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[SVC28-12] 2019-2020年西之島噴火:島内の地震計・空振計データによる活動推移
キーワード:西之島、火山性地震、空振、衛星通信
小笠原諸島の西之島では2013年11月に火山活動が始まった。その時点で存在していた西之島(以下旧島と呼ぶ)の南東沖で始まった活動は徐々に活発化し、溶岩流出を伴う活動に移行して2014年10月までに旧島は一部を除き溶岩流で埋め尽くされた。活動はその後も消長を繰り返しながら継続しており、一連の活動は2013年-2015年の活動(第1期)、2017年の活動(第2期)、2018年の活動(第3期)、そして2019年12月に始まり2020年7月末ごろまで続いた活動(第4期)に分けることができる。
第1期と第2期の間の噴火活動停止期間中の2016年10月に噴火開始後初の上陸調査が行われ、地質調査・噴出物採取・地震計および空振計の設置・生物調査が実施された(武尾他,2018,前野他,2018)。この調査で設置された観測機器は第2期の溶岩流で埋もれたが、活動初期の貴重なデータを得ることができた。
第3期活動後の2019年9月には環境省による「2019年西之島総合学術調査」が実施された。著者らは上陸調査に参加し溶岩流に覆われずに残された旧島部に地震・空振観測機器を再度設置した。2019年12月に始まった第4期の活動では溶岩流出を伴う活発な活動が続き、2020年6~7月の最盛期を迎えた後7月末には急速に衰えた。設置された装置は、第4期の活動開始からの地震・空振信号を捉え、活動最盛期の途中までのデータを送り続けたが、通信は6月21日を最後に途絶え、その時点で溶岩に飲み込まれたと考えられる。本報告では、2019年9月に設置した観測機器の概要と、第4期の活動に伴い観測された地震・空振データの特徴を紹介する。
2019年9月の観測においても2016年10月調査時とほぼ同じ機材と手法(渡邉 他、2017)を用いている。電力は太陽電池で供給し、データの送信は衛星通信を用いて行う。地震・空振のデータ量は1日当たり約80MBに達するため、全てのデータをリアルタイムで送ることは通信費用や消費電力の制限により難しい。そのため、データを低周波側と高周波側に分けてそれぞれ1日分のランニングスペクトルを作成し、その圧縮ファイルのみを東京のサーバーに送ることとした。これにより送信するデータ量は1日当たり500kB程度に減らすことができる。ランニングスペクトルは毎日作成されて東京のサーバーに送られるので、翌日には地震・空振活動の概要を把握することができる。また処理前の元の波形データを衛星回線経由で回収することもできる。ランニングスペクトル上に顕著なイベントがあれば、該当する時間の波形データを後日回収する。
第4期の活動開始当初の地震・空振波形からは以下のことがわかる。2019年12月4日12時ごろから地動の高周波成分において振幅の増加が始まった。4日20時から5日4時にかけては衛星データにより熱異常が確認されている。この時点ではマグマが浅部に接近しているがマグマ流出はまだ始まっていなかったと見られる。5日早朝4時以降、地動振幅の増加が顕著になり、5時以降は空振も発生し始めたことから、この頃に山頂で小噴火が始まったと推定される。5日12時以降は空振・地震とも振幅や発生頻度が急増し、16:13に空振を伴う大振幅の地動が発生した。5日15時以降は熱異常も急増していることから、この頃に溶岩流出が本格化し、16:13分のイベントは溶岩流出口拡大を伴う爆発的な噴火だった可能性がある。
図に、第4期の噴火開始から6月21日までの地震波形上下成分のランニングスペクトルを示す。ランニングスペクトルが示す活動の特徴は以下のとおりである。活動開始直後は2Hz付近が卓越していたが、卓越周波数は徐々に低下し、噴出率の急増が始まる6月初めには0.5~1Hzとなった。6月に入ると卓越周波数はやや高周波側にシフトした。気象衛星ひまわりで得られた輝度値を用いて推定した噴出率の推移と地震の最大振幅変化とは必ずしも対応していない。地震波形の水平成分の粒子速度を見ると、1.5Hz以上の高周波成分については活動開始から一貫して活動中心である中央火口丘の方向を指しているが、0.5~1.5Hzのやや低周波成分は中央火口丘よりもやや南を指した状態から始まり、徐々に南北方向の振動へと推移している。高周波成分は中央火口丘で継続した小噴火に対応していると考えられるが、やや低周波成分は深部の流体の動きや圧力源の移動を反映している可能性がある。
