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[SVC30-02] 蔵王火山最新期の活動における斜長石斑晶滞留時間の推定
キーワード:拡散モデリング、斜長石、累帯構造、蔵王火山
1. はじめに
マグマプロセスの時間スケールは噴火メカニズムの解明や火山ハザード評価の上で重要な情報である.近年,斑晶鉱物の元素拡散モデリングによってマグマプロセスの時間スケールを明らかにする研究が活発に進められている.斜長石は斑晶鉱物として火山岩に普遍的に含まれ,マグマプロセスを推定する上で有用である.そこで本研究ではマグマの注入から噴火までの時間スケールを制約するために,斜長石斑晶の滞留時間の推定を行った.
2. サンプル・分析手法
御釜火口活動期噴出物(Okama activity products, OKP)は12世紀から19世紀にかけての活動に由来する噴出物で,このうち本質物と考えられる火山弾を採取して分析に用いた.サンプルは全て中間カリウム・カルクアルカリ系列の玄武岩質安山岩~安山岩組成(56-57 % SiO2)で,斑晶鉱物として斜長石,直方輝石,単斜輝石,まれにかんらん石を含む.
拡散モデリングは斜長石中のMgとCaAl-NaSiを対象とした.斜長石の累帯構造の分析にはEPMAを使用し,Anの累帯構造についてはCaAl-NaSiのnmスケールの微小な拡散を評価する必要があるため,ImageJによるBSE像の画像解析も併用した.
3. 斜長石斑晶組織・組成に基づく分類
OKP中の斜長石を組織・組成に基づいて4種類に分類した.Type Aは波動累帯構造が認められ,浅部マグマ溜まりへの高温マグマの注入による物理化学的条件の周期的な変化を反映している.Type BとCはパッチ状組織をもち,コア組成がそれぞれ低Anと高Anである.パッチ状組織は部分溶融によって形成するが,type Bは高温マグマの注入によって,type CはCaに富み水に不飽和なマグマが減圧することで溶融したと考えられる.Type Dは高Anの蜂の巣状組織が認められ,過冷却状態での急成長によってできたと考えられる.Type AとB, Cでは汚濁帯または高Anリムが認められ,噴火直前に高温マグマの注入があったことを示唆している.すべてのタイプの斑晶には低Anの最外縁リムが観察され,マグマ上昇時の脱ガスに伴ってリキダス温度が上昇して形成したものと推定される.
4. 斜長石斑晶の滞留時間
斜長石斑晶の滞留時間をMgとCaAl-NaSiの元素拡散モデリングによって推定した.Costa et al. (2003) のMg拡散モデルはAn組成の化学ポテンシャルおよび拡散係数への影響を加味できる一方で,type AやB斑晶のような累帯の縞が細かく,An組成が大きく変化する場合に計算が発散しやすい.この問題を回避するために,比較的累帯の幅が大きいtype CとD斑晶に絞って拡散モデリングを行った.Mg組成の初期条件はAn組成の実測値から,境界条件は石基組成と平衡な条件をそれぞれ仮定した.拡散方程式の数値計算には有限差分法を用いた.
結晶が完全に成長してから拡散が開始したとした場合(one-step model),斜長石斑晶の滞留時間は50-300年であった.しかし汚濁帯や高Anリムにおいて,拡散プロファイルが分析値とうまくフィッティングしなかったため,コアが成長した時点で拡散が開始し,続いてリムが成長した後にさらに拡散が起きたと仮定して計算を行った(multi-step model).例えばtype C斜長石にmulti-step modelを適用した結果,コア部分の滞留時間は比較的高温な条件で100年,リム部分の滞留時間は比較的低温な条件で5年未満と計算された.
一方,CaAl-NaSi拡散モデリングではコア-リム境界について無限領域における拡散方程式の解析解を用いて計算を行ったところ,Mgで得られた結果よりもやや短い時間スケール(10-50年程度)が得られた.この原因としてMgの拡散係数がCaAl-NaSiよりも大きく,元素拡散が中心まで進行しているために,多次元拡散の影響によって滞留時間が過大評価された可能性がある.そこで単純な累帯構造を仮定して2次元モデルでの数値計算を行い,1次元の場合と比較した.その結果1次元拡散モデルは2次元モデルの場合より数倍長い滞留時間が計算され,2次元モデルの結果はCaAl-NaSi拡散の場合の結果と調和的である.
