日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC28] 活動的⽕⼭

2021年6月4日(金) 13:45 〜 15:15 Ch.25 (Zoom会場25)

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、三輪 学央(防災科学技術研究所)、松島 健(九州大学大学院理学研究院附属地震火山観測研究センター)、座長:大湊 隆雄(東京大学地震研究所)、前田 裕太(名古屋大学)

13:45 〜 14:00

[SVC28-07] 御嶽山浅部への流体供給構造の地震学的イメージング

*前田 裕太1、渡辺 俊樹1 (1.名古屋大学)

キーワード:御嶽山、地震波速度構造、反射断面

1. はじめに
熱水系卓越型火山において深部から浅部への流体供給機構の解明は水蒸気噴火とその準備過程を知る上で重要である。御嶽山では2014年以降に高密度観測網が整備され、浅部への流体供給に関係すると思われる地震活動や地殻変動が観測されている。また御嶽山のマグマ供給系(Takagi and Onizawa, 2016; Murase et al., 2016)や浅部の電磁気学的構造(Abdallah and Mogi, 2016)の解明も進められた。一方、地震学的手法による御嶽山の構造推定はこれまで山麓域が中心であった(e.g., Ikami et al., 1986; Doi et al., 2013)。本研究では2017年11月から開始した山頂域の稠密地震観測データを用いて御嶽山深部から浅部への流体供給に関わる地震学的構造の解明を試みた。

2. 解析
(1) 稍深発地震の初動を用いた山頂域浅部のP波速度の推定
山頂域浅部の代表的なP波速度は震源決定やより詳細な構造推定のための出発点として重要であるのでまずこれを推定する。御嶽山直下では太平洋プレート沿い(深さ約250 km)で稍深発地震が発生する。その波形を観測点の標高順に並べると下方から上方に向かう初動の伝播を確認できる。本研究ではこれを鉛直入射の平面波と近似し、その伝播速度をセンブランス法により推定した。観測点の水平位置による走時のばらつきを抑えるため山頂に近い標高1500 m以上の観測点を用いた。その結果、地震ごとに多少の差異はあるもののP波速度Vp = 2600 m/s前後を仮定するとセンブランス値が最大になることが分かった。この値はIkami et al. (1986)により屈折法で推定された御嶽山南東麓の第1層のP波速度(2800 m/s)と近い。

(2) 浅発地震の初動を用いた山頂直下の3層構造の推定
御嶽山では火口直下浅部で火山構造性地震が発生する。山頂域に稠密観測網が整備された2017年11月の1ヶ月間についてそれらの地震の再検測を行った。得られた59個の地震についてP波、S波初動時刻を最もよく説明する震源位置をグリッドサーチにより探索した。その際の地震波速度構造として、(i)上記(1)の結果を踏まえてVp = 2600 m/sの均質媒質を仮定した場合、(ii)Vp = 2600 m/sとVp = 5900 m/sの水平2層構造の場合、(iii)Vp = 2600 m/s, 3900 m/s, 5900 m/sの水平3層構造の場合を試した。3900 m/s, 5900 m/sはIkami et al. (1986)において御嶽山南東麓の第2層、第3層のP波速度として推定されているものである。いずれの場合もS波速度Vs = Vp/√3とし、層境界の標高はグリッドサーチにより最適なものを探索した。その結果、3層構造で第2層と第3層の境界を標高1000 mに置いた場合に走時残差最小となった。第1層と第2層の境界は標高1900 mに置いた場合と2500 mに置いた場合でほぼ同等の残差であったが、解析(1)における推定値Vp = 2600 m/sが標高1500 m以上の観測点から得られたものであることを踏まえると標高1900 mに層境界を置く方が妥当と思われる。

(3) 雑微動の自己相関を用いた浅部反射断面の推定
雑微動の自己相関を用いると疑似的な反射断面が得られる。本研究では2017年11月~2020年5月の1時間毎の連続波形記録を1 bit化した上で自己相関関数を計算し、それらをスタッキングした。浅部の詳細な構造をイメージングするために高周波帯を用いる必要があり、本研究では6-14 Hzを用いた。(2)で推定した3層構造により時間差を深さに変換することで反射断面を作成した。その結果、多くの観測点では深さ数百m程度よりも深部で反射が弱くなる一方、噴火口に近い観測点においては深さ4 km付近まで比較的強い反射が続く傾向が見いだせた。

3. 考察
(2)で得られた第1層と第2層の境界面の標高は地表で見られる新期御嶽(活動時期:10万年前以降)と古期御嶽(活動時期:40万年前以前)の境界に近く、Vp = 2600 m/s, 3900 m/sがそれぞれ新期御嶽と古期御嶽の代表的な地震波速度を表している可能性がある。(3)の反射断面においても一部の観測点のみであるがこの境界に近い標高の反射面が見られる。
(2)で得られた震源は標高900-2100 mの範囲に分布している。これは山麓観測網で推定されてきた標高よりも浅く、Narita and Murakami (2018)によって推定された2014年以降の収縮の深部ソース(深さ3000 m以深)と浅部ソース(深さ500 m)を繋ぐ間の深さにあたる。(3)で推定された火口直下の比較的深部まで続く反射もほぼ同じ位置にあたる。これらの結果は深部ソースから浅部ソースへの流体移動に伴う地震活動およびそれによって発生した多数の亀裂による反射と解釈しうる。

謝辞
本研究はJSPS科研費JP19K04016および文部科学省による「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画(第2次)」の助成を受けたものである。気象庁、防災科学技術研究所、長野県、岐阜県の地震観測データを使用した。