日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS11] 強震動・地震災害

2021年6月6日(日) 17:15 〜 18:30 Ch.10

コンビーナ:染井 一寛(一般財団法人地域地盤環境研究所)、松元 康広(株式会社構造計画研究所)

17:15 〜 18:30

[SSS11-P04] 微動回転成分を用いて簡単なアレイでラブ波位相速度とR/Lを推定するための公式

*長 郁夫1、吉田 邦一2、上林 宏敏3 (1.産業技術総合研究所、2.地域地盤環境研究所、3.京都大学複合原子力科学研究所)

キーワード:微動、ラブ波、アレイ、回転成分、空間微分、位相速度

吉田・上林(2018)・Yoshida & Uebayashi (2020)は微動アレイ探査で用いられる2重三角アレイを用いて回転成分(空間尾微分)を計算し,ラブ波の位相速度を正確に同定することができた.そこでここでは彼らにならって回転成分を基礎とし,3点アレイでラブ波位相特性を同定する公式を考案した.

Cho et al. (2006)は3成分微動における円形アレイ解析のための一般理論を構築した.標記公式の導出は同論文の式(16), (17)から始まる.これらはアレイ中心から見て(r,θ)方向(rは動径,θはx軸からy軸に向かう角度)に設置した地震計のRadial, Tangential成分の波形を表す式である.これらの式で表される波形について空間微分すなわち発散,回転をとると次式が得られる.

D(t, r, θ) =-∫∫∫ ik exp[-iωt-irkcos(φ-θ)] ζR(dω,dk,dφ), (発散成分) (1)

C(t, r, θ) = -∫∫∫ik exp[-iωt-irkcos(φ-θ)] ζL(dω,dk,dφ). (回転成分) (2)

tは時間,iは虚数単位,kは波数,ωは角周波数,φは波の到来方向である.上記の発散・回転成分の波形(それぞれD, C)についてr=θ=0とし(すなわち1点観測を想定して), それぞれ自己相関関数をとりフーリエ変換すればパワースペクトル密度(PSD)が得られる.すなわち,

PSDR(ω) = [cR(ω)]2PSDD(ω)/ω2, (3), PSDL(ω) = [cL(ω)]2PSDC(ω)/ω2. (4)

ただし,PSDR(ω)とPSDL(ω)はそれぞれ積分スペクトルζR(dω,dk,dφ)とζL(dω,dk,dφ)に対応するPSD,すなわちレーリー波,ラブ波のPSDである.cR(ω), cL(ω)はレーリー波・ラブ波の位相速度である.式(3), (4)の和をとれば,

PSDR(ω)+PSDL(ω) = [cR(ω)]2PSDD(ω)/ω2 + [cL(ω)]2PSDC(ω)/ω2. (5)

ここで,水平動全体のパワーPSDH(ω) をレーリー波,ラブ波のパワーの和として定義する.すなわち,

PSDH(ω) = PSDR(ω)+PSDL(ω). (6)

式(5), (6)より次式を得る.i.e.,

cL(ω)=[(PSDH(ω)ω2 - PSDD(ω)[cR(ω)]2)/PSDC(ω)]1/2. (7)

式(7)には微動3成分の三角アレイ(3点アレイ)で得られるデータを適用できる.まず,式(7)右辺のレーリー波位相速度cR(ω)は3点アレイの上下動成分から得られる.PSDD(ω), PSDC(ω)は3点アレイの水平2成分から得られる(YU2020).PSDH(ω)は水平2成分(i.e., Tangential,Radial成分EW,NS成分)のPSDの和として単点データから得られる.よって,式(7)を用いればラブ波の位相速度cL(ω)が3点アレイで得られる.一旦cL(ω)が得られれば,式(3), (4)よりR/L,すなわち地盤構造の評価に利用可能なパラメータ (Arai & Tokimatsu, 2004)も得られる.あるいは,式(3)からレーリー波水平動のPSDが得られるので,鉛直動のPSDとの比をとってレーリー波の水平動/鉛直動とすれば,フィッティングの際の理論計算の負荷が小さい分地盤のモデル化には便利かもしれない.

This research was supported by the Japan Society for the Promotion of Science (JSPS) KAKENHI Grant Numbers 19H02287.

Arai & Tokimatsu, 2004. Bull. Seismol. Soc. Am., 94, 53–63.
Cho, Tada, & Shinozaki, 2006. Geophys. J. Int., 165, 236–258.
Yoshida & Uebayashi, 2020. Bull. Seismol. Soc. Am., doi://10.1785/0120200139.
吉田・上林, 2018. 物理探査, 71, 15-23.