日本地球惑星科学連合2022年大会

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[E] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW24] 流域圏生態系における物質輸送と循環:源流から沿岸海域まで

2022年6月1日(水) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (11) (Ch.11)

コンビーナ:安元 純(琉球大学 農学部)、コンビーナ:小林 政広(国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所)、奥田 昇(神戸大学)、コンビーナ:Paytan Adina(University of California Santa Cruz)、座長:安元 純(琉球大学 農学部)、奥田 昇(神戸大学)、小林 政広(国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所)

11:00 〜 13:00

[AHW24-P03] 北海道における河川流量および降雪量の年々変動解析に基づく古冬季モンスーン変動復元法の開発

*丸山 亜伊莉1入野 智久1 (1.北海道大学 大学院環境科学院 地球圏科学専攻 生物地球化学コース )

キーワード:冬季モンスーン、古環境復元、積雪量、河川流量

モンスーンは,日射に対する大陸と海洋の加熱特性の違いから生ずる風であり(Tada, 2005),東アジアにおいても気温・降水季節変動の主要な原因の一つである。東アジア夏季モンスーンは、湿った風が北太平洋を回り込んで梅雨前線に流れ込むことによる湿舌や台風がもたらす大量の降水で特徴づけられる。一方、冬季モンスーンは、大陸からの冷たく乾いた風が日本海上で得た水蒸気を日本列島にもたらし、降雪の主要な要因となる。堆積物記録を使用した過去の夏季モンスーンの復元は幅広く行われている一方,冬季モンスーンをはじめとした冬季の古気候要素の研究は,夏季の古気候復元ほど進展していない(Ikehara and Itaki, 2005)。そこで本研究では,亜寒帯気候に位置する北海道の気候データ(降雪量データ及び河川流量の年々変動)と,冬季モンスーンの強度を示す指標を比較し,その関係性を考察し、降雪量の推定を通して過去の冬モンスーン強度を復元する手法の開発を試みた。

冬季モンスーン変動復元の検討を進めるために,Yasuda and Hanawa (1999) による冬季モンスーン指標 (MOI, Monsoon Index: 根室とイルクーツク間の海面気圧の差) と北海道の各エリアの降雪量の年々変動の比較を行った (年降雪量は気象庁の過去気象データから取得)。その結果,MOIと降雪量の年合計との間に正の相関関係が見られ,更に両者の年々変動を検証すると,大まかな傾向が一致,あるいは一致しない場合でもMOIの変化に応じた変化が見られ、北海道の降雪量は冬季モンスーン強度の指標となりうることが示唆された。また,雪解け期の河川流量と年々降雪合計との間にも正の相関関係があることも示された (河川流量のデータは国土交通省水文水質データベースから取得)。以上の結果から,雪解け時の河川流量復元を通して、古冬季モンスーン強度が復元できると期待される。

この検証結果を踏まえ,国土交通省の水文水質データベースから,北海道に分布する13の一級河川について,10年間(2006-2016)の最下流の観測点における流量データを取得し,R言語を使用して主成分分析(PCA)を行った。欠測値は各河川における10年間の流量の平均値を代入して補間した。その結果,全13個の主成分が得られるが,今回の研究で注目したのは,全ての河川に共通の流量変動パターンを示す主成分1(PC1)とエリアごとの流量の違いを抽出している主成分2および3(PC2,PC3)の3個のスコアである。主成分スコア(各主成分の年々変動)の極大および極小値の形状および発生する時期から,スコアの概要を以下のように推定した。

1.PC1は夏季~秋季の降雨と,春季の融雪に依存した北海道全体で共通の流量変動
2.PC2は主成分負荷量が日本海側河川で負,オホーツク海側河川で正の大きな絶対値を示し,日本海側 は春季の融雪の過剰、オホーツク海側は夏季~秋季の降雨の過剰を表す
3.PC3は主成分負荷量が太平洋側河川で負,オホーツク海側河川で正の大きな絶対値を示し,オホーツク海側は春季の融雪の過剰,太平洋側は夏季~秋季の降雨の過剰を表す

更に,このPC2および3の主成分スコアと各河川の集水域内における年間降雪量または年間降水量と比較したところ,

PC2の正の値と相関するのは滝上の夏季降水量であり,一方で負の値と相関するは岩見沢の年間降雪量である
PC3の正の値と相関するのは滝上の年間降雪量であり,一方で負の値と相関するのは登別の夏季降水量である

以上の特徴から、オホーツク海側河川の流出量に対する日本海側河川の流出量の過剰、あるいは太平洋側河川の流出量に対するオホーツク海側河川の流出量の過剰を河口沖合堆積物に含まれる堆積物記録から推定できれば、北海道での降雪量復元を通して、冬季モンスーン強度の復元が可能となるかもしれない。