日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC29] 火山の熱水系

2021年6月6日(日) 15:30 〜 17:00 Ch.25 (Zoom会場25)

コンビーナ:藤光 康宏(九州大学大学院工学研究院地球資源システム工学部門)、神田 径(東京工業大学理学院火山流体研究センター)、大場 武(東海大学理学部化学科)、座長:神田 径(東京工業大学理学院火山流体研究センター)、藤光 康宏(九州大学大学院工学研究院地球資源システム工学部門)

16:45 〜 17:00

[SVC29-12] 熱水流動数値計算とポストプロセッサーを用いた非噴火期における多項目観測モデリング

*田中 良1、橋本 武志1、成田 翔平2 (1.北海道大学大学院理学研究院附属地震火山研究観測センター、2.京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設 火山研究センター)

キーワード:熱水系、熱水流動数値計算、unrest event

近年,非噴火期の火山において,様々な変化が多項目に渡って同期して観測されている.本研究では,熱水系の活動に由来すると考えられる地盤変動と全磁力変化,熱活動の同期した変化に着目する.地盤変動は地下の圧力変化を,全磁力変化は地下の温度変化を主に反映すると考えられ,熱水系の活動を理解する上で重要な観測項目である.実際,日本のいくつかの火山でこれらの同期した変化が観測され,膨張性の地盤変動(以後,地盤膨張)と消磁性の全磁力変化(以後,消磁),熱活動の活発化の組み合わせが主に観測されている(例えば口永良部島や吾妻山).しかし,稀に地盤膨張と消磁,噴気高度の低下の組み合わせ(十勝岳)や収縮性の地盤変動(地盤収縮)と消磁の組み合わせ(霧島硫黄山2017年や九重山)が観測され,その組み合わせに多様性があることが明らかになっている.これらの多様性は深部からの熱水供給率の変化と噴気火道の一部の浸透率の変化の組み合わせによって生じる可能性がある(Tanaka et al., 2018).そこで,本研究では,熱水流動数値計算と地盤変動モデリング,全磁力変化モデリングをカップリングし,いくつかの条件で計算を行い,系の一般的な振る舞いを明らかにすることを目的とした.

熱水流動数値計算は,汎用熱水数値シミュレーターTOUGH2 (Pruess et al., 1999)を用いて多孔質媒質で近似した山体の温度圧力場の時間変化を計算した.二次元円筒座標系で軸中心付近に噴気火道を模した高浸透率領域 (半径 100 m, 浸透率1.0×10-12 m2) を設定した.それ以外の領域は母岩とし,浸透率は 1.0×10-14 m2と5.0×10-15 m2の2通りを計算した.簡単のために地形を平坦とし,火道底部から1500 ton/dayの熱水(350 ºC)を流入させ,1万年計算することで,準定常状態を表現した.その後,熱水供給率の3000 ton/dayへの増加と噴気火道内の深さ約200 mのセルの浸透率の1.0×10-14 m2への低下を与え,10年間計算した.

地盤変動計算には,汎用有限要素解析ソフトウェアCOMSOL Multiphysics (COMSOL, 2012)の偏微分方程式モジュールを使用した.山体を多孔質弾性体として扱い,拡張されたフックの法則(Jaeger et al., 2007)に従って温度・圧力変化に対応した地盤変動を計算した.全磁力変化は,温度変化のみによって生じ,山体が一様な温度磁化特性を(0.01 A/m/K)持つと仮定し,直方体モデル(Bhattacharyya, 1964)に従って計算した.放熱率は熱水流動数値計算によって計算される噴気火道最上部のセル(火口に相当)からの放熱率を合計し算出した.

深部からの熱水供給率と噴気火道内の浸透率の変化によって,地盤変動と全磁力,火口からの放熱率に同期した変化が計算された.供給率の増加のみを与えた場合,地下の温度・圧力増加に伴って,地盤膨張と消磁,火口からの放熱率の増加が同期して見られた.火道内の浸透率の低下を与えた場合,はじめに地盤膨張と帯磁性の全磁力変化(以後,帯磁),放熱率の低下が同期して見られた.これは,火道内の浸透率低下領域より上部の温度・圧力低下と浸透率低下領域より下部の温度・圧力増加が同時に起こることによるものだと考えられる.その後,浸透率低下領域より上部の温度・圧力低下が鈍化・反転することで,地盤膨張,消磁,放熱率の増加が見られた.地盤変動・全磁力の変動量は供給率増加のみを与えた場合に比べ,火道内の浸透率低下を与えた場合の方が大きかった.各変動の継続時間は母岩の浸透率の大小と火道内の浸透率の低下の有無によって変化した.火道内の浸透率低下と大きい母岩浸透率は長い変動を生じさせた.

供給率の増加と火道内の浸透率低下を与えた場合に現れた地盤膨張と帯磁の組み合わせは熱磁気効果を考えると特異な組み合わせである.現在のところ,実際の観測ではこのような組み合わせが見られた例を著者らは知らないが,霧島硫黄山や九重山で見られた,同様に特異な組み合わせである地盤収縮と消磁を引き起こすメカニズムに示唆を与える.つまり,火道内の浸透率増加により,それよりも上部で温度・圧力増加,下部で温度・圧力低下が同時に発生し,観測されたような特異な組み合わせの地盤変動と全磁力変化を発生させる可能性がある.
今後は,より多くの計算条件で計算を行い,同期した地盤変動・全磁力変化・熱活動の類型化を行う.また,キャップロックなどの浸透率構造や地形が与える影響を検討する必要がある.さらに,本計算により,熱水流動数値計算と実際に観測された観測量の直接的な比較が可能である.実際の観測量との比較を行い,非噴火期における熱水系の活動メカニズムを明らかにする.

本研究は文部科学省「次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト」の資金等の提供を受けました.