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[SSS11-11] 応力降下量一定を仮定した地殻内地震のスケーリング ―断層幅をパラメータとした場合ー
キーワード:地殻内地震、スケーリング、応力降下量、断層サイズ、断層幅
【はじめに】
地殻内地震のスケーリングについてはこれまで多くの検討がされ,特に日本では強震動レシピとして,いわゆる入倉・三宅の式(入倉・三宅, 2001),長大地震ではすべり量が一定となる条件まで考慮した3-stageモデル(Murotani et al., 2015)が採用されている.これらは地殻内地震で見られる断層幅の飽和を考慮し,基本的には物理的に妥当なモデルに基づいたものである.しかし,強震動予測レシピに基づいて強震動予測を行う場合,長大断層では断層パラメータの設定に不都合が生じるとの指摘がある.我々はHikima and Shimmura (2020, BSSA)において,矩形断層の応力降下量の計算式を使い,中小~大地震で応力降下量が一定となる仮定のもと,地震モーメントと断層面積(MO-S)のスケーリング式を提案した.これらは過去の地震解析データと整合しており,また,3-stageモデルの基本的な特徴とも対応している.但し,比較対象としたデータはやや古いものであったため,最近のインバージョン解析に基づくパラメータとの比較も必要と考えた.
インバージョン解析によるすべり分布の推定では,真の断層サイズよりも大きめの断層が設定されることが多いため,結果のすべり分布から実質的な断層サイズを抽出する必要がある.その方法として,Somerville et al. (1999) によるトリミング法が多く使用されているが,物理的に明確な基準はなく,また,機械的な処理にも向いているとは言えない.そこでHikima and Shimmura (2020, JpGU)では,すべり分布の2次元スペクトルを計算し,それを元に矩形領域を抽出する手順を提案した.
今回は,トリミングを行った断層パラメータを元に地殻内地震のスケーリングについて検討した結果を報告する.
【主要なすべり域の抽出】
インバージョンによるすべり分布のトリミング法については,昨年の本大会の報告内容 (Hikima and Shimmura, 2020, JpGU)が,予稿原稿と大会時点とで若干の違いがあるため,あらためて概要を記す.
本手法では,まずは,すべり分布を元に2次元スペクトルを計算する.解析結果のすべり分布を元に,長さ(X方向),幅(Y方向)に1または2 km間隔のすべり分布を作成し,さらに断層面以外の範囲にはゼロを付加して,全体として256×256のデータを作成する.これに対して2次元FFTにより振幅スペクトルを計算する.これらのうち,ky=0でのX方向の波数スペクトルを長さ方向のスペクトル,同様にkx=0でのY方向の波数スペクトルを幅方向のスペクトルとする.
一方,長さLの矩形関数のフーリエ変換は f(ν)=Lsin(πLν)/(πLν) [但しν=1/λ, λ:波長]となる.よく知られているように,このsinc関数はν=n/L [n=1, 2, …]において0線とクロスし,スペクトルの絶対値ではトラフの位置に相当する.
提案手法では,先に求めた長さ方向のスペクトルに対して,このsinc関数をフィッティングすることで矩形関数の長さLを求める.この際,Somerville et al. (1999)によるトリミング結果と同等の結果を得るための条件として,sinc関数の最初のトラフ(0クロス)よりも低波数側に注目し,矩形関数のスペクトルが低次側からデータスペクトルを超越しない最大の波数を与える長さLを断層長とした.さらに,kx=0での幅方向のスペクトルに対して同様の手順で求めた矩形関数の長さを断層幅とする.このように求めた断層面積は,Somerville et al. (1999)によるものとほぼ一致することを確認した.
【断層パラメータのスケーリング】
SRCMOD (Mai and Thingbaijam, 2014) で収集された震源モデルのうち地殻内地震のデータに対して断層面積のトリミングを行った.まず,断層長さと断層幅との関係を確認した (Fig. 1).従来の研究では断層長さが大きくなるにつれ断層幅が飽和する様子が認められている.今回のデータでもそのような傾向は確認できるものの,長大断層では断層幅が大きくなる様子も見られた.特に縦ずれ断層ではその傾向が顕著である.一方,矩形断層形状を考慮して応力降下量を計算すると,バラツキは大きいもの地震規模と応力降下量との明瞭な相関は認められず,応力降下量は規模によらずほぼ一定として扱えることがわかる (Fig. 2).これらから,断層パラメータのスケーリングを考える際には,応力降下量は一定値とし断層幅をパラメータとして扱うことでより適切にデータを説明できるものと考えた.Fig. 3では各地震の断層幅を区別して表示し,合わせて平均応力降下量として2.5 MPaを仮定したMO-Sの関係式を飽和断層幅 (Wmax) を変えてプロットした.規模が大きな地震では断層幅が大きく,それらはWmaxを大きな値とした式との対応が良好となることがわかる.
今回の結果は,海外を含む多様なテクトニック条件を考慮せずに処理した影響はあるかも知れない.しかし,地殻内地震では,基本的には応力降下量を一定とみなした上で,断層形状を考慮してスケーリングが可能なことを示している.一方,日本付近といったテクトニック環境が明らかな地域内ではWmaxは概ね一定と見なすことができることから,一つの関係式でスケーリングを考えることも可能と思われる.
