日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT37] 最先端ベイズ統計学が拓く地震ビッグデータ解析

2021年6月3日(木) 10:45 〜 12:15 Ch.18 (Zoom会場18)

コンビーナ:長尾 大道(東京大学地震研究所)、加藤 愛太郎(東京大学地震研究所)、矢野 恵佑(統計数理研究所)、椎名 高裕(産業技術総合研究所)、座長:栗原 亮(東京大学地震研究所)、永田 貴之(東北大学)

10:45 〜 11:00

[STT37-01] 2020年新型コロナ禍におけるMeSO-netノイズ低下とその後

★招待講演

*矢部 優1、今西 和俊1、西田 究2 (1.産業技術総合研究所、2.東京大学地震研究所)

キーワード:地震計ノイズ、新型コロナウイルス感染症、社会活動

2020年初頭から新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が日本でも猛威をふるい,社会活動が大きな変容を迫られている.特に2020年4月に緊急事態宣言が発令された際には,不要不急の外出の自粛が要請され,テレワークの推進による通勤の削減が図られるなど,人の生活パターンが大きく変化した.人の動きを携帯電話の位置情報から推定することで,このような生活パターンの変化が可視化され,日々のニュースでも取り上げられている.本研究では,首都圏地震観測網(MeSO-net)地震計の高周波(>1Hz)ノイズレベルにも,COVID-19による社会活動の変化が記録されていることを紹介する.

COVID-19以前から,地震計の高周波ノイズレベルに社会活動の影響が存在することは知られていた.ノイズレベルには,週末よりも平日に,夜間よりも日中にノイズレベルが高いという特徴がよく見られ,これは社会活動の活発な時間帯に対応している.また,年末年始などの大型連休中にノイズレベルが低下することも社会活動のパターンと対応する.しかし,これまでは具体的な社会活動の指標とノイズレベルの変化を比較する機会には恵まれてこなかった.COVID-19によって社会活動の活発度が携帯電話の位置情報を通じて可視化されたことで,本研究は社会活動とノイズレベルとの比較を行った.

MeSO-net地震計のノイズレベルは,いくつかのタイミングで変化している.まず,2020年3月初頭にわずかにノイズレベルが低下している.これは学校の休校が実施されたタイミングと一致する.さらに2020年3月末の都知事による自粛要請や2020年4月8日の緊急事態宣言の発出と一致したタイミングでノイズレベルは低下し,多くの地点で最大10-20%程度のノイズ低下が発生した.2020年5月中旬になると、首都圏の緊急事態宣言の解除(5月25日)を待たずしてノイズレベルは増加に転じる.緊急事態宣言解除後はノイズレベルが例年並みに戻る地点も多いが,5%程度のノイズ低下が継続する地点も都心を中心として存在する.2021年1月の緊急事態宣言再発令時には,2020年の際のような大きなノイズ低下は見られず,若干のノイズ低下傾向が確認できるのみであった.

このノイズレベルの変化は,社会活動の変化と対応を見出すことができる.株式会社Agoopの発表する鉄道駅周辺の滞在人口データによると,首都圏の人出はノイズレベルの低下したタイミングと一致して減少している.これは社会活動の停滞に伴ってノイズレベルが低下したと考えられる.5月中旬のノイズレベルの増加も人出の増加と一致しており,社会活動の再開がノイズレベルの増加につながったと考えられる.2020年後半の人出はCOVID-19以前ほどには回復していないが,地震計ノイズレベルは例年並みに回復している地点も多い.また,2021年初頭には2020年末に比べて首都圏の人出が減少したが,ノイズレベルには若干の低下傾向が見られるのみである.これらは,鉄道駅周辺の滞在人口データが示す社会活動の活発度が地震計ノイズレベルと単純に対応するわけではないことを示している.

地震計ノイズの励起源としては,人の移動に伴う振動のほか,車や電車といった交通や工場・建物における機械振動などが考えられるが,それぞれの寄与が具体的に理解されているわけではない.今回参照した鉄道駅周辺の滞在人口データ以外にも様々な社会活動指標を収集し,地震計ノイズレベルの時空間変化と比較していくことで,地震計ノイズレベルから社会活動の活発度をより定量的に評価可能になると期待される.