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[SVC28-25] えびの高原硫黄山2018年水蒸気噴火で解明された火山ガスに含まれるマグマ起源成分の挙動
キーワード:水蒸気噴火、火山ガス、二酸化硫黄
えびの高原硫黄山において,2015年12月から2020年7月の期間,火山ガスを三か所の噴気孔で繰り返し採取分析した.その結果,2017年5月と2018年3月に,SO2およびH2濃度に顕著な増加が観測された.えびの高原硫黄山では2018年3月の変化の直後である4月中旬に小規模な水蒸気噴火が発生している.噴気に含まれる水蒸気の安定同位体比から,以下に示すように,噴気の形成過程が解明された.高温のマグマ起源ガスと冷たい地下水が,混合し,100~160℃の熱水と蒸気相が形成された.熱水相と蒸気相は,硫黄山山頂付近で,それぞれ,温泉水と噴気として放出された.マグマ起源ガスの混合分率は時間変化し,最高値として,およそ49%と推定された.噴気のCO2/SO2比は大きく変化したが,マグマ起源ガスの本来の値として推定された既存の値を下回ることはなかった.これは,マグマ起源ガスが地下水と接触し,スクラビングされた際に,SO2が加水分解され部分的に失われたことを示唆している.マグマ起源ガスの流量が高い時に,スクラビングの効果が低下し,CO2/SO2比が低下すると考えられる.SO2,H2S,H2 ,H2O間の反応について定義される見かけ平衡温度(AETS)は2017年5月と2018年3月に顕著に高く,CO2/SO2比やH2S/SO2比の低下と合わせ,硫黄山の水蒸気噴火の前兆と見なされる.H2OとH2の水素同位体比から得られる見かけ平衡温度(AETD)も2017年5月と2018年3月に顕著に上昇したが,噴気孔間で,変化が協調しない事例が観測された.例えば,ある噴気のAETDは上昇したが,同時期に,別の噴気のAETDは低下した.噴気孔間の距離は,高々200mであり,AETDは地表近くの地下浅部で起きている現象に影響されていると推定される.マグマ起源ガスの流量が高い時に見かけ平衡温度は上昇すると考えられる.AETSは,2017年9月から2018年1月の期間,顕著に低下した.この期間に,硫黄山から南東に5km離れた新燃岳でマグマ噴火が発生しており,硫黄山直下のマグマ溜まりから新燃岳へマグマが輸送されると同時に,硫黄山に対するマグマ起源ガスの供給は抑制されたと考えられる.