17:15 〜 18:30
[SVC30-P08] パレスベラ海盆に堆積したタービダイト層のコア試料から小笠原硫黄島火山噴出物を検出する試み
小笠原硫黄島火山は直径約10kmのカルデラを持ち、活発な後カルデラ火山活動をおこなっている海域火山であるが、周囲の海底に堆積した噴出物については不明な点が多く、火山発達史の全体像はほとんどがわかっていない。そのため硫黄島火山の災害ポテンシャルを評価するうえで必要な、噴火の時期・規模・噴火様式・周辺環境へ与えた影響などの情報がほとんど得られていない。
我々は既存の海底コア試料に着目し、硫黄島由来の噴出物が確認できるかどうか検討した。対象はパレスベラ海盆において採取されたピストンコアKR98-01 P1である。これは池原ほか(1998)や川村ほか(1999 ; 2002)などで詳しく解析されたもので、全長17m38cmのコア試料はタービダイト層と遠洋性粘土層の互層からなる。堆積年代は微化石群集解析より46万年前以降とされている。タービダイト層には火山ガラス粒子が多く含まれており、またCCD以深のコアなのに石灰質微化石も多く含有することから、一旦CCD以浅に堆積した火山砕屑物と微化石が乱泥流となって再移動したものと考えられた。その給源候補として古流向解析と海底地形の検討から採集地より300km以上離れた伊豆-小笠原弧南端部の硫黄島周辺浅海域が挙げられた。しかし火山砕屑物粒子の起源についての詳しい検討はなされていなかった。一方、硫黄島及び周辺海域の火山は隣接する地域よりもアルカリに富む噴出物を産することが知られており、岩石学的な特徴による給源火山の同定に有利な性質を持っている。
今回は、高知コアセンターに保存されていた試料を利用し、SEM-EDSによる火山ガラス粒子の主化学組成分析をおこなった結果を中心に報告する。分析結果では、大部分の粒子がアルカリに富んでおり、粗面安山岩質から粗面デイサイト質の組成範囲にある。測定した元素のすべてのSiO2変化図で既知の硫黄島火山噴出物の組成範囲と重なっている部分があり、硫黄島火山起源の粒子が含まれていると考えられる。SiO2-Na2O図上では大きく2つの組成トレンドに分かれるが、Na2Oに富む組成のほうが硫黄島火山と一致する。Na2Oに乏しいほうは福徳岡ノ場火山の全岩組成(加藤,1988;小坂ほか,1990;中野・川辺,1992など)よりもややNa2Oに乏しい位置にあり、今のところ該当する火山は不明である。個々のタービダイト層では、常に両方のトレンドに乗る粒子が含まれており、硫黄島と未詳火山由来の砕屑物が混合したものが直接の起源と考えられる。また、上記のほかにAT火山灰に類似する組成の高シリカ流紋岩質のガラス粒子も微量に確認されており、堆積年代についてより絞り込める可能性がある。
今回の結果は、池原ほか(1998)などが考えた給源地域の推定を支持しており、硫黄島火山及びその周辺では大規模な物質移動が繰り返されたことを示している。各タービダイト層構成物は乱泥流発生時点の火山周辺域の表層物質が移動したものと考えられるので、各層を詳しく解析することで噴出マグマの性質などの経時変化について有益な情報が得られると考えられる。
謝辞:海洋研究開発機構には所蔵ピストンコア試料の利用を御許可いただいた。コア試料のサンプリングでは久光敏夫博士をはじめ高知コア研究所のスタッフの御世話になった。記して御礼申し上げる。
我々は既存の海底コア試料に着目し、硫黄島由来の噴出物が確認できるかどうか検討した。対象はパレスベラ海盆において採取されたピストンコアKR98-01 P1である。これは池原ほか(1998)や川村ほか(1999 ; 2002)などで詳しく解析されたもので、全長17m38cmのコア試料はタービダイト層と遠洋性粘土層の互層からなる。堆積年代は微化石群集解析より46万年前以降とされている。タービダイト層には火山ガラス粒子が多く含まれており、またCCD以深のコアなのに石灰質微化石も多く含有することから、一旦CCD以浅に堆積した火山砕屑物と微化石が乱泥流となって再移動したものと考えられた。その給源候補として古流向解析と海底地形の検討から採集地より300km以上離れた伊豆-小笠原弧南端部の硫黄島周辺浅海域が挙げられた。しかし火山砕屑物粒子の起源についての詳しい検討はなされていなかった。一方、硫黄島及び周辺海域の火山は隣接する地域よりもアルカリに富む噴出物を産することが知られており、岩石学的な特徴による給源火山の同定に有利な性質を持っている。
今回は、高知コアセンターに保存されていた試料を利用し、SEM-EDSによる火山ガラス粒子の主化学組成分析をおこなった結果を中心に報告する。分析結果では、大部分の粒子がアルカリに富んでおり、粗面安山岩質から粗面デイサイト質の組成範囲にある。測定した元素のすべてのSiO2変化図で既知の硫黄島火山噴出物の組成範囲と重なっている部分があり、硫黄島火山起源の粒子が含まれていると考えられる。SiO2-Na2O図上では大きく2つの組成トレンドに分かれるが、Na2Oに富む組成のほうが硫黄島火山と一致する。Na2Oに乏しいほうは福徳岡ノ場火山の全岩組成(加藤,1988;小坂ほか,1990;中野・川辺,1992など)よりもややNa2Oに乏しい位置にあり、今のところ該当する火山は不明である。個々のタービダイト層では、常に両方のトレンドに乗る粒子が含まれており、硫黄島と未詳火山由来の砕屑物が混合したものが直接の起源と考えられる。また、上記のほかにAT火山灰に類似する組成の高シリカ流紋岩質のガラス粒子も微量に確認されており、堆積年代についてより絞り込める可能性がある。
今回の結果は、池原ほか(1998)などが考えた給源地域の推定を支持しており、硫黄島火山及びその周辺では大規模な物質移動が繰り返されたことを示している。各タービダイト層構成物は乱泥流発生時点の火山周辺域の表層物質が移動したものと考えられるので、各層を詳しく解析することで噴出マグマの性質などの経時変化について有益な情報が得られると考えられる。
謝辞:海洋研究開発機構には所蔵ピストンコア試料の利用を御許可いただいた。コア試料のサンプリングでは久光敏夫博士をはじめ高知コア研究所のスタッフの御世話になった。記して御礼申し上げる。