日本地球惑星科学連合2021年大会

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[U-02] 2011年東北地方太平洋沖地震から10年―地球科学の到達点

2021年5月31日(月) 15:30 〜 17:00 Ch.01 (Zoom会場01)

コンビーナ:日野 亮太(東北大学大学院理学研究科)、藤倉 克則(海洋研究開発機構 地球環境部門)、木戸 元之(東北大学 災害科学国際研究所)、座長:藤倉 克則(海洋研究開発機構 地球環境部門)、日野 亮太(東北大学大学院理学研究科)

16:06 〜 16:24

[U02-08] 2011年東北地方太平洋沖地震以降の津波堆積物研究の進展

★招待講演

*宍倉 正展1 (1.産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)

キーワード:2011年東北地方太平洋沖地震、869年貞観地震、津波堆積物

津波堆積物は東日本大震災を契機として注目されるようになったが,我が国では1980年代末頃から津波堆積物を古地震研究の手法の1つとして活用する研究が行われてきた. 特に869年貞観地震の津波堆積物については,その初期からおもに東北大学などによって調査され,再来間隔に基づいて近い将来における巨大津波の再来の可能性が示されていた.さらに2000年代に入ってから産総研の調査によって日本海溝沿いのプレート境界地震の断層モデルが提案された.これらは政府の地震調査研究推進本部(地震本部)おける長期評価に取り入れられる予定であったが,その公表直前に2011年東北地方太平洋沖地震(以下,2011年地震)が起きてしまった.この地震は結果的に貞観地震の再来であったことから,防災施策上の津波堆積物研究の有用性が認められ,震災後は研究機関だけでなく,自治体も主導して全国各地の沿岸で津波堆積物調査が行われるようになった.これにより,この10年で津波堆積物に関する情報は飛躍的に増加した.
しかし一方で震災直後から様々な課題も浮き彫りになり,それらの解決に向けた試みもこの10年に続けられてきた.その課題の1つが津波浸水規模の正確な評価であるが,これにはミクロとマクロの2つの視点がある.まずミクロには,津波堆積物の識別に関する課題がある.津波堆積物は基本的に目視で認識できる砂層の分布を頼りに過去の津波浸水域を復元してきた.しかし2011年地震において平野部を浸水した津波は,砂質堆積物が残された範囲よりもさらに内陸奥まで到達していた.すなわち砂層の分布のみでは浸水域を過小評価するおそれがあり,これは波源断層を想定する上での拘束条件にも影響する.このため,2011年地震の津波で形成された堆積物をモダンアナログとして,微化石分析や粒度分析,有機地球化学分析など様々な分析によって津波堆積物の識別手法の検討が現在も進められている.
マクロの視点の課題は,最大クラス想定の検証である.震災後に国や自治体で進められた津波災害想定の見直しにより,各地で最大クラスの浸水想定が策定された.しかし実際に過去にそのような津波が起きていたのかどうかは不明であり,想定の妥当性の検証が課題となった.このため想定浸水域の内陸限界周辺における津波堆積物の有無の確認や地形発達の観点からの検討なども行われている.
本講演ではこれらの具体例を示しながら今後の展望を述べていきたい.