日本地球惑星科学連合2021年大会

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[J] 口頭発表

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[U-14] 変動する地球に生きるための素養を育む地球教育の現状と課題

2021年6月5日(土) 15:30 〜 17:00 Ch.01 (Zoom会場01)

コンビーナ:市川 洋、中井 咲織(京都光華女子大学こども教育学部こども教育学科)、熊谷 英憲(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、西 弘嗣(東北大学学術資源研究公開センター 東北大学総合学術博物館)、座長:市川 洋(なし)

15:45 〜 16:00

[U14-02] 高等学校理科「地学基礎」「地学」の都道府県別開設状況

★招待講演

*高木 秀雄1、吉田 幸平2 (1.早稲田大学教育・総合科学学術院、2.東福岡高等学校)

キーワード:高等学校カリキュラム、開設率、地学科目

はじめに
 文科省による学習指導要領改訂(2009年)に基づき,高等学校(以下,高校)理科では 2012年度から「地学基礎」(2単位),2013 年度から「地学」(4単位)を含む新設科目が実施されるようになった.しかしながら「地学基礎」「地学」については授業が開設されていない高校も多く,特に都道府県ごとの開設率については公開されたものが無かった.そこで,高木は2017年に全国 5069 の高校のホームページに記載されている「教育課程表」の調査を実施し,「地学基礎」「地学」の都道府県別開設状況の結果を地質学会で報告した.しかしながら,HPからカリキュラムの情報が得られない高校も少なくないことから,2018年度に卒論として吉田がアンケート調査と,開設率とそのほかの要因との相関を含めて調査を行い,その結果は吉田・高木(2020)に地学雑誌に発表した.本報告ではその成果を紹介し,今後の議論の基礎資料として役立てていただければ幸いである.
調査結果
 開設率:高校のホームページとアンケート調査から,全国4,117校 (全高校の81.3%) の高等学校の地学科目の開設状況が明らかとなった.その結果は,「地学基礎」が開設校数1,797校で43.7 %,「地学」が開設校数363校で8.8 %となった.また,地学科目の開設率が都道府県によって著しい違いがあることが明らかとなったことから,都道府県別に地学科目の開設率を集計した.たとえば「地学」の開設率は,沖縄県で48%(30校),ついで千葉県で38%(65校),長野県で18%(18校)となっている一方,開設している高等学校が見出せなかった県も9県にも及ぶことが明らかとなった.
 開講率:4単位「地学」を開設していても履修生徒が集まらずに開講していないケースもアンケート調査で明らかとなった.「地学」を開設している高校363校のうち,回答が得られた58校中26校(45%)のみが開講していることが判明した.全国の高校で実際に「地学」の授業を行っている高校はおよそ4%程度と見積もられる.
 履修率:全国の高校生のうち,地学科目を履修している生徒の割合である履修率は,「地学基礎」「地学」の教科書採択数と,必履修科目である「保健体育」の教科書採択数との比から大まかに調べることができる.教科書採択数の情報は,時事通信社発行の情報紙『内外教育』から得られた.地学科目の履修率は「地学基礎」が約26%で,旧課程において対応する「地学Ⅰ」(約7%) よりも大幅に増加した.「地学」は1.2−0.9%で,旧課程において対応する「地学II」(約0.6%)[吉田1] よりも微増に留まった。ただし,「地学基礎」は,アンケート調査から文系のセンター試験対策として開設されていることが多い(文系対象90%,理系対象36%).
 地学教員採用状況:開設率との関連性を調べる目的で,過去40年間の地学教員採用状況を調査した.出典は,根本 (2000),藤林ほか (2010)および2002年以降は東京アカデミー提供の情報をとりまとめた.ただし,府県によっては科目採用ではなく教科(理科)採用のこともあり,その場合は調査対象外となる.その中でも,大都市である東京都と大阪府の採用状況の違いが際立っており,大阪府は過去10年間に40名の地学教員を採用したのに対し,東京都は1992年以降25年間採用が無かった.
考察
 地学科目の開設率が際立って高い沖縄県と千葉県での経緯として,教員の地学領域の研修が充実していたことや,地学普及活動が熱心に継続されてきていることが挙げられる.地学科目の開設率は,当然のことながら地学教員採用数と相関があるが,開設率の高い府県は教員採用方式が地学での採用ではなく,むしろ理科採用である場合が多い傾向が認められた.このことは,今後地学教員数を確保するための指針となり得るであろう.地学教員が定年に近づく時,あるいは「地学基礎」の履修率の増加に対応するためには,地学専任以外の理科教員が地学領域の重要性を認識し,地学科目を指導することができるような支援を,研修会などを通じて行うことが,求められていると考えられる.

文献:吉田幸平・高木秀雄(2020)地学雑誌, 129, 337-354. 本要旨の引用文献は左記を参照されたい.