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[SVC28-11] 活動的火山における環状断層すべりのモーメントテンソル:Galápagos諸島Sierra Negraカルデラ火山における鉛直CLVD地震の事例研究
キーワード:カルデラ、火山性地震、環状断層、モーメントテンソル
活動的火山においては,非ダブルカップルの鉛直CLVD(compensated-linear-vector-dipole)成分に富んだモーメントテンソルを示し,モーメントマグニチュード(Mw)が5–6程度の火山性地震が発生することがある.特にカルデラ構造を持つような火山でしばしば観測される鉛直CLVD地震は,マグマ起源の応力場環境にある火山体地下の環状断層が傾斜すべりを起こすことで発生すると考えられ,「環状断層すべり」と呼ばれる (Shuler et al., 2013, JGR).しかしながら,その断層構造の複雑性や震源の浅さが原因で,鉛直CLVD地震の長周期地震波から,環状断層すべりの震源パラメータを推定することは困難とされてきた.本研究では,両者の関係性を理論的かつ数値的に調べることで,長周期地震波から環状断層すべりの震源パラメータを推定する方法を提案し,実際の観測記録を用いた事例研究を通して,提案した手法の有用性を検証する.
まず,環状断層すべりの理論的なモーメントテンソルをモデル化し,鉛直dip-slip (DS),鉛直strike-slip (SS),鉛直CLVD (CLVD) の三つの成分に分解する (Figure).地殻内約5 km以浅で発生する場合には,鉛直DS成分の長周期地震波の励起効率が,他の二成分に比べて極端に低い (Kanamori & Given, 1981, PEPI) ため,主に火山体浅部で起こる環状断層すべりの鉛直DS成分は,長周期地震波から推定することができない.この特徴を踏まえ,推定可能な鉛直CLVD成分と鉛直SS成分のみに着目して,環状断層すべりの震源パラメータを推定する手法を考案する.この手法では,二成分のうちCLVD成分が占める割合の大きさから環状断層の円弧の広がりを推定し,鉛直SS成分の圧縮軸あるいは伸長軸の方向から環状断層の方向を制約することができる.
この手法の有用性を調べるため,Galápagos諸島Sierra Negraカルデラ火山の2005年活動中に発生した鉛直CLVD地震 (Mw 5.5, 2005年10月22日, UTC) について,その長周期地震波から推定したモーメントテンソルを用いて震源パラメータを推定する.遠地広帯域地震計 (震央距離12.6°–46.6°) で記録された長周期地震波記録 (周期80–200秒) のを用いて,モーメントテンソル推定を行った.その結果,震源の位置や深さによって鉛直DS成分が不安定に推定される一方で,鉛直CLVD成分と鉛直SS成分は安定的に推定されることが確認された.そこで,上で提案した手法を用いて,この地震がおおよそ東西方向に伸びたおよそ90°程度の円弧の広がりを持つ環状断層で発生したと推定した.この推定結果は,先行研究で測地学的観測や現地調査で特定された同カルデラ火山の環状断層の構造と整合的であった.さらに2018年の火山活動中に同カルデラ火山で発生した二つの鉛直CLVD地震 (Mw 5.3, 2018年6月26日; Mw 5.1, 2018年7月5日) に対してもGlobal CMTカタログで報告されたモーメントテンソル解の鉛直CLVD成分と鉛直SS成分に着目し,それぞれの震源パラメータを推定すると,すべり方向が逆向きの環状断層すべりがカルデラ構造内の異なる位置で発生したことが示唆された.
以上の結果は,鉛直CLVD地震の長周期地震波を用いて環状断層すべりの震源パラメータを推定する手法の有用性を示すものである.この手法を用いることで,世界中に広く存在する同種の地震を伴う活動的火山での断層破壊運動や地下構造を調べることが可能になる.鉛直CLVD地震の震源の理解は,活動的火山地下における断層運動やマグマ蓄積過程を知る手がかりとなり,火山活動推移評価の精度向上が期待される.本発表では,環状断層すべりに特徴的な非効率的な地震波励起特性や,体積変化を伴う地震現象が同時に発生した場合の震源パラメータ推定の偏りについても議論する.
まず,環状断層すべりの理論的なモーメントテンソルをモデル化し,鉛直dip-slip (DS),鉛直strike-slip (SS),鉛直CLVD (CLVD) の三つの成分に分解する (Figure).地殻内約5 km以浅で発生する場合には,鉛直DS成分の長周期地震波の励起効率が,他の二成分に比べて極端に低い (Kanamori & Given, 1981, PEPI) ため,主に火山体浅部で起こる環状断層すべりの鉛直DS成分は,長周期地震波から推定することができない.この特徴を踏まえ,推定可能な鉛直CLVD成分と鉛直SS成分のみに着目して,環状断層すべりの震源パラメータを推定する手法を考案する.この手法では,二成分のうちCLVD成分が占める割合の大きさから環状断層の円弧の広がりを推定し,鉛直SS成分の圧縮軸あるいは伸長軸の方向から環状断層の方向を制約することができる.
この手法の有用性を調べるため,Galápagos諸島Sierra Negraカルデラ火山の2005年活動中に発生した鉛直CLVD地震 (Mw 5.5, 2005年10月22日, UTC) について,その長周期地震波から推定したモーメントテンソルを用いて震源パラメータを推定する.遠地広帯域地震計 (震央距離12.6°–46.6°) で記録された長周期地震波記録 (周期80–200秒) のを用いて,モーメントテンソル推定を行った.その結果,震源の位置や深さによって鉛直DS成分が不安定に推定される一方で,鉛直CLVD成分と鉛直SS成分は安定的に推定されることが確認された.そこで,上で提案した手法を用いて,この地震がおおよそ東西方向に伸びたおよそ90°程度の円弧の広がりを持つ環状断層で発生したと推定した.この推定結果は,先行研究で測地学的観測や現地調査で特定された同カルデラ火山の環状断層の構造と整合的であった.さらに2018年の火山活動中に同カルデラ火山で発生した二つの鉛直CLVD地震 (Mw 5.3, 2018年6月26日; Mw 5.1, 2018年7月5日) に対してもGlobal CMTカタログで報告されたモーメントテンソル解の鉛直CLVD成分と鉛直SS成分に着目し,それぞれの震源パラメータを推定すると,すべり方向が逆向きの環状断層すべりがカルデラ構造内の異なる位置で発生したことが示唆された.
以上の結果は,鉛直CLVD地震の長周期地震波を用いて環状断層すべりの震源パラメータを推定する手法の有用性を示すものである.この手法を用いることで,世界中に広く存在する同種の地震を伴う活動的火山での断層破壊運動や地下構造を調べることが可能になる.鉛直CLVD地震の震源の理解は,活動的火山地下における断層運動やマグマ蓄積過程を知る手がかりとなり,火山活動推移評価の精度向上が期待される.本発表では,環状断層すべりに特徴的な非効率的な地震波励起特性や,体積変化を伴う地震現象が同時に発生した場合の震源パラメータ推定の偏りについても議論する.