<謝辞>SRCMODによるすべり分布を使用させて頂きました.
地殻内地震のスケーリングについてはこれまで多くの検討がされ,特に日本では強震動レシピとして,いわゆる入倉・三宅の式(入倉・三宅, 2001),長大地震ではすべり量が一定となる条件まで考慮した3-stageモデル(Murotani et al., 2015)が採用されている.これらは地殻内地震で見られる断層幅の飽和を考慮し,基本的には物理的に妥当なモデルに基づいたものである.しかし,強震動予測レシピに基づいて強震動予測を行う場合,長大断層では断層パラメータの設定に不都合が生じるとの指摘がある.我々はHikima and Shimmura (2020, BSSA)において,矩形断層の応力降下量の計算式を使い,中小~大地震で応力降下量が一定となる仮定のもと,地震モーメントと断層面積(MO-S)のスケーリング式を提案した.これらは過去の地震解析データと整合しており,また,3-stageモデルの基本的な特徴とも対応している.但し,比較対象としたデータはやや古いものであったため,最近のインバージョン解析に基づくパラメータとの比較も必要と考えた.
インバージョン解析によるすべり分布の推定では,真の断層サイズよりも大きめの断層が設定されることが多いため,結果のすべり分布から実質的な断層サイズを抽出する必要がある.その方法として,Somerville et al. (1999) によるトリミング法が多く使用されているが,物理的に明確な基準はなく,また,機械的な処理にも向いているとは言えない.そこでHikima and Shimmura (2020, JpGU)では,すべり分布の2次元スペクトルを計算し,それを元に矩形領域を抽出する手順を提案した.
今回は,トリミングを行った断層パラメータを元に地殻内地震のスケーリングについて検討した結果を報告する.
【主要なすべり域の抽出】
インバージョンによるすべり分布のトリミング法については,昨年の本大会の報告内容 (Hikima and Shimmura, 2020, JpGU)が,予稿原稿と大会時点とで若干の違いがあるため,あらためて概要を記す.
本手法では,まずは,すべり分布を元に2次元スペクトルを計算する.解析結果のすべり分布を元に,長さ(X方向),幅(Y方向)に1または2 km間隔のすべり分布を作成し,さらに断層面以外の範囲にはゼロを付加して,全体として256×256のデータを作成する.これに対して2次元FFTにより振幅スペクトルを計算する.これらのうち,ky=0でのX方向の波数スペクトルを長さ方向のスペクトル,同様にkx=0でのY方向の波数スペクトルを幅方向のスペクトルとする.
一方,長さLの矩形関数のフーリエ変換は f(ν)=Lsin(πLν)/(πLν) [但しν=1/λ, λ:波長]となる.よく知られているように,このsinc関数はν=n/L [n=1, 2, …]において0線とクロスし,スペクトルの絶対値ではトラフの位置に相当する.
提案手法では,先に求めた長さ方向のスペクトルに対して,このsinc関数をフィッティングすることで矩形関数の長さLを求める.この際,Somerville et al. (1999)によるトリミング結果と同等の結果を得るための条件として,sinc関数の最初のトラフ(0クロス)よりも低波数側に注目し,矩形関数のスペクトルが低次側からデータスペクトルを超越しない最大の波数を与える長さLを断層長とした.さらに,kx=0での幅方向のスペクトルに対して同様の手順で求めた矩形関数の長さを断層幅とする.このように求めた断層面積は,Somerville et al. (1999)によるものとほぼ一致することを確認した.
【断層パラメータのスケーリング】
SRCMOD (Mai and Thingbaijam, 2014) で収集された震源モデルのうち地殻内地震のデータに対して断層面積のトリミングを行った.まず,断層長さと断層幅との関係を確認した (Fig. 1).従来の研究では断層長さが大きくなるにつれ断層幅が飽和する様子が認められている.今回のデータでもそのような傾向は確認できるものの,長大断層では断層幅が大きくなる様子も見られた.特に縦ずれ断層ではその傾向が顕著である.一方,矩形断層形状を考慮して応力降下量を計算すると,バラツキは大きいもの地震規模と応力降下量との明瞭な相関は認められず,応力降下量は規模によらずほぼ一定として扱えることがわかる (Fig. 2).これらから,断層パラメータのスケーリングを考える際には,応力降下量は一定値とし断層幅をパラメータとして扱うことでより適切にデータを説明できるものと考えた.Fig. 3では各地震の断層幅を区別して表示し,合わせて平均応力降下量として2.5 MPaを仮定したMO-Sの関係式を飽和断層幅 (Wmax) を変えてプロットした.規模が大きな地震では断層幅が大きく,それらはWmaxを大きな値とした式との対応が良好となることがわかる.
今回の結果は,海外を含む多様なテクトニック条件を考慮せずに処理した影響はあるかも知れない.しかし,地殻内地震では,基本的には応力降下量を一定とみなした上で,断層形状を考慮してスケーリングが可能なことを示している.一方,日本付近といったテクトニック環境が明らかな地域内ではWmaxは概ね一定と見なすことができることから,一つの関係式でスケーリングを考えることも可能と思われる.
<謝辞>SRCMODによるすべり分布を使用させて頂きました.