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[SVC28-08] 火山構造性地震のエンベロープ幅の逆問題解析によるタール火山の散乱構造とその時間変化の推定
キーワード:火山構造性地震、タール火山、エンベロープ幅、散乱、逆問題解析
2020年1月に噴火したタール火山では噴火前の数年間にわたって活発な地震活動が観測された。これらは噴火に関連するマグマや熱水系の活動を反映していると考えられ、短波長の構造の影響を強く受ける散乱波は、それらの活動の時間変動を理解するうえで重要である。タール火山の散乱構造について、先行研究では火山構造性地震の波形記録から5−10Hz帯のエンベロープ波形をエンベロープ幅p(積算した振幅を最大振幅で割った比であり時間の次元を持つ)で定量化して、層ごとに均一な平均自由行程l0と内部減衰Qiの値を持つ深さ方向1次元モデルを推定している。しかし最近起きたイベントを含めた解析を行った結果、このモデルでは1kmより浅い位置に震源がある場合の観測エンベロープ幅をうまく説明できないことがわかった。そこで本研究では、エンベロープ幅を用いた逆問題解析によって1次元モデルを再推定し、これを用いて3次元モデルおよびその時間変化の推定を行った。使用したデータはタール火山の火山島内外に設置された8つの地震観測点において、2011年11月から2017年4月に観測された全224の火山構造性地震で、そのうち2013年5月までの58イベントは先行研究によって使用されたものと同一である。各層におけるl0-1とQi-1の値の、従来のモデルからの変化量をΔl0-1とΔQi-1とする。モンテカルロ法を用いて、従来のモデルでのpの計算値と、各層についてl0-1やQi-1を微小量δl0-1とδQi-1だけずらした場合の計算値を求め、これらの差として求まるpについてのl0-1とQi-1の偏微分(傾き)を用いて、計算値と観測値の残差Δpが小さくなるように重み付き最小二乗法を解き各層のΔl0-1とΔQi-1を推定する。第2層はl0とQiに対する感度が低かったので、従来のモデルの値をそのまま使用し、1層目についてのみ逆問題解析を行った。その結果、深さ1㎞未満の第1層ではl0とQiがともに従来の1次元モデルより小さい値に推定された。3次元的なl0とQiの分布を知るために新1次元モデルでの残差Δpの空間分布を確認したところ、主火口の地熱地帯付近にΔpが大きい波線が集中し、また山体東斜面にΔpが小さい波線が多く存在していた。よって第1層内に先験的に2つの異常領域(C:主火口地熱地帯直下, E:火山島東斜面下)を設定し、それらのl0とQiの新1次元モデルからの変化量をΔl0-1およびΔQi-1として偏微分係数を求め、新1次元モデルからの逆問題解析によって3次元モデルを推定した。解析の結果、異常領域Cでは1次元モデル第1層と比較してl0が小さく推定され、過去の火道内の割れ目などによる強い不均質性によると解釈される。また殆ど同じ位置で起きた複数のイベントについて、異常領域Eの直上にある観測点でのみ高周波数帯の観測波形が大きく変化することから、そこの散乱特性が時間変化していることが先行研究から示されていた。よって3次元モデルでの計算エンベロープ幅と観測エンベロープ幅の残差を用いて、イベント毎に異常領域Eの逆問題解析を行いl0やQiを推定した。その結果、異常領域EのQiの変化が見られなかった一方でl0が大きく変化していた。l0が小さく不均質が強い時期はタール火山の火山構造性地震の活動度が高い時期と一致していた。また先行研究により貫入マグマが山体東斜面地下に存在することが推定されており、タール火山での長期にわたる過剰な火山ガス放出から火道内マグマ対流が生じていると解釈されている。散乱の強さの変化は異常領域Eに位置する火道内マグマの不均一な発泡度と結晶密度の変化を反映していると考えられる。マグマだまりへの含水率の高いマグマの供給が活発化すると、その周囲の応力場に影響を及ぼし構造性地震を多発させると同時に、高含水率マグマの一部が減圧発泡と微結晶の生成を伴いながら火道内を上昇して火道内マグマ対流を活性化させ、気泡に富む上昇中のマグマと地表付近で脱ガスしたマグマの不均質性が強まることで、散乱が強く(l0が小さく)なると解釈できる。このような火道内マグマの不均質性が2020年の噴火にむけてどのように変動したのか、より最近のイベントを用いて解析する必要がある。