日本地球惑星科学連合2021年大会

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[U-11] 多様性と平等-日欧米の地球惑星科学分野からの報告と今後の展望

2021年6月4日(金) 13:45 〜 15:15 Ch.01 (Zoom会場01)

コンビーナ:堀 利栄(愛媛大学大学院理工学研究科 地球進化学)、小口 千明(埼玉大学大学院理工学研究科)、Claudia Jesus-Rydin(European Research Council)、田近 英一(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、座長:堀 利栄(愛媛大学大学院理工学研究科 地球進化学)、坂野井 和代(駒澤大学)、阿部 なつ江(国立研究開発法人海洋研究開発機構研究プラットフォーム運用開発部門マントル掘削プロモーション室)

14:57 〜 15:09

[U11-07] ジェンダー問題への取り組みはなぜ日本の学会運営に必要か?

★招待講演

*益田 晴恵1 (1.大阪市立大学理大学院理学研究科生物地球系専攻)

キーワード:ジェンダー平等 、学会役員 、国際連携 、人口減少社会

OECD加盟153カ国中で日本のジェンダー平等ランキングは121位である。特に、政治家・会社社長・大学教授などを含む専門職の分野での評価が低い。すなわち、社会のリーダーとなる人材に、女性が極端に少ない。学術団体の役員についても、事情は同じである。ここでは、学会が未来に生き残るための行動変容という観点から、社会統計と個人的経験を元に、特に学会運営における日本のジェンダー問題を考察したい。

宇宙地球科学は世界的に見ても女性が少なめの学術分野ではあるが、欧米の学術活動や学会運営においては多くの女性が活躍している。私は地球化学の分野にいるが、この分野で最大の二つの学会、Geochemical Society (GS) とEuropean Association of Geochemistry (EAG) の評議員会メンバーは、会長も含めて過半数が女性である。私が所属する日本地球化学会の現在の理事会メンバーは副会長2名が女性であるが、それを合わせて24人中女性メンバーは4名である。地球環境史学会は18名の理事の5名が女性である。この会合の主催者であるJpGUには、理事20名中の2名と監事に1名の女性会員がいるだけである。これらの女性役員数は、日本の地球科学分野の学会では多い方である。女性が会長・副会長を務めている学会は、極めて少なく、理事会に1名も女性がいない学会さえある。

では、女性会員がいないのか、と言えば、そうではない。例えば、日本地球化学会では、会員数約870名のうち、女性会員は18%である。我が国の少子高齢化の影響を受けて、若年層で会員数が少ない傾向があるが、女性会員の比率は高くなる。20〜40代では、女性会員は29〜23%を占める。すなわち、女性会員の増加が、学会会員数の減少を食い止めている。2020年度の文部科学省学校基本調査によると、地学分野の後期博士課程在学生(国立大学のみ)の27%を女子学生が占めている。日本地球化学会の20代女性会員の割合とほぼ一致している。女性会員を増やせない学会は、会員数の減少を止めることはできないであろうことは想像に難くない。学会運営に関わる者は、ジェンダー問題が学会の存続に関わる課題であることを自覚しなければならない。

男性だけで学会運営を行っても女性への配慮ができるというのは妄想に過ぎない。自分と同じ立場にない人のことを常に意識し、配慮して行動することは難しい。民主主義は、多数決を行使するのではなく、少数者の意見を十分に汲み取った上で、より多くの人が納得できる結論を得る過程であろう。少数者が運営責任を持つ立場に立つことの意味が、ここにある。そのためには、既得権を得ている人たちが諦めなければならないものも出てくる。しかし、努力しなければ、既得権だけでなく、組織さえ失うことになるであろう。

一方で、日本の組織がジェンダーの問題を乗り越えるためには、もう一つ越えなければならない壁があると感じている。それは、当事者である女性の意識である。日本では、伝統的に、女性は、家庭運営を担い、社会においては男性の補助的役割を行うことを美徳としてきた。そのため、女性にのみ、家庭と仕事の両立を強く求められる社会風土の中で、組織の中で責任ある立場に就くことに積極的でない女性がしばしば見られる。このことの解決のために、すでに社会的に発言できる地位を得た女性には、学会運営においても積極的に責任ある地位に就いてほしい。学会で活躍する次世代の女性を増やすための最良の方法の一つは、学会の体質を変え、ロールモデルとなる女性を増やすことであろう。

私自身の問題に立ち返ると、国際連携で学ぶことが多くあった。2016年、横浜で開催した世界最大の地球化学関連の国際会議であるゴールドシュミット会議で組織委員長を担った際に、主催団体であるGSやEAGの女性役員の発言に啓発された。例えば、一般人対象の公開講座の開催にあたって、「日本に講師を務める女性科学者はいないのか」と強く批判された。様々な局面で女性を起用することで、女性にも男性と同じ科学者としての資質があることを示し、社会の意識を変え、行動変容を促す力があることを実感した。日本の学会を構成する人たちで、健全な研究活動を維持できるように、変容を恐れず、意識改革を進めていきたいと思う。