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[SSS11-15] 福島県沖で発生する地震による波動場の比較
キーワード:島弧、プレート境界地震、スラブ内地震、地震波の減衰
2021年2月13日に福島県沖でMW 7.1の地震が発生した。この地震(以下ではSU1)は二重深発地震面上面で発生したdown-dip compression型のスラブ内地震であり,その震源深さは55kmである。防災科学技術研究所のK-NET,KiK-net強震記録による加速度波形の最大振幅(Peak Ground Acceleration,PGA)の空間分布を見ると,同心円状の分布とは異なる特異な分布を示し,東北日本弧〜北海道の前弧側で振幅が大きいのに対し,背弧側では振幅が急激に小さくなる。これは背弧側の媒質が低Q値であるという島弧特有の減衰構造を反映したもので,背弧側の減衰が強い媒質中を伝播する際に高周波地震波の振幅が減衰することによる(筧,2015)。震源深さによる波動場の違いを調べるために,SU1と震央が近く,異なる震源深さを持つM5クラスの以下の3地震による強震データの解析を行った:2001年10月2日のプレート境界地震(MW 5.5,深さ40.8km,以下イベントP),2013年8月4日の二重深発地震面上面のスラブ内地震(MW 5.9,深さ58.0km,以下イベントSU2),2010年3月13年の二重深発地震面下面のスラブ内地震(MW 5.5,深さ77.7km,以下イベントSL)。このうちSU2の震央位置と震源深さはSU1とほぼ同じである。3地震のPGAの空間分布を比較したところ,いずれもSU1と同じく背弧側での高周波地震波の減衰が顕著に見られ,前弧側と背弧側のコントラストが明瞭という点で,PGAの空間分布はほぼ同じ特徴を示した。3地震の震源深さにはそれぞれ約20kmの差があるが,最も浅いイベントPでも40.8kmと深い上に震央が陸域に近いため,観測点に地震波が高角の入射角で入射するという点は他の深い2地震と共通するため,背弧側での減衰の特徴にも大きな差は現れないと推定される。ただし,揺れの大きさ自体には浅いイベントPと,深いイベントSU2,SLの間には明確な差がある。震央付近の大加速度域の振幅レベルは,Pの振幅レベルは深いSU2とSLに比べて明らかに小さい。また,深いSU2とSLの場合,加速度の広がりは北海道前弧側まで延びている(=加速度計がトリガーされている)のに対し,浅いPの場合は加速度の広がりは青森県南部までで止まっている。これは浅いPがもたらす全体的な加速度レベルが,深いSU2,SLに比べ小さいことを意味している。これは,笠谷・筧(2014)が東北日本のプレート境界地震とスラブ内地震の強震波形のスペクトルインバージョンに基づいて得た知見「震源特性の高周波レベルは,プレート境界とスラブ内というテクトニック環境の違いではなく,震源深さの違いに依存し,震源が深いほど加速度レベルが高い」を反映したものである。