日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS18] 海洋化学・生物学

2022年5月30日(月) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (9) (Ch.09)

コンビーナ:三角 和弘(一般財団法人電力中央研究所 サステナブルシステム研究本部 )、コンビーナ:川合 美千代(東京海洋大学大学院海洋科学研究科)、座長:三角 和弘(一般財団法人電力中央研究所 サステナブルシステム研究本部)、川合 美千代(東京海洋大学大学院海洋科学研究科)

11:00 〜 13:00

[AOS18