日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC27] 火山防災の基礎と応用

2021年6月6日(日) 10:45 〜 12:15 Ch.25 (Zoom会場25)

コンビーナ:宝田 晋治(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、吉本 充宏(山梨県富士山科学研究所)、千葉 達朗(アジア航測株式会社)、宮城 洋介(国立研究開発法人 防災科学技術研究所)、座長:宝田 晋治(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、吉本 充宏(山梨県富士山科学研究所)

11:30 〜 11:45

[SVC27-04] 富士山における落石現象の運動解析による岩塊崩落地点の推定

*桜田 泰志1、逸見 良道2、石峯 康浩3、宮本 英昭1 (1.東京大学、2.東京大学総合研究博物館、3.山梨県富士山科学研究所)


キーワード:富士山、落石、個別要素法、ボルダートラック

落石現象は地球のみならず火星、月でも普遍的に観察されている、最も活発に生じる斜面における土砂移動現象のひとつである。急峻な斜面の一部が落下し斜面を移動するこの現象は、山岳地帯で高頻度でみられるが、火星や月ではクレーターの内壁や谷地形の斜面などで確認されることが多い (Bickel et al., 2020; Senthil Kumar et al., 2019)。地球では土壌の凍結融解に関連して生じることが多いが、一方で火星や月では天体外からの衝突体による振動で引き起こされると考えられている (Bickel et al., 2020; Brown & Roberts, 2019)。ほぼ瞬間的に生じる高速な斜面現象のため、直接観測されることは少ないが、斜面に新たに生じた擦痕や岩石破砕物の分布などで容易に認識することができる。
私たちは2019年9月に富士山北東斜面で生じた落石現象に着目している。この事象に関連した死傷者は無く、軽微な建築物損傷が確認された程度であるが、落石と表面土砂の擦痕とみられる痕跡が点々と続いており(ボルダートラック)、これが火星や月の斜面でよくみられるものと大きさや形態の意味で類似している点が興味深い。私たちは、このボルダートラックの大きさや分布、その形成時のボルダーの移動について、太子舘の井上義景氏の協力のもと、写真や証言、ドローンや衛星による高解像度画像、数値地形地図を用いた数値モデリングを用いて検討した。その結果、2m以上の大きさの岩塊が、標高3600m付近から落下し、標高3250-3400m付近に11-14個の擦痕を約30m程度の間隔で残したと考えている。その後、他の大きな岩塊に約50m/s以上の速度で衝突し、およそ300mほど跳躍したとすると、観察事実が説明できることがわかった。この際、高速で落下する岩塊の場合、その初期位置が岩塊移動ルートの最も重要な要素であることがわかった。これは落石事象において、その岩塊の崩落地や移動速度を求める上でボルダートラックの解析が有効であることを示唆している。

参考文献
Bickel, V. T., Aaron, J., Manconi, A., Loew, S., & Mall, U. (2020). Impacts drive lunar rockfalls over billions of years. Nature Communications, 11(1), 1–7. https://doi.org/10.1038/s41467-020-16653-3
Brown, J. R., & Roberts, G. P. (2019). Possible Evidence for Variation in Magnitude for Marsquakes From Fallen Boulder Populations, Grjota Valles, Mars. Journal of Geophysical Research: Planets, 124(3), 801–822. https://doi.org/10.1029/2018JE005622
Senthil Kumar, P., Krishna, N., Prasanna Lakshmi, K. J., Raghukanth, S. T. G., Dhabu, A., & Platz, T. (2019). Recent seismicity in Valles Marineris, Mars: Insights from young faults, landslides, boulder falls and possible mud volcanoes. Earth and Planetary Science Letters, 505, 51–64. https://doi.org/10.1016/j.epsl.2018.10.008