日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT37] 最先端ベイズ統計学が拓く地震ビッグデータ解析

2021年6月3日(木) 17:15 〜 18:30 Ch.14

コンビーナ:長尾 大道(東京大学地震研究所)、加藤 愛太郎(東京大学地震研究所)、矢野 恵佑(統計数理研究所)、椎名 高裕(産業技術総合研究所)

17:15 〜 18:30

[STT37-P05] 相互情報量を用いたマッチドフィルタ法による深部低周波地震の検出

*栗原 亮1、加藤 愛太郎1、長尾 大道1,2、倉田 澄人2 (1.東京大学地震研究所、2.東京大学大学院情報理工学系研究科)

キーワード:マッチドフィルタ法、深部低周波地震、相互情報量

深部低周波地震などの微小な地震の検出手法としてテンプレートとなる波形と観測データとの相関係数を利用して検出するマッチドフィルタ法がよく利用される。この手法では通常複数の観測点を利用するが、十分な観測点数や十分なテンプレートが存在しない場合では、検出精度が低下する問題があり、適用可能な状況が限られていた。そこで本研究では、波形の類似度を評価する手法として、広い周波数帯の波形を用いて、相関係数だけでなく、相互情報量を計算し、相互情報量と相関係数の積を指標として検出を行う1観測点のみのデータを使用した新たなマッチドフィルタ法の手法を開発した。相互情報量とは、2つの変数に関して、線形に限らない関連性を示す指標である。タイムウインドウ内の全てのタイムステップに対して、テンプレートの振幅と解析対象のデータの振幅をそれぞれ規格化し、それぞれの指標を元に5×5のグリッドに分割し、各グリッド内のデータ点数を求めることにより相互情報量を計算した。

まず、人工的なノイズ波形に深部低周波地震の波形を加えたデータセットに対して適用しこの手法の検証を行った。その結果、ホワイトノイズと深部低周波地震の卓越周波数に近い1.25Hzの正弦波のノイズの両方に対して、相関係数を単独で用いる場合と比べ、相互情報量と相関係数の積は真の信号に対応して明瞭なピークを持つことが確かめられた。

次に、200個のテンプレート波形を利用し霧島山での2011年噴火直前の2010年12月のデータに適用し検出を行ったところ、気象庁カタログでわずか2個の深部低周波地震が観測されている期間に対し、1観測点でのマッチドフィルタ法により354個のイベントを検出することができた。周囲の6観測点のデータを利用して行ったマッチドフィルタ法の結果と比較すると、深部低周波地震である確率が相当高いイベントを見逃したのは88個中8個であり、354イベント中302イベントは誤検出の可能性が低いと判断できるイベントであった。

また、6観測点を利用する場合では、利用するテンプレートのわずかな震源位置や波形の違いにより相関係数が変化するため、一部のテンプレートにおいて閾値未満のピークしか得られないことがある。このため、6観測点のマッチドフィルタ法には大量のテンプレートを使用する必要がある。一方で、1観測点の場合ではそういったテンプレートであっても顕著なピークを持つことがわかった。

以上の結果から、1観測点のみのデータを用いた場合であっても、相関係数と相互情報量の積を指標としたマッチドフィルタ法による検出を行うことによって、深部低周波地震の精度の高いカタログを作成することができると考えられる。