日本地球惑星科学連合2021年大会

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[U-15] 連合の巨大地震・津波への対応:東日本大震災からの10年と将来

2021年6月5日(土) 13:45 〜 15:15 Ch.01 (Zoom会場01)

コンビーナ:奥村 晃史(広島大学大学院文学研究科)、宮地 良典(国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター)、齋藤 仁(関東学院大学 経済学部)、座長:奥村 晃史(広島大学大学院文学研究科)、宮地 良典(国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター)、齋藤 仁(関東学院大学 経済学部)

14:45 〜 15:05

[U15-04] 平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震と平成28年(2016年)熊本地震による地震動特性

★招待講演

*松島 信一1 (1.京都大学防災研究所)

キーワード:平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震、平成28年(2016年)熊本地震、地震動、周期1秒、建物被害

東日本大震災を引き起こした平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震は、2011年3月11日14時46分頃に仙台市の東方約130kmの宮城県沖の深さ24kmから破壊開始し、結果的に太平洋プレートとユーラシアプレートのプレート境界の長さ約400~500km、幅約150~200kmにわたる領域を破壊した、モーメントマグニチュード(Mw)9.0の地震である。この地震では震央より海溝に近い浅い部分で約60mもの食い違いが起こったことにより巨大津波が発生した。また、宮城県栗原市築館において震度7が観測された。この地震により、令和2年3月1日現在で死者19,729人、行方不明者2,559名、負傷者6,233名の被害者数となった。また、住家被害としては、全壊121,996棟、半壊282,941棟、一部損壊748,461棟、非住家被害としては公共建物14,527棟、その他92,059棟にのぼった。これらの未曾有の被害の原因は、主に巨大津波による沿岸部での被害であった。一方、震度7が観測された国立研究開発法人防災科学技術研究所が管理運営する強震観測網(K-NET)のK-NET築館観測点(MYG004)では、水平成分のうち一方の南北成分の最大加速度が2,700cm/s/s(重力加速度の約2.7倍)であったが、この観測点周辺の建物被害はほとんどみられなかった。この要因は、観測された地震動の卓越振動数が約4Hzと高いものの、周波数1Hz(周期1秒)前後の成分が小さかったために最大速度は小さかったことによる。このため、計測震度が大きくなる一方で建物に被害を及ぼす能力はそれほど高くはなかった。一方、同県の大崎市古川のK-NET古川地点(MYG006)では震度6強であったが、周期1秒近くが卓越したため、周辺で建物が倒壊した。このように、日本周辺で発生し、地震動記録が得られた地震としては最大のマグニチュードであっても、観測史上最大の最大加速度を記録した地震動であっても、地震動の特性によっては必ずしも倒壊する建物が多発するということではないことが、様々な調査によって解明されてきた。

一方、この10年で内陸地殻内地震としては最大の気象庁マグニチュード(Mjma)7.3となった平成28年(2016年)熊本地震の本震では、震度7が2箇所で観測された。Mjma7.3は平成7年(1995年)兵庫県南部地震、平成12年(2000年)鳥取県西部地震と並んで、地震動が観測された内陸地殻内地震としては最大のMjmaである。震度7を観測したのは、熊本県上益城郡益城町宮園と熊本県阿蘇郡西原村小森であったが、前者の周辺では建物被害が集中し、後者では少し離れた地表地震断層出現付近で建物被害が生じた。益城町宮園では周期1秒前後の地震動が卓越し、西原小森では周期3秒前後が卓越した。このように、建物被害が集中したのは、周期1秒前後の地震動が原因であり、地震動の特性が建物に被害を与えるかどうかが非常に重要となるが再認識された。さらに、地表地震断層が出現した場所の近くでは、周期3秒が卓越するなど、免震構造物や超高層建物などへの影響が大きいと思われる地震動が観測され、建物の安全性を考慮する上で大きな課題が突きつけられた。