年から2016年に日本で発生した地震であり、SRCMOD (http://equake-rc.info/srcmod/)から公開されているすべり分布のデータを使用した。2次元の空間分布を扱うことから、すべり分布は1セグメントのみで構成されるモデルを対象とする。収集したデータセットは38地震のすべり分布61モデルである。地震タイプは内陸地殻内地震が23地震、プレート間地震が13地震、プレート内地震が2地震である。
不均質性の評価はMai and Beroza (2002)と同様に、すべりの空間分布をvon Karman型の自己相関関数でモデル化することにより求める。はじめに、震源断層のすべり分布に対して2次元フーリエ変換を行い、2次元波数スペクトルを求める。次に2次元波数スペクトルに対して、グリッドサーチによりvon Karman型の自己相関関数における相関距離およびハースト指数を推定する。具体的には、原点(kx, ky) = (0, 0)から同距離の波数のスペクトル値を平均した円周方向の波数スペクトルに対して相関距離arとハースト指数Hを求める。そして、ky = 0の走行方向とkx = 0の傾斜方向の波数スペクトルに対して、円周方向で推定したHで固定した上で、それぞれ相関距離axとayを求める。ここで評価したH、ax、ayを、全世界を対象とした既往研究と比較すると共に、地震タイプによる違いなどを検討する。
3.評価結果
全モデルの走行方向、傾斜方向、円周方向の波数スペクトルを図1に示す。
円周方向の波数スペクトルからハースト指数Hを評価した結果、MW依存性は見られず、地震タイプによる違いはわずかであり、その中央値は0.77となった。この結果は、Mai and Beroza (2002)によるH = 0.75と近く、全世界の地震による平均的なHと日本の地震の平均的なHの違いは小さいと考えられる。
走行方向の相関距離axは、MWと正の相関があり、地震タイプによる違いは見られなかった。全地震、内陸地殻内地震、海溝型地震のそれぞれでMWに対する回帰分析を行った結果、Mai and Beroza (2002)とほぼ同じとなり、日本で発生した地震はHと同様に全世界の地震のaxの特性との違いは小さいと考えられる。
傾斜方向の相関距離ayは、axと同様にMWと正の相関があるが、地震タイプによる違いがあり、内陸地殻内地震のayに比べて海溝型地震のayは大きい傾向が見られた。また、前者はMW 6クラス、後者はMW 8クラスでayが頭打ちする傾向が見られた。これは、地震発生層の厚さに起因する断層幅の飽和が影響している可能性が考えられる。このような頭打ちを考慮して、あるMWで一定値となる2折れ線の回帰式で内陸地殻内地震と海溝型地震のayを回帰した結果、折れ点となるMWは前者が6.6、後者が8.4となり、入倉・三宅(2001)や田島ほか(2013)による3 stage modelのスケーリングの1st stageと2nd stageの境界となるMWと調和的な結果が得られた。
4.まとめ
自己相似モデルにより日本で発生した地震のすべり分布特性を比較した結果、ハースト指数Hと走行方向の相関距離axに既往研究による全世界の特性との相違は見られなかった。一方、日本の地震に基づく傾斜方向の相関距離ayは頭打ちする傾向が見られ、断層幅の飽和の影響を反映している可能性が考えられる。
震源断層は、その領域内においてすべりや応力降下量などの震源パラメータが一様ではなく、不均質な分布を有している。震源の複雑さを考慮したモデルの一つとして、空間的に不均質な分布を波数領域でモデル化した自己相似モデルがある(Hanks, 1979) 。自己相似モデルについては、波数kに対して高波数側の振幅がk-2に比例して減衰するk-squareモデルと、震源スペクトルのω-squareモデルの関係性が、Andrews (1980, 1981)やHerrero and Bernard (1994)により理論的および数値解析的に示されている。全世界を対象とした実地震のすべり分布の不均質性は、波数スペクトルに基づいてSomerville et al. (1999)やMai and Beroza (2002)が評価している。評価された不均質性は、Graves and Pitarka (2010)により地震動評価に展開され、SCEC BBPなどで世界の複数の地震の強震動シミュレーションを介して検証されている。しかし、これらの評価に用いられた日本のデータは4地震と少なく、日本の地震の不均質性の検証例は少ない。そこで本研究では、日本で発生した多数の地震を対象に震源断層のすべり分布を収集し、自己相似モデルによりすべりの不均質性を評価する。
2.評価概要
対象は1923年から2016年に日本で発生した地震であり、SRCMOD (http://equake-rc.info/srcmod/)から公開されているすべり分布のデータを使用した。2次元の空間分布を扱うことから、すべり分布は1セグメントのみで構成されるモデルを対象とする。収集したデータセットは38地震のすべり分布61モデルである。地震タイプは内陸地殻内地震が23地震、プレート間地震が13地震、プレート内地震が2地震である。
不均質性の評価はMai and Beroza (2002)と同様に、すべりの空間分布をvon Karman型の自己相関関数でモデル化することにより求める。はじめに、震源断層のすべり分布に対して2次元フーリエ変換を行い、2次元波数スペクトルを求める。次に2次元波数スペクトルに対して、グリッドサーチによりvon Karman型の自己相関関数における相関距離およびハースト指数を推定する。具体的には、原点(kx, ky) = (0, 0)から同距離の波数のスペクトル値を平均した円周方向の波数スペクトルに対して相関距離arとハースト指数Hを求める。そして、ky = 0の走行方向とkx = 0の傾斜方向の波数スペクトルに対して、円周方向で推定したHで固定した上で、それぞれ相関距離axとayを求める。ここで評価したH、ax、ayを、全世界を対象とした既往研究と比較すると共に、地震タイプによる違いなどを検討する。
3.評価結果
全モデルの走行方向、傾斜方向、円周方向の波数スペクトルを図1に示す。
円周方向の波数スペクトルからハースト指数Hを評価した結果、MW依存性は見られず、地震タイプによる違いはわずかであり、その中央値は0.77となった。この結果は、Mai and Beroza (2002)によるH = 0.75と近く、全世界の地震による平均的なHと日本の地震の平均的なHの違いは小さいと考えられる。
走行方向の相関距離axは、MWと正の相関があり、地震タイプによる違いは見られなかった。全地震、内陸地殻内地震、海溝型地震のそれぞれでMWに対する回帰分析を行った結果、Mai and Beroza (2002)とほぼ同じとなり、日本で発生した地震はHと同様に全世界の地震のaxの特性との違いは小さいと考えられる。
傾斜方向の相関距離ayは、axと同様にMWと正の相関があるが、地震タイプによる違いがあり、内陸地殻内地震のayに比べて海溝型地震のayは大きい傾向が見られた。また、前者はMW 6クラス、後者はMW 8クラスでayが頭打ちする傾向が見られた。これは、地震発生層の厚さに起因する断層幅の飽和が影響している可能性が考えられる。このような頭打ちを考慮して、あるMWで一定値となる2折れ線の回帰式で内陸地殻内地震と海溝型地震のayを回帰した結果、折れ点となるMWは前者が6.6、後者が8.4となり、入倉・三宅(2001)や田島ほか(2013)による3 stage modelのスケーリングの1st stageと2nd stageの境界となるMWと調和的な結果が得られた。
4.まとめ
自己相似モデルにより日本で発生した地震のすべり分布特性を比較した結果、ハースト指数Hと走行方向の相関距離axに既往研究による全世界の特性との相違は見られなかった。一方、日本の地震に基づく傾斜方向の相関距離ayは頭打ちする傾向が見られ、断層幅の飽和の影響を反映している可能性が考えられる。