日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC30] 火山・火成活動および長期予測

2021年6月3日(木) 17:15 〜 18:30 Ch.13

コンビーナ:長谷川 健(茨城大学理学部地球環境科学コース)、及川 輝樹(国立研究開発法人産業技術総合研究所)、三浦 大助(大阪府立大学 大学院理学系研究科 物理科学専攻)、下司 信夫(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)

17:15 〜 18:30

[SVC30-P04] 日光白根火山における完新世の噴火史再検討

*草野 有紀1、石塚 吉浩1、及川 輝樹1、石塚 治1 (1.産業技術総合研究所 地質調査総合センター)

キーワード:日光白根火山、噴火履歴、火山地質、活火山、火山層序、放射性炭素年代値

はじめに
群馬・栃木県境に位置する日光白根火山(最高峰,白根山:2578 m)は,溶岩表面の微地形が不明瞭な古期の活動と,新鮮な地形が認められる新期の活動にわけられる.新期日光白根火山は活火山であるが,山体を構成する火山噴出物(佐々木ほか,1993)と,山麓の降下テフラ(奥野ほか,1994)との関係は不明であった.そこで本研究では,航空レーザー測量で得られた高密度DEMを用いた山体の地形判読,全域の地質調査,14C年代測定を行って山体構成物の層序を明らかにし,山体構成物と降下テフラを対比することによって本火山の層序と噴火史を再検討したのでここに報告する.

火山体の層序と新期活動の開始時期
新期日光白根火山は、大別すると3地域(白根山,血ノ池地獄及び座禅山)の噴出中心をもつ.本研究では,山体構成物を11の溶岩,3つの火砕丘と1枚の火砕流堆積物に区分した(図1).最下位の丸沼溶岩は,崖錐堆積物を挟んで基盤の鬼怒川流紋岩類を覆っている.また,本溶岩が,薄い土壌を挟んで17 kaの浅間板鼻黄色テフラ(As-YP:町田・新井,2003)に覆われることから,新期日光白根火山は17 ka頃から活動を開始したと考えられる.
座禅山(標高2317 m)は,座禅溶岩と,溶岩を覆う座禅山火砕丘により構成され,火砕丘の頂部には径約200 mの火口をもつ.本溶岩は,下位の土壌の14C年代値:6,660±30 yr BP及び,溶岩を被覆する土壌の年代値(後述)より,7.6–5.7 ka (cal: 較正暦年代値) の間に噴出したことが新たに明らかになった.丸沼溶岩から座禅溶岩までの約1万年間には,テフラ層を残すような噴火は確認されていないが,4枚の溶岩を噴出している.

降下テフラ層序とその年代
座禅溶岩の上には,下位から順にNks-G, Nks-F, Nks-E, Nks-D(新称), 榛名二ツ岳伊香保テフラ(Hr-FP:町田・新井,2003),Nks-C(7世紀中頃~8世紀初頭), Nks-A(西暦1649年)(草野・石塚,2020)の7枚の降下テフラ層が確認された.Nks-GとNks-Dの年代については,直下の土壌の14C年代値:4,840±30 yr BP及び2,880±30 yr BPから,5.7–5.5 ka (cal) 及び3.1–2.9 ka (cal)と推定される.これら2つのテフラの噴出年代と,テフラに挟まれる土壌の堆積速度から,Nks-Fは5.2ka頃,Nks-Eは4.7 ka頃に形成されたと見積もられる.これらのテフラは,テフラの構成物組成,山体を構成する地質ユニットの層序関係,記載岩石学的特徴に基づくと,図1のように対比される.なお,本研究と奥野ほか(1994)のテフラ層序との関係も図1に示している.最下位のNks-Hは,奥野ほか(1994)によってNks-4と定義されたテフラを本研究の中で再検討したものである.

火砕流堆積物の発見とその意義
本火山では火砕流の発生は知られていなかったが,白根山の山頂から西側に延びる谷沿いに,層厚7 m以上の地獄ナギ火砕流堆積物(新称)を確認した.本火砕流堆積物は非溶結のブロックアンドアッシュ流堆積物で,木炭を複数含む.堆積物中の安山岩塊には冷却節理も発達することから,高温で流下し定置した特徴を示す.直上には層厚5 cmの土壌を挟みHr-FPが重なる.火砕流堆積物中の安山岩の,鏡下での特徴及び全岩化学組成は白根山溶岩に類似する.また,木炭の14C年代値は3,040±20 yr BPを示す.以上のことから,最新の白根山溶岩は,3.3–3.2 ka (cal) に噴出し,その際に発生した溶岩ドーム崩落型の火砕流によって地獄ナギ火砕流堆積物を形成したと考えられる.また,時期の一致から,この噴火の前後にNks-Dテフラを噴出したと考えられる.
本研究の結果,新期日光白根火山は座禅山溶岩の形成以降の最近7500年間に,少なくとも300~1500年に1回の頻度でマグマ噴火を発生していることが明らかになった.

文献:草野・石塚 (2020) 地質調査研究報告, 71, 1–18; 奥野ほか (1994) 名古屋大学加速器質量分析計業績報告書,5, 207–216; 町田・新井 (2003) 新編火山灰アトラス―日本列島とその周辺,東京大学出版会,337p; 佐々木ほか (1993) 弘前大学理科報告,40,101–117.