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[SVC30-05] 榛名火山東麓から赤城火山南麓で発見された榛名箱田テフラの年代・特性・噴火様式に関する再検討
キーワード:榛名火山、榛名箱田テフラ、火山噴出物、分布、屈折率
榛名火山は群馬県中部,東北日本弧の火山フロント沿いに位置している活火山である.この榛名火山より後期更新世~完新世に噴出した榛名八崎(Hr-HP),榛名二ッ岳渋川(Hr-FA),榛名二ッ岳伊香保(Hr-FP)などの代表的なテフラは詳細に研究されている(早田,1989;大石ほか2011など).また,竹本(2008)が約32 kaに噴出したとしている榛名三原田軽石は,当初は三原田軽石と呼ばれ(竹本,1985),給源は榛名火山と推定された(竹本,1998).一方で,早田(1996)は同じ噴出物を指して榛名箱田テフラ(Hr-HA)と称した.このテフラの層準は,Hr-HPと赤城鹿沼テフラ(Ag-KP:町田・新井,2003)の上位に,姶良Tnテフラ(AT:町田・新井,2003)の下位に存在している(早田,1996).本テフラの重鉱物組成は,竹本(1999)は多い順に普通角閃石,カミングトン閃石,斜方輝石,チタン磁鉄鉱であるとしている一方で,大石ほか(2011)は多い順に普通角閃石,斜方輝石,カミングトン閃石であるとしている.このように文献によって本テフラに含まれる重鉱物の組成が異なっているなど記載内容が異なっており,統一的な見解が得られていない.また,本テフラは榛名火山から北東方向に分布軸を持っているとの報告はあるものの(竹本,1998),その分布範囲は明確に定まっていないといった課題が残されている.本研究では,この榛名火山より噴出した噴出物について記載・分析をすることで,その重鉱物組成と屈折率を整理し,分布や噴火様式について新たな知見を得たので報告する.本テフラの呼称については,早田(1996)に従い榛名箱田テフラと呼ぶが,同文献で示された略称であるHr-HAは,同テフラのかつての呼称である榛名八崎火山灰(HA:早田,1990)に由来するものなので,新たにHr-Hkdとした.
榛名火山東麓から赤城火山南麓を調査した結果,Hr-Hkdを産出する露頭を既知のものを含めて8地点で発見した.これらの露頭は給源である榛名火山から東~北東方向の8〜30 kmの範囲に分布している.また,Hr-Hkdのユニットを,層相などをもとに下部からA~Dの4つにわけた.ユニットAは,地点によってユニットの下部に白色の降下軽石が濃集している,火山豆石を含む淡褐色~灰色の降下火山灰層である.ユニットBは比較的淘汰のよい細粒の白色の降下軽石層である.ユニットCは淘汰の悪い粗粒の白色降下軽石層であり,ユニットCの基質は最大で1 mm程度の灰色の岩片を含む灰~褐色降下火山灰である.ユニットDはユニットCよりも粗粒な白色の軽石を含んでいる火砕流堆積物である.さらにHr-HkdとAT,Ag-KP間の火山灰土の層厚から,Hr-Hkdの噴出年代は37.4〜40.0kaと推察でき,従来の推定年代よりも古くなる.
Hr-HkdのユニットA,B,Dの重鉱物組成は,含有量が多い順に普通角閃石,斜方輝石,チタン磁鉄鉱,カミングトン閃石であり,ユニットCの重鉱物組成は多い順に,普通角閃石,斜方輝石,カミングトン閃石,チタン磁鉄鉱である.また,Hr-Hkdの斜方輝石と普通角閃石の屈折率を各地点においてユニットごとに系統的に測定した.斜方輝石の屈折率は,ユニットAは1.706-1.714(1.710),ユニットBは1.705-1.713(1.709),ユニットCは1.703-1.713(1.708),ユニットDは1.701-1.712(1.706)であり,ユニットAからDにかけて屈折率が低くなる.一方で普通角閃石の屈折率は,ユニットAは1.671-1.681(1.677),ユニットBは1.674-1.683(1.680),ユニットCは1.670-1.682(1.675),ユニットDは1.671-1.682(1.676)であり,若干ではあるがユニットAからDにかけて屈折率が低くなる傾向にある.以上のことから,Hr-Hkdは上位ユニットほど鉄の成分が減少していると推測される.