マグマプロセスの時間スケールは噴火メカニズムの解明や火山ハザード評価の上で重要な情報である.近年,斑晶鉱物の元素拡散モデリングによってマグマプロセスの時間スケールを明らかにする研究が活発に進められている.斜長石は斑晶鉱物として火山岩に普遍的に含まれ,マグマプロセスを推定する上で有用である.そこで本研究ではマグマの注入から噴火までの時間スケールを制約するために,斜長石斑晶の滞留時間の推定を行った.
2. サンプル・分析手法
御釜火口活動期噴出物(Okama activity products, OKP)は12世紀から19世紀にかけての活動に由来する噴出物で,このうち本質物と考えられる火山弾を採取して分析に用いた.サンプルは全て中間カリウム・カルクアルカリ系列の玄武岩質安山岩~安山岩組成(56-57 % SiO2)で,斑晶鉱物として斜長石,直方輝石,単斜輝石,まれにかんらん石を含む.
拡散モデリングは斜長石中のMgとCaAl-NaSiを対象とした.斜長石の累帯構造の分析にはEPMAを使用し,Anの累帯構造についてはCaAl-NaSiのnmスケールの微小な拡散を評価する必要があるため,ImageJによるBSE像の画像解析も併用した.
3. 斜長石斑晶組織・組成に基づく分類
OKP中の斜長石を組織・組成に基づいて4種類に分類した.Type Aは波動累帯構造が認められ,浅部マグマ溜まりへの高温マグマの注入による物理化学的条件の周期的な変化を反映している.Type BとCはパッチ状組織をもち,コア組成がそれぞれ低Anと高Anである.パッチ状組織は部分溶融によって形成するが,type Bは高温マグマの注入によって,type CはCaに富み水に不飽和なマグマが減圧することで溶融したと考えられる.Type Dは高Anの蜂の巣状組織が認められ,過冷却状態での急成長によってできたと考えられる.Type AとB, Cでは汚濁帯または高Anリムが認められ,噴火直前に高温マグマの注入があったことを示唆している.すべてのタイプの斑晶には低Anの最外縁リムが観察され,マグマ上昇時の脱ガスに伴ってリキダス温度が上昇して形成したものと推定される.
4. 斜長石斑晶の滞留時間
斜長石斑晶の滞留時間をMgとCaAl-NaSiの元素拡散モデリングによって推定した.Costa et al. (2003) のMg拡散モデルはAn組成の化学ポテンシャルおよび拡散係数への影響を加味できる一方で,type AやB斑晶のような累帯の縞が細かく,An組成が大きく変化する場合に計算が発散しやすい.この問題を回避するために,比較的累帯の幅が大きいtype CとD斑晶に絞って拡散モデリングを行った.Mg組成の初期条件はAn組成の実測値から,境界条件は石基組成と平衡な条件をそれぞれ仮定した.拡散方程式の数値計算には有限差分法を用いた.
結晶が完全に成長してから拡散が開始したとした場合(one-step model),斜長石斑晶の滞留時間は50-300年であった.しかし汚濁帯や高Anリムにおいて,拡散プロファイルが分析値とうまくフィッティングしなかったため,コアが成長した時点で拡散が開始し,続いてリムが成長した後にさらに拡散が起きたと仮定して計算を行った(multi-step model).例えばtype C斜長石にmulti-step modelを適用した結果,コア部分の滞留時間は比較的高温な条件で100年,リム部分の滞留時間は比較的低温な条件で5年未満と計算された.
一方,CaAl-NaSi拡散モデリングではコア-リム境界について無限領域における拡散方程式の解析解を用いて計算を行ったところ,Mgで得られた結果よりもやや短い時間スケール(10-50年程度)が得られた.この原因としてMgの拡散係数がCaAl-NaSiよりも大きく,元素拡散が中心まで進行しているために,多次元拡散の影響によって滞留時間が過大評価された可能性がある.そこで単純な累帯構造を仮定して2次元モデルでの数値計算を行い,1次元の場合と比較した.その結果1次元拡散モデルは2次元モデルの場合より数倍長い滞留時間が計算され,2次元モデルの結果はCaAl-NaSi拡散の場合の結果と調和的である.