日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT37] 最先端ベイズ統計学が拓く地震ビッグデータ解析

2021年6月3日(木) 10:45 〜 12:15 Ch.18 (Zoom会場18)

コンビーナ:長尾 大道(東京大学地震研究所)、加藤 愛太郎(東京大学地震研究所)、矢野 恵佑(統計数理研究所)、椎名 高裕(産業技術総合研究所)、座長:栗原 亮(東京大学地震研究所)、永田 貴之(東北大学)

11:00 〜 11:15

[STT37-02] MCMC法を用いた断層域近傍における地震震源と1次元速度構造の同時推定

*椎名 高裕1、加納 将行2 (1.産業技術総合研究所、2.東北大学理学研究科)

キーワード:MCMC、震源決定、1次元速度構造

地震の震源位置の決定は地震学において基盤的な解析である.例えば,大規模地震や余震の震源を精度良く決定することは本震のメカニズムや余震活動の特徴を理解する上で非常に重要である.一般的には,観測波形から読み取られたP波やS波の到着時刻から震源位置の推定が行われる.このとき,理論走時を計算するために震源域と観測点間の地震波速度を与えなければならず,多くの場合,JMA2001モデル[上野・他, 2002]に代表される,事前に構築した速度構造モデルが利用されている.一方,内陸で発生する地震の活動域はしばしば地質学的な構造境界付近に分布する.構造境界付近では,岩石などの物質構造を反映して,地震波速度が空間的に変化することが予想される.このため,速度構造を同時に推定するなどして,地震活動域周辺の局所的な不均質構造を考慮した震源位置の推定が必要となる[e.g., Zhang and Thurber, 2003; Ryberg and Haberland, 2019].
大規模地震発生直後のように,観測データ量が限定する条件下では,深さ方向にのみ速度が変化する1次元的な構造モデルの仮定が現実的である.ただし,構造が鉛直かそれに近い傾斜を持つ構造境界に切られている場合には,構造境界を挟む観測点群にそれぞれ異なる1次元構造モデルを仮定することで,震源位置の推定精度が大きく向上し,より現実的な震源分布を得ることができる[Sakai et al., 2004; 2005].しかしながら,地表面の地質構造や反射法などの構造探査の結果などを先験情報として観測点をクラスタリングせざるを得ない.このため,Sakai et al. [2004; 2005]のように,複数の1次元速度構造を組み合わせた震源決定の適用は,現状,地下構造が既知の限られた地域に限定される.
そこで本発表では,地震の活動域を境に地震波速度構造が水平方向に大きく変化する領域において,震源位置の決定と1次元的な速度構造の推定,および地下構造を反映した観測点のクラスタリングを同時に行う解析手法を提案する.具体的には,マルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC法)の一種であるreversible-jump MCMC法[Green, 1995]を用いて震源位置や地震波速度構造の推定を行うとともに,理論走時計算に使用する構造モデルを観測点ごとにデータ駆動的に選択させることでクラスタリグを行う.本発表では数値実験による提案手法の有用性を示すとともに,実観測データへの適用例として,提案手法を用いて2004年新潟県中越地震発生域での地震の震源位置や1次元速度構造を推定した結果を示す.

謝辞:本研究はJST CREST [JPMJCR1763]およびJSPS KAKENHI [JP18K03796]の支援を受けました.記して感謝申し上げます.