Hr-Hkdを噴出した噴火活動は以下のように推測できる.ユニットAは多数の火山豆石を含み,榛名火山より東約8 kmと約19 kmの露頭においてはユニットAの下部に降下軽石が認められる.以上のような特徴は広井ほか(2015)で述べられている十和田火山平安噴火のマグマ水蒸気噴火噴出物の特徴と一致することから,噴火活動の最初は榛名カルデラの中に溜まった水とマグマが触れ合うことで引き起こされたマグマ水蒸気噴火であった可能性が示唆される.その後プリニアン噴火へと推移し,ユニットBの降下軽石を噴出した後にユニットCの降下軽石が噴出した.このうちユニットCは,榛名火山より東に約8 kmと北東に約15 kmの露頭において,散在している降下軽石の濃淡によって複数のフォールユニットが認められた.このことから,ユニットCを噴出した噴火は時間間隙がほとんどない複数回の爆発的噴火であると考えられる.そして最後に火砕流が榛名火山の麓に流下してユニットDを形成していると推測される.
今後榛名火山の北麓や片品川の上流地域などでHr-Hkdの認定が進めば,より詳細な分布や活動の推移や規模が明らかになるなど,榛名火山の噴火史や北関東の地形編年を研究するうえで重要な基礎データになっていくはずである.
榛名火山東麓から赤城火山南麓を調査した結果,Hr-Hkdを産出する露頭を既知のものを含めて8地点で発見した.これらの露頭は給源である榛名火山から東~北東方向の8〜30 kmの範囲に分布している.また,Hr-Hkdのユニットを,層相などをもとに下部からA~Dの4つにわけた.ユニットAは,地点によってユニットの下部に白色の降下軽石が濃集している,火山豆石を含む淡褐色~灰色の降下火山灰層である.ユニットBは比較的淘汰のよい細粒の白色の降下軽石層である.ユニットCは淘汰の悪い粗粒の白色降下軽石層であり,ユニットCの基質は最大で1 mm程度の灰色の岩片を含む灰~褐色降下火山灰である.ユニットDはユニットCよりも粗粒な白色の軽石を含んでいる火砕流堆積物である.さらにHr-HkdとAT,Ag-KP間の火山灰土の層厚から,Hr-Hkdの噴出年代は37.4〜40.0kaと推察でき,従来の推定年代よりも古くなる.
Hr-HkdのユニットA,B,Dの重鉱物組成は,含有量が多い順に普通角閃石,斜方輝石,チタン磁鉄鉱,カミングトン閃石であり,ユニットCの重鉱物組成は多い順に,普通角閃石,斜方輝石,カミングトン閃石,チタン磁鉄鉱である.また,Hr-Hkdの斜方輝石と普通角閃石の屈折率を各地点においてユニットごとに系統的に測定した.斜方輝石の屈折率は,ユニットAは1.706-1.714(1.710),ユニットBは1.705-1.713(1.709),ユニットCは1.703-1.713(1.708),ユニットDは1.701-1.712(1.706)であり,ユニットAからDにかけて屈折率が低くなる.一方で普通角閃石の屈折率は,ユニットAは1.671-1.681(1.677),ユニットBは1.674-1.683(1.680),ユニットCは1.670-1.682(1.675),ユニットDは1.671-1.682(1.676)であり,若干ではあるがユニットAからDにかけて屈折率が低くなる傾向にある.以上のことから,Hr-Hkdは上位ユニットほど鉄の成分が減少していると推測される.
Hr-Hkdを噴出した噴火活動は以下のように推測できる.ユニットAは多数の火山豆石を含み,榛名火山より東約8 kmと約19 kmの露頭においてはユニットAの下部に降下軽石が認められる.以上のような特徴は広井ほか(2015)で述べられている十和田火山平安噴火のマグマ水蒸気噴火噴出物の特徴と一致することから,噴火活動の最初は榛名カルデラの中に溜まった水とマグマが触れ合うことで引き起こされたマグマ水蒸気噴火であった可能性が示唆される.その後プリニアン噴火へと推移し,ユニットBの降下軽石を噴出した後にユニットCの降下軽石が噴出した.このうちユニットCは,榛名火山より東に約8 kmと北東に約15 kmの露頭において,散在している降下軽石の濃淡によって複数のフォールユニットが認められた.このことから,ユニットCを噴出した噴火は時間間隙がほとんどない複数回の爆発的噴火であると考えられる.そして最後に火砕流が榛名火山の麓に流下してユニットDを形成していると推測される.
今後榛名火山の北麓や片品川の上流地域などでHr-Hkdの認定が進めば,より詳細な分布や活動の推移や規模が明らかになるなど,榛名火山の噴火史や北関東の地形編年を研究するうえで重要な基礎データになっていくはずである.