16:15 〜 16:30
[U09-04] ポスト臨床環境学:分断された言葉の壁を乗り越え、計画された偶発性を使いこなす博士人材キャリアパスについて
★招待講演
キーワード:臨床環境学、持続可能な開発目標、博士人材キャリアパス
名古屋大学大学院環境学研究科では2009-2013年にグローバルCOEプログラム「地球学から基礎・臨床環境学への展開」が実施され、「臨床環境学」が提唱された。この中で博士後期課程の学生を対象とした臨床環境学研修(ORT: On-site Research Training)が実施された。これは異分野を専攻する学生のグループが現地調査から地域の環境学に関する課題を定義し、その解決方法を提案する取り組みである。
特定の学術分野に縛られることなく課題を定義し、解決策を実証することは、これまでの博士課程教育カリキュラムでは得られない体験であり、同時に教員さえ正解を知らないため、非常な困難が伴った。しかしながら、この取り組みを通して筆者は、
・異分野専門家および非学術領域ステークホルダーとの課題解決プロセスは困難を伴うが思考技術次第で克服できること
・「デザイン思考」にあるような創造的思考と批判的思考の切り分けがアイデア創出に有効であること
・専門家の組み合わせで無限通りのアイデアが創出できること
など様々な知見を得ることができた。これらは修了後の研究開発業務及び高等教育業務でも極めて重要な役割を果たしている。様々なアイデアを組み合わせる柔軟な思考基盤、それに必要な人脈形成のためのSNSを駆使したクイックアクション、一般的な博士人材ロールモデルを逸脱するための心の支えなど、枚挙に遑がない。
分野横断のためにまず博士人材が卒業後に身につけるべきは「言葉の曖昧さ」を受け入れる素地だと考える。一般的な博士課程では、特定の分野での言葉の厳密さを徹底的に訓練される。これは学問の根幹を維持するためにも不可欠なリテラシーである。しかしいつまでもそのドグマに固執しすぎると、学問分野の外側のよくわからない言葉を、自分の仕事には無関係な、むしろ害悪として捉えることになり、思考の拡張性が損なわれかねない。その一方で、曖昧な言葉、ゼロでもイチでもない有理数のような言葉を(とりあえず)受け入れて運用する能力は、分野を乗り越えた新しい領域で活動するために必要である。よく解らない専門用語やコンテクストを適度に「分かりあえたつもり」になることで、その先にある化学反応の起きる瞬間まで、協働の熟議を進め続けることが可能になる。
激甚災害や感染症流行など社会のあり方を大きく変えうる課題に向き合い、社会の持続可能性に貢献しつつ、自らの博士卒キャリアパスを自分本位に維持管理するためには、「計画された偶発性(Planned Happenstance)」を乗りこなすことが重要である。これは「キャリアパスの8割は予想できないことによって決定されるため、それに対応する経験の積み重ねで、よりよいキャリアが形成される」という考え方である。偶然の機会を手に入れ、それを新たな機会創出に意図的につなげる経験を繰り返すことによって、偶然に身を任せつつも、望んだ方向に進むために必要な観察力・直感力とセレンディピティーの醸成につながるのではないだろうか。
大多数の博士人材は大学院において学者的な思考のみを訓練している。これに加えて、学者思考・教育者思考・経営者思考を自在に調整する訓練を重ねることによって、自分だけの調合でブルーオーシャンな活躍の場を手にすることができると期待する。本発表では、臨床環境学での知見を踏まえ、博士取得後の若手研究者を対象とした教育プログラム・研修サービスを構想できないかを議論したい。
特定の学術分野に縛られることなく課題を定義し、解決策を実証することは、これまでの博士課程教育カリキュラムでは得られない体験であり、同時に教員さえ正解を知らないため、非常な困難が伴った。しかしながら、この取り組みを通して筆者は、
・異分野専門家および非学術領域ステークホルダーとの課題解決プロセスは困難を伴うが思考技術次第で克服できること
・「デザイン思考」にあるような創造的思考と批判的思考の切り分けがアイデア創出に有効であること
・専門家の組み合わせで無限通りのアイデアが創出できること
など様々な知見を得ることができた。これらは修了後の研究開発業務及び高等教育業務でも極めて重要な役割を果たしている。様々なアイデアを組み合わせる柔軟な思考基盤、それに必要な人脈形成のためのSNSを駆使したクイックアクション、一般的な博士人材ロールモデルを逸脱するための心の支えなど、枚挙に遑がない。
分野横断のためにまず博士人材が卒業後に身につけるべきは「言葉の曖昧さ」を受け入れる素地だと考える。一般的な博士課程では、特定の分野での言葉の厳密さを徹底的に訓練される。これは学問の根幹を維持するためにも不可欠なリテラシーである。しかしいつまでもそのドグマに固執しすぎると、学問分野の外側のよくわからない言葉を、自分の仕事には無関係な、むしろ害悪として捉えることになり、思考の拡張性が損なわれかねない。その一方で、曖昧な言葉、ゼロでもイチでもない有理数のような言葉を(とりあえず)受け入れて運用する能力は、分野を乗り越えた新しい領域で活動するために必要である。よく解らない専門用語やコンテクストを適度に「分かりあえたつもり」になることで、その先にある化学反応の起きる瞬間まで、協働の熟議を進め続けることが可能になる。
激甚災害や感染症流行など社会のあり方を大きく変えうる課題に向き合い、社会の持続可能性に貢献しつつ、自らの博士卒キャリアパスを自分本位に維持管理するためには、「計画された偶発性(Planned Happenstance)」を乗りこなすことが重要である。これは「キャリアパスの8割は予想できないことによって決定されるため、それに対応する経験の積み重ねで、よりよいキャリアが形成される」という考え方である。偶然の機会を手に入れ、それを新たな機会創出に意図的につなげる経験を繰り返すことによって、偶然に身を任せつつも、望んだ方向に進むために必要な観察力・直感力とセレンディピティーの醸成につながるのではないだろうか。
大多数の博士人材は大学院において学者的な思考のみを訓練している。これに加えて、学者思考・教育者思考・経営者思考を自在に調整する訓練を重ねることによって、自分だけの調合でブルーオーシャンな活躍の場を手にすることができると期待する。本発表では、臨床環境学での知見を踏まえ、博士取得後の若手研究者を対象とした教育プログラム・研修サービスを構想できないかを議論したい。