日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT36] 合成開口レーダーとその応用

2021年6月5日(土) 17:15 〜 18:30 Ch.18

コンビーナ:木下 陽平(筑波大学)、阿部 隆博(三重大学大学院生物資源学研究科)、小林 祥子(玉川大学)、姫松 裕志(国立研究開発法人 防災科学技術研究所)

17:15 〜 18:30

[STT36-P05] GNSSを用いたInSAR大気遅延補正モデル開発の進捗

*木下 陽平1 (1.筑波大学)

キーワード:InSAR、delay correction、GNSS

InSAR大気遅延ノイズの補正はInSAR研究において解決すべき問題の一つである. 前回の発表(木下, 2020, 日本測地学会講演会)において, Arief and Heki (2020) の手法に基づき, 筆者はGNSSの天頂遅延量(ZTD)と水平遅延勾配を用いたInSAR大気遅延モデルを提案した. 初期の補正適用の結果は, 従来の数値気象モデルベースによる補正(GACOSや気象庁MSM)と比較してより良い補正結果となった. 今回の発表では, 開発した補正モデルのパラメータ依存性について解析を行なったので, その結果を報告する.
第一の感度実験では, モデルの格子間隔に対する補正効果の変化について比較を行った. この漢人実験においては5km間隔をデフォルトとしていた格子間隔を2kmから30kmの間で変更し, その他のパラメータについては固定している. 実験の結果は格子間隔を4kmとした時に最も高い補正効果を示し, 4kmから増減させるほど補正効果は低下する結果となった. このことは開発したGNSSベースの補正モデルが解像可能な大気遅延分布の限界を示している可能性がある.
次に筆者は開発した補正モデルのGNSS観測点密度に対する感度について実験を行った. この実験ではモデル領域内にあるGNSS観測点の数を指定した観測点密度となるよう間引きし, 残った観測点データのみを用いての補正効果の変化を調べた. この感度実験の結果は, 観測点密度が低下する毎にInSARへの補正効果も単調減少する予測通りの結果となった. 興味深い点として, 観測点の間引きに対してモデルの補正効果は最初大きな減少を示さず, 観測点数が前観測点数のおよそ20%程度を下回るあたり(観測点間の平均距離がおよそ50km)で補正効果低下も顕著になり始める様子が見られた. これは開発した補正モデルがGNSS観測点のそれほど多くはない, 東南アジアやアフリカのような地域においても有効である可能性を示唆している.
最後に, 開発した補正モデルがGNSSの遅延勾配を使うことによる影響を明らかにするために, 遅延勾配を用いない場合の補正モデルについても計算を実行して, 遅延勾配有りの場合と比較を行った. この実験では格子間隔は5km、その他のパラメータもデフォルトのまま変化させていない. 実験の結果は筆者の予想に反し, 遅延勾配を使わない場合の方が遅延勾配を用いる場合よりもInSAR補正効果がわずかに高いという結果になった (遅延勾配無しのモデルで補正後標準偏差は25.62mm, 遅延勾配有りのモデルでは25.75mm). この差は統計的には有意ではないと考えられるが, このような差が生じた原因としては, 1) インバージョンの際に遅延勾配の観測値に過剰フィッティングしたため, 2) スムージングの拘束条件の重みを定めるハイパーパラメータの値を主観的に設定したため最適でない, 3) モデル内のスケールハイトの値としてArief and Heki (2020) と同じく大気水蒸気の2.5kmを用いたため, が考えられる.
発表時には, 上記で示した補正モデルの特性について議論したい.