日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC31] 火山噴火のダイナミクスと素過程

2021年6月5日(土) 15:30 〜 17:00 Ch.25 (Zoom会場25)

コンビーナ:鈴木 雄治郎(東京大学地震研究所)、並木 敦子(名古屋大学 大学院環境学研究科 地球環境科学専攻)、大橋 正俊(東京大学地震研究所)、座長:並木 敦子(名古屋大学 大学院環境学研究科 地球環境科学専攻)、大橋 正俊(東京大学地震研究所)

15:30 〜 15:45

[SVC31-05] マグマ噴火・マグマ水蒸気噴火による大規模火砕流の到達距離: 二層重力流モデルによる数値シミュレーション

*志水 宏行1、小屋口 剛博2、鈴木 雄治郎2 (1.防災科学技術研究所、2.東京大学地震研究所)

キーワード:火砕流、二層モデル、到達距離、マグマ噴火、マグマ水蒸気噴火、イグニンブライト

大規模な爆発的火山噴火では,火砕物粒子とガスの混合物が火口から継続的に噴出し,それが火砕流として地表面を流動することがある.火砕流の到達距離(i.e., 火砕流堆積物の分布限界)と噴火条件(e.g., マグマ噴出率,噴出前のマグマと混合した“外来水”(地下水や湖水など)の質量混合率)の関係を理解することは,火山学の発展のみならず火山災害の予測・対策のためにも強く求められている.特に,外来水の混合率は噴火様式(i.e., マグマ噴火・マグマ水蒸気噴火)と密接に関連していることからその影響の理解は重要である.本研究では,外来水が大規模火砕流の到達距離に与える影響を明らかにするために,火砕流ダイナミクスの数値シミュレーションを行った.

火砕流は,流れ内部に粒子濃度の成層構造が著しく発達する重力流であり,その到達距離は,上部低濃度流(粒子濃度<~1 vol.%)が周囲大気よりも軽くなり地表から“離陸”すること,または,下部高濃度流(~10-50 vol.%)が堆積し停止すること,のいずれかによって決められる.本研究では,この基本的性質を再現するために,粒子濃度の成層構造の影響を評価できる二層重力流モデルを開発した.このモデルにおいては,外来水による温度低下が火砕流のダイナミクスに与える影響については,流れ内部に流入した大気の熱膨張の抑制を通して評価できる(e.g., Shimizu et al., 2019, JpGU Meeting, SVC37-09).本発表では,さらに,多量の外来水により火砕流の温度が100℃以下となる場合も想定して,火砕流中の水蒸気の凝縮,その相変化に伴う潜熱を新たに考慮した.境界条件としては,供給源となる火口から,マグマと外来水の均質な混合物が定常的に供給され,それが二層火砕流として水平面上を放射状に拡大する状況を想定した.その上で,供給源における外来水の混合率を幅広く変えたパラメータスタディを実施した(i.e., (外来水の質量)/(マグマと外来水の質量)=0-0.5).

数値計算結果によると,低濃度流の密度は,供給源から離れるに従い,粒子沈降,大気流入,流入大気の熱膨張のために小さくなる.低濃度流の先端が周囲大気よりも軽くなり離陸すると,低濃度流は拡大を停止し,定常状態へ収束する(このときの低濃度流の先端と給源の間の距離をrUと呼ぶ).低濃度流の底面から沈降する粒子は高濃度流を形成し,高濃度流も放射状に拡大する.高濃度流の先端における進行方向の質量フラックスが底面における堆積率と釣り合うと,高濃度流は拡大を停止し,定常状態へ収束する(このときの高濃度流の先端と給源の間の距離をrLと呼ぶ).パラメータスタディの結果,rUrLの大小関係が外来水の混合率に依存することが示された.外来水の混合率が小さい条件(<~0.2)ではrUrLよりも短いが,外来水の混合率が大きい条件(>~0.2)ではrUrLよりも長い.これは,外来水の混合率の増加に伴いrUが著しく増加することによる.このrUの増加は,温度の低下による流入大気の熱膨張の抑制,および,水蒸気の凝縮による高密度な水の質量の増加によって,低濃度流の密度低下が遅れ,その結果,低濃度流の離陸が遅れるために引き起こされる.外来水の混合率が大きい条件での結果(i.e., rU>rL)は,マグマ水蒸気噴火に伴う火砕流堆積物において,低濃度火砕流起源と考えられる成層構造が発達した堆積物が広範囲で見られるという観察事実を説明する.