発表では回収された地震・空振波形から推定される第4期の活動の推移をやや詳しく説明する予定である。
第1期と第2期の間の噴火活動停止期間中の2016年10月に噴火開始後初の上陸調査が行われ、地質調査・噴出物採取・地震計および空振計の設置・生物調査が実施された(武尾他,2018,前野他,2018)。この調査で設置された観測機器は第2期の溶岩流で埋もれたが、活動初期の貴重なデータを得ることができた。
第3期活動後の2019年9月には環境省による「2019年西之島総合学術調査」が実施された。著者らは上陸調査に参加し溶岩流に覆われずに残された旧島部に地震・空振観測機器を再度設置した。2019年12月に始まった第4期の活動では溶岩流出を伴う活発な活動が続き、2020年6~7月の最盛期を迎えた後7月末には急速に衰えた。設置された装置は、第4期の活動開始からの地震・空振信号を捉え、活動最盛期の途中までのデータを送り続けたが、通信は6月21日を最後に途絶え、その時点で溶岩に飲み込まれたと考えられる。本報告では、2019年9月に設置した観測機器の概要と、第4期の活動に伴い観測された地震・空振データの特徴を紹介する。
2019年9月の観測においても2016年10月調査時とほぼ同じ機材と手法(渡邉 他、2017)を用いている。電力は太陽電池で供給し、データの送信は衛星通信を用いて行う。地震・空振のデータ量は1日当たり約80MBに達するため、全てのデータをリアルタイムで送ることは通信費用や消費電力の制限により難しい。そのため、データを低周波側と高周波側に分けてそれぞれ1日分のランニングスペクトルを作成し、その圧縮ファイルのみを東京のサーバーに送ることとした。これにより送信するデータ量は1日当たり500kB程度に減らすことができる。ランニングスペクトルは毎日作成されて東京のサーバーに送られるので、翌日には地震・空振活動の概要を把握することができる。また処理前の元の波形データを衛星回線経由で回収することもできる。ランニングスペクトル上に顕著なイベントがあれば、該当する時間の波形データを後日回収する。
第4期の活動開始当初の地震・空振波形からは以下のことがわかる。2019年12月4日12時ごろから地動の高周波成分において振幅の増加が始まった。4日20時から5日4時にかけては衛星データにより熱異常が確認されている。この時点ではマグマが浅部に接近しているがマグマ流出はまだ始まっていなかったと見られる。5日早朝4時以降、地動振幅の増加が顕著になり、5時以降は空振も発生し始めたことから、この頃に山頂で小噴火が始まったと推定される。5日12時以降は空振・地震とも振幅や発生頻度が急増し、16:13に空振を伴う大振幅の地動が発生した。5日15時以降は熱異常も急増していることから、この頃に溶岩流出が本格化し、16:13分のイベントは溶岩流出口拡大を伴う爆発的な噴火だった可能性がある。
図に、第4期の噴火開始から6月21日までの地震波形上下成分のランニングスペクトルを示す。ランニングスペクトルが示す活動の特徴は以下のとおりである。活動開始直後は2Hz付近が卓越していたが、卓越周波数は徐々に低下し、噴出率の急増が始まる6月初めには0.5~1Hzとなった。6月に入ると卓越周波数はやや高周波側にシフトした。気象衛星ひまわりで得られた輝度値を用いて推定した噴出率の推移と地震の最大振幅変化とは必ずしも対応していない。地震波形の水平成分の粒子速度を見ると、1.5Hz以上の高周波成分については活動開始から一貫して活動中心である中央火口丘の方向を指しているが、0.5~1.5Hzのやや低周波成分は中央火口丘よりもやや南を指した状態から始まり、徐々に南北方向の振動へと推移している。高周波成分は中央火口丘で継続した小噴火に対応していると考えられるが、やや低周波成分は深部の流体の動きや圧力源の移動を反映している可能性がある。
発表では回収された地震・空振波形から推定される第4期の活動の推移をやや詳しく説明する予定である。