日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT36] 合成開口レーダーとその応用

2021年6月5日(土) 17:15 〜 18:30 Ch.18

コンビーナ:木下 陽平(筑波大学)、阿部 隆博(三重大学大学院生物資源学研究科)、小林 祥子(玉川大学)、姫松 裕志(国立研究開発法人 防災科学技術研究所)

17:15 〜 18:30

[STT36-P06] 合成開口レーダによる船舶の検出

*岩田 健吾1、島田 政信1 (1.東京電機大学)

キーワード:合成開口レーダー、船舶検出、適応しきい値法

交通システムの発展に伴い、GPSナビケーションシステムに代表されるような人工衛星を用いたサービスの発展が目覚ましい。そこで合成開口レーダーの天候や昼夜を問わず撮影が可能であるメリットを交通システムに応用すべく、まずは衛星画像に容易に映る海上の船舶を対象として研究を行った。

 海洋の合成開口レーダーの活用としては波浪、内部波、船舶検出・認識、潮目などが挙げられる。船舶検出・認識の分野においては識別符号、船名、位置、速力などを電波で送受信するAIS(Automatic Identification System:自動船舶識別装置)とALOS-2に搭載された合成開口レーダーPALSAR-2による協調観測することによって不審船などを認識する海洋監視が行われている。

 昨年の研究では、小領域の後方散乱係数(σ0)の平均値(σ0Avg.)を計測し閾値(σth)以上の係数を持つ領域を船舶と決定する方法で行った。その結果、方散乱係数の閾値が-8.0dBと設定した時のAISの位置情報のある船舶の検出数は27/29隻(95%)、25/25隻(100%)でありその他船舶とみられる点を多数検出した。また、閾値の決定に関する問題、沿岸域を中心に誤検出点が現れる問題を見つけた。本研究では検出精度の向上を目的として、2つの手法を比較した。

 1つ目は固定閾値法である。これは昨年の研究で使用したアルゴリズムから閾値の算出方法を改良したものである。手法としては画像からサンプルとして大型船1隻の写る範囲500×500pixelの領域(1)と小型船5隻の映る範囲1000×1000pixelの領域(2)を切り取り、領域(1)(2)の海面と船舶のヒストグラムから閾値を定め、この閾値を画像全体に適用し閾値以上の値のピクセルを検出し船舶であると判定する方法である。

 2つ目はATM法(Adaptive threshold method)である。この方法は画像中から小領域を設定し、その領域の中で閾値を計算し、この小領域を移動ウィンドウとして画像全体に走査させる事で各領域に合わせた閾値を求めて船舶の検出を行う方法である。本研究では水越・大内・渡辺(2019)の研究1)に用いられた移動ウィンドウと閾値の導出式を参考にアルゴリズムの作成を行った。

 対象地域とデータは昨年と同じく通過する船舶の多さと予想される航行速度を考慮して和歌山県沖の太平洋から紀伊水道、大阪湾にかけての海域を2019年11月18日撮影の1シーンを用いた。船舶検出の比較考察に同時刻同地域のAIS情報を用いた。

 固定閾値法の閾値は領域(1)(2)のヒストグラムからDN=5000と求め、この閾値を用いたAIS及び目視による船舶の検出結果は33/33隻(100%)となった。アルゴリズムの処理時間は約2秒であった。検出の特徴として、船舶以外の海面の誤検出点はATM法と比べ少ないが沿岸域を中心として誤検出点が現れた点、小型船の検出結果がATM法に比べ不十分となった船があった点が挙げられた。

 ATM法の移動ウィンドウは小型船がバッファウィンドウに入る大きさとし、バックグラウンドウィンドウ81×81及びバッファウィンドウ41×41と設定した。これによる検出結果は33/33隻(100%)となった。アルゴリズムの処理時間は約3時間であった。検出の特徴としては沿岸域の誤検出は見られなかったが船舶の周囲以外の海面にスペックルノイズが現れた点、固定閾値法に比べ小型船の検出が鮮明な点が挙げられた。

 これら2手法を比較すると、固定閾値法は海面の誤検出点の少なさと処理時間の短さに優位が認められ、対してATM法は小型船の検出の鮮明さと沿岸域の誤検出点の少なさに優位が認められた。