10:45 〜 11:00
[SSS11-13] 2011年東北地方太平洋沖地震による越後平野への長周期入射波
キーワード:レーリー波、コヒーレンス解析、距離減衰
2011年東北地方太平洋沖地震の際,越後平野内では長周期地震動が観測され,周期10秒程度以上の周期帯では,レーリー波が卓越していたことが報告されている[植竹・他(2016)].平野の応答を考える上で,入射波の特性も重要である.本報告では,入射波自体にレーリー波が卓越していたのかどうかを確認する.
越後平野への入射波動場を検討するために,太平洋に面した福島県東部から新潟県中越地域に至る強震観測点23点を選んだ.すべて,防災科学技術研究所のK-NET,KiK-netの観測点であり,2011年東北地方太平洋沖地震の震央距離で174 km~347 kmの範囲で,東西に並んでいる.
まず,加速度記録のフーリエスぺクトル特性を調べた.高周波数帯のスペクトル振幅は,地盤特性の影響で大きく変化するとともに,火山フロント西に位置する観測点では高周波数になるほどスペクトル振幅が急激に小さくなっている.一方,0.1 Hz以下の低周波数では大きな変化は見られなかった.また,この周波数帯域ではUDとEWのスペクトル形状に類似性が見られた.
長周期の波形の特徴を見るために,周波数0.05~0.2 Hzのバンドパスフィルターを掛けて加速度波形を積分して速度波形を作成した.EW成分とUD成分には,東から西に伝播する2つの波群が認められ,それは,越後平野における記録に見られる波群と連続している.この2つの波群の見かけ速度は概ね3.4 km/sである.EW成分とUD成分で粒子軌跡を描くと,福島県東部以外の観測点では,2つの波群ともレーリー波の特徴を示すretrogradeな回転をしている.なお,NS成分の波形はEW成分,UD成分と異なったものとなっている.次に,速度波形の最大値(PGV)の震央距離(r)に対する距離減衰特性を調べた.UD成分及びEW成分では,減少の傾きが1/r**0.5~1/rの間で表面波的であるのに対し、NS成分は傾きが1/rより大きく実体波的であった.
それぞれの観測点について,成分間のコヒーレンス解析を行った.コヒーレンスの計算には記録開始から300秒間を用いた.周波数0.05~0.1 Hzに着目すると,多くの観測点で,UD成分とEW成分のコヒーレンスが最も高く,位相ずれは約90度となった.また,速度波形で確認された2つの波群の出現時刻を考慮して,記録開始からの80秒間,次の80秒間についてもコヒーレンス解析を行ったところ、同様な結果が得られた.なお,福島県東部の観測点では異なった結果が得られている.
以上より,2011年東北地方太平洋沖地震の際に,越後平野に入射した周期10秒以上の地震動にはレーリー波成分が卓越していたと考えられる.少なくともUD成分とEW成分の地震動は,西向きに伝播するレーリー波と考えることが妥当と考えられる.なお,NS成分については,距離減衰から見て実体波が主体と考えられる.
謝辞:防災科学技術研究所のK-NET,KiK-netの強震観測データを用いました.記して感謝いたします.
文献:植竹富一・引間和人・関根秀太郎・澤田義博,2016,東北地方太平洋沖地震による新潟県中越地域の地震動の空間変化 -新潟県中越地域の高密度強震観測記録の分析-,日本地震工学会論文集,16巻4号,p. 4_66-4_79,https://doi.org/10.5610/jaee.16.4_66.
越後平野への入射波動場を検討するために,太平洋に面した福島県東部から新潟県中越地域に至る強震観測点23点を選んだ.すべて,防災科学技術研究所のK-NET,KiK-netの観測点であり,2011年東北地方太平洋沖地震の震央距離で174 km~347 kmの範囲で,東西に並んでいる.
まず,加速度記録のフーリエスぺクトル特性を調べた.高周波数帯のスペクトル振幅は,地盤特性の影響で大きく変化するとともに,火山フロント西に位置する観測点では高周波数になるほどスペクトル振幅が急激に小さくなっている.一方,0.1 Hz以下の低周波数では大きな変化は見られなかった.また,この周波数帯域ではUDとEWのスペクトル形状に類似性が見られた.
長周期の波形の特徴を見るために,周波数0.05~0.2 Hzのバンドパスフィルターを掛けて加速度波形を積分して速度波形を作成した.EW成分とUD成分には,東から西に伝播する2つの波群が認められ,それは,越後平野における記録に見られる波群と連続している.この2つの波群の見かけ速度は概ね3.4 km/sである.EW成分とUD成分で粒子軌跡を描くと,福島県東部以外の観測点では,2つの波群ともレーリー波の特徴を示すretrogradeな回転をしている.なお,NS成分の波形はEW成分,UD成分と異なったものとなっている.次に,速度波形の最大値(PGV)の震央距離(r)に対する距離減衰特性を調べた.UD成分及びEW成分では,減少の傾きが1/r**0.5~1/rの間で表面波的であるのに対し、NS成分は傾きが1/rより大きく実体波的であった.
それぞれの観測点について,成分間のコヒーレンス解析を行った.コヒーレンスの計算には記録開始から300秒間を用いた.周波数0.05~0.1 Hzに着目すると,多くの観測点で,UD成分とEW成分のコヒーレンスが最も高く,位相ずれは約90度となった.また,速度波形で確認された2つの波群の出現時刻を考慮して,記録開始からの80秒間,次の80秒間についてもコヒーレンス解析を行ったところ、同様な結果が得られた.なお,福島県東部の観測点では異なった結果が得られている.
以上より,2011年東北地方太平洋沖地震の際に,越後平野に入射した周期10秒以上の地震動にはレーリー波成分が卓越していたと考えられる.少なくともUD成分とEW成分の地震動は,西向きに伝播するレーリー波と考えることが妥当と考えられる.なお,NS成分については,距離減衰から見て実体波が主体と考えられる.
謝辞:防災科学技術研究所のK-NET,KiK-netの強震観測データを用いました.記して感謝いたします.
文献:植竹富一・引間和人・関根秀太郎・澤田義博,2016,東北地方太平洋沖地震による新潟県中越地域の地震動の空間変化 -新潟県中越地域の高密度強震観測記録の分析-,日本地震工学会論文集,16巻4号,p. 4_66-4_79,https://doi.org/10.5610/jaee.16.4_66.