日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT36] 合成開口レーダーとその応用

2021年6月5日(土) 10:45 〜 12:15 Ch.22 (Zoom会場22)

コンビーナ:木下 陽平(筑波大学)、阿部 隆博(三重大学大学院生物資源学研究科)、小林 祥子(玉川大学)、姫松 裕志(国立研究開発法人 防災科学技術研究所)、座長:大槻 真嗣(宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所)、姫松 裕志(国立研究開発法人 防災科学技術研究所)

12:00 〜 12:15

[STT36-12] 小型SAR衛星開発とソリューションサービス

★招待講演

*藤丸 周士1 (1.株式会社 Synspective)

キーワード:SAR、小型衛星

1. 会社紹介

Synspectiveは、独自の小型SAR衛星の開発・運用そしてコンステレーションの構築から地球観測データを創り出し、膨大な地球観測データをデータサイエンス・マシンラーニングを用いて解析し、政府や企業にソリューションとして提供します。自社衛星を開発・運用し、ソリューションプロバイダーの両面の能力を持つ世界唯一の企業です。

私たちのミッションは、新たなデータとテクノロジーにより、人の可能性を広げ着実に進歩する社会、そして学習する世界の実現を掲げています。私たちは、衛星による新たなデータ創造とデータサイエンス・マシーンラーニングによるデータの解析。そして学習する世界を牽引する人材の育成と社会への排出の3つが重要な柱だと考えています。

私たちの展開するビジネスは大きく分けて2つです。

ひとつは小型SAR衛星の開発・運用事業。そしてもう一つは、その衛星から得られた観測データをデータサイエンスや機械学習などを使って解析し、顧客企業、組織が求める形で提供するソリューション事業の2つです。

2. 小型SAR衛星
2-1. SAR衛星とは
Synspectiveが開発・運用を行っている衛星は重量が100kg級の重さの小型SAR衛星です。SAR(合成開口レーダー)衛星は、マイクロ波を使って地形や構造物の形を観測します。マイクロ波は波長が長く、雲を透過するため、雲の下にある地表も観測することができます。また自らアクティブに電波を放射するため、日中・夜間によらず観測が可能です。特にアジアでは、雨季が長く雲に覆われることが多いため、光学センサーでは観測が困難な場合があり、雲の中や夜間に観測ができるSAR衛星の需要が高まりつつあります。

2-2.従来機との違いについて
私たちの小型SAR衛星『StriX(ストリクス)』の重量は従来の大型SAR衛星の約1/10である100kg級で、コスト面においては、開発と打ち上げ費用を合わせ、従来の大型SAR衛星と比較して約1/20を実現しています。従来の大型SAR衛星と同等に近い性能をもったまま、小型・軽量による低価格化をはかることで多数基生産が可能となります。

2-3. 成果
昨年2020年12月15日に、ニュージーランドの マヒア半島にある発射場からRocket Lab社のElectronロケットにより、当社初となる実証機「StriX-α」が打ち上げられ、予定通りの軌道(太陽同期軌道、高度500km)への投入に成功しました。そして、先日2021年2月16日に日本国内において初となる、民間の小型SAR衛星(100kg級)画像取得に成功しました。

2-4. 今後の展開
今年2021年は、実証2号基「StriX-β」の打上げを予定しており、地表のミリ単位の変動を検出するSAR特有の解析技術「InSAR (Interferometric SAR:干渉SAR)」の軌道上実証を目標としています。今後2023年までに6基、2020年代後半には30基のコンステレーション(衛星群)構築を目指します。

3. SARデータ活用
SARデータを活用事例として、台風の被害を受けている最中の地域を観測します。どこが水没をしているのか、冠水で不通になっている道路はどこなのか、また台風通過後の全体的な被害はどの程度なのか等を知ることができます。洪水発生時に、被害状況を一次情報に基づき迅速に評価する必要がある保険、金融業界、政府などでの活用が期待できます。

他にも衛星データの広域性を生かして、インフラ開発や都市開発にも活用ができます。インフラ・都市開発の計画段階においては、地形・土地利用状況等の把握ができるため、どこにインフラに敷設すべきかの検討材料となります。施工の段階では、工事の進捗や現場の資材状況の客観的な情報を得ることができます。また、衛星が地球を周回するため、世界数千箇所の工事現場の観測が可能です。その後の保守に関しても、地盤変動を時系列観測し、解析をすることができるため、ダムに想定外の応力がかかって変形しているというような事態の早期発見や、港湾や滑走路などの大規模な構造物の歪みの把握も期待できます。

先日2月13日に福島・宮城で震度6強の地震が起き、東日本大震災を思い出した人たちも多くいると思いますが、このような災害が起こった際の災害対応にも有効に用いられる可能性があります。

Synspectiveでは既にソリューションサービスとして、災害対応のための浸水被害(浸水域、浸水深、被害道路、被害建物)を評価する「Flood Damage Assessment」ソリューションと、広域な地表面の変動量をmm単位で検出し時系列で表示する「Land Displacement Monitoring」ソリューションを提供しております。