日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC31] 火山噴火のダイナミクスと素過程

2021年6月5日(土) 17:15 〜 18:30 Ch.16

コンビーナ:鈴木 雄治郎(東京大学地震研究所)、並木 敦子(名古屋大学 大学院環境学研究科 地球環境科学専攻)、大橋 正俊(東京大学地震研究所)

17:15 〜 18:30

[SVC31-P06] 苦鉄質サブプリニー式噴火の火道上昇プロセス:霧島・御鉢火山1235年スコリア中の斜長石マイクロライトからの制約

*岩城 吉春1、石橋 秀巳1、外西 奈津美2、安田 敦2、石川 徹3、嶋野 岳人4 (1.静岡大学院総合科学技術研究科理学専攻、2.東京大学地震研究所、3.霧島ジオパーク推進連絡協議会、4.常葉大学大学院環境防災研究科)


キーワード:斜長石、苦鉄質サブプリニー式噴火、霧島、御鉢火山、火道浅部過程、マイクロライト結晶作用

苦鉄質マグマは高温で低粘性のため,比較的穏やかなタイプの噴火をおこすことが一般的である.しかし,近年,苦鉄質マグマがプリニー式噴火をおこした事例が多く報告されており,その発生において,火道浅部でのマイクロライト結晶作用が重要な役割を果たすと考えられている.したがって,火道上昇過程でのマイクロライト形成と,それに伴うマグマのレオロジー変化のプロセスを明らかにすることは,苦鉄質マグマの爆発的噴火の発生メカニズムを理解するうえで重要である.本研究の対象である霧島・御鉢火山の高原スコリアは,1235年に発生した同火山で最大規模のサブプリニー式噴火の噴出物である.この噴火では,全岩SiO2量が~51-55wt.%の苦鉄質マグマが噴出し,主に3層の降下スコリア層(ThT-a, b, c)を形成した(筒井ほか,2007).本研究では,苦鉄質サブプリニー式噴火のマグマの火道上昇プロセスを検討するため,高原スコリアの石基組織解析を行った.

本研究では,ThT-a, b, c層から採取した粒径2-8mmのスコリアについて研磨薄片を作成し,東京大学地震研究所のFE-EPMAを用いてガラス質石基の後方散乱電子(BSE)像を撮影した.撮影したBSE像の画像解析を行い,石基中の斜長石について結晶量,数密度,結晶サイズ分布(CSD)を定量した.

高原スコリアには,斑晶として斜長石,かんらん石,斜方輝石,単斜輝石が見られ,総斑晶量は~19-22vol.%であった.ガラス質スコリアの石基は,斜長石,マフィック鉱物とガラスから構成される.ここで,石基のかんらん石と輝石はBSE像での区別が困難なため,一括してマフィック鉱物として扱う.測定したスコリアに含まれる石基斜長石の量(Φ)は,ThT-aでは~10-30vol.%,ThT-bは~10-37vol.%,ThT-cは~6-33vol.%であった.一方で,石基中のマフィック鉱物については,ほとんどの試料で結晶量が5vol.%以下だった.

石基斜長石のCSDには折れ曲がりが見られるものがあった. そこで,2本のCSD直線を用いた最小二乗回帰を行い,それぞれのCSD直線の切片log n0と傾き1/L0を求めた.細粒側のCSD直線について求められたn0は,ThT-aで108.6-9.4mm-4,ThT-bで108.7-9.7mm-4,ThT-cで109.1-10.2mm-4の範囲を示し,層序の上位に向かって増加した.一方で1/ L0は,ThT-aで78-169mm-1,ThT-bで94-166mm-1,ThT-cで116-261mm-1の範囲を示し,やはり層序の上位に向かって増加した. n0と1/L0の値から石基斜長石の数密度Nを求めた.このとき,粗粒側のCSD直線をつくる結晶の数は,細粒側の結晶数に比べて数ケタ小さいので無視できる.求められた石基斜長石の数密度(N)は, ThT-aでは~3.8×1015-1.3×1016m-3,ThT-bでは~7.6×1015-3.6×1016m-3,ThT-cでは~1.0×1016-6.8×1016m-3であった. ThT-aではΦによらずNがほぼ一定であったのに対し,ThT-bとThT-cではΦとNの間に正の相関が見られた.

石基斜長石の数密度に,Toramaru et al. (2008)のマイクロライト数密度減圧速度計を適用し,マグマの減圧速度を見積もった.その結果,減圧速度としてThT-aで~0.31-0.73MPa/s,ThT-bで~0.45-1.38MPa/s,ThT-cで~0.34-1.24MPa/sの範囲の値を得た.これらの値は,他の苦鉄質マグマのサブプリニ―式噴火について求められた減圧速度と同等であった.本研究で求めた減圧速度は,ThT-aからThT-bにかけて増加し,ThT-cで減少した.これは,各ユニットの噴出物飛散範囲の広さの関係(筒井ほか, 2007)と整合的である.

本研究の結果は,ユニット間の噴火強度のちがいが,マグマ上昇速度にコントロールされていることを示唆する.一方で,同一ユニット内でもΦが幅広く変動し,Nとの間に正の相関が見られた.このことは,同時に破砕したマグマの中でも過冷却度の変動があったことを示唆する.この過冷却度の変動は,火道上昇するマグマの温度不均一が原因であると考えられる.