日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT36] 合成開口レーダーとその応用

2021年6月5日(土) 09:00 〜 10:30 Ch.22 (Zoom会場22)

コンビーナ:木下 陽平(筑波大学)、阿部 隆博(三重大学大学院生物資源学研究科)、小林 祥子(玉川大学)、姫松 裕志(国立研究開発法人 防災科学技術研究所)、座長:阿部 隆博(三重大学大学院生物資源学研究科)、木下 陽平(筑波大学)

09:15 〜 09:30

[STT36-02] 2018年大阪北部地震前後における地表変動と地下水位変動の相関

*重光 勇太朗1、石塚 師也1、林 為人1 (1.京都大学大学院工学研究科)


キーワード:2018年大阪北部地震、地下水位変動、地表変動、PSInSAR解析、人工衛星Sentinel-1 、大阪平野

地震発生直後に震源周辺もしくは広域において地下水位の変動が起きていることが知られている.例えば2016年に発生した熊本地震では地下水位が低下した地域,上昇した地域があり,それぞれの原因について考察が行われている.具体的には地下水位の上昇については山麓に貯留されていた地下水が流入したこと,地下水の低下については地下深部における地割れ域へ地下水が流出したことが原因であったと考察が行われている.また,そのような地下水位の変動に伴い地表面が変動することも知られている.地下水位の低下に伴う地盤沈下は一般的に認知されておりそのモデルも考えられているが,一方で一部の地域では地下水位の上昇に伴う地表面の上昇も確認されている.
2018年6月18日に発生した2018年大阪北部地震の前後においても阪神地域の地下水位観測点の複数点にて地下水位の上昇が確認されており,地下水位上昇に伴う地表面の上昇が発生している可能性がある.本研究ではまず,2018年大阪北部地震発生前後の長期的な阪神エリアにおける地表変動の変化量を推定し,次に地下水位変動との相関性について考察を行った.地表変動の推定には広域の変動を面的に算出できるPSInSAR解析を用いることとした.PSInSAR解析とは時系列的に観測された複数のInSAR画像を用いて,PS(Persistent Scatter)と呼ばれるノイズ量の少ないピクセルを統計的に選択し,PSピクセルにおける地表変動を解析する方法である.PSInSAR解析による地表変動データと地下水位の変動データを組み合わせることによって,二次元的な地下水の移動の流れや地震による地表変動傾向の変化,季節性の地表変動の大きさ等を議論することが可能になる.衛星データは欧州宇宙機関の衛星であるSentinel-1北向軌道の2015年4月から2019年4月25日の期間のデータを用いた.また,地下水位データについては国土交通省が運営する水文水質データベースの地下水位観測点,産業技術総合研究所が運営する地下水位観測点及び大阪市が運営する地下水位観測点のデータを用いた.
PSInSAR解析の結果,地震前後において宝塚市付近及び大阪平野東部一帯において衛星視線距離短縮方向の地表変動が見られた.これは,実変動で考えると西向きもしくは隆起方向である.宝塚市付近の地下水位観測点では地震前後において地下水位の上昇が発生しており地表変動の結果と整合的である.一方,大阪平野東部一帯におけるそれぞれの地下水位観測点では地下水位の変動傾向が場所によって異なっている.具体的には,複数の観測点では降水量の増減に伴う地下水位の季節的な変動が発生していたが,他方で季節的な地下水位の変動が見られない観測点も見られた.これは地下水位変動と地表面変動が単純にモデル化できないことを表しており,各地点の地質構造や帯水層の特性についての検討が必要であることを示唆している.

謝辞:大阪市の地下水位データについては大阪市環境局環境管理部環境管理課から提供して頂いた.ここに記して感謝申し上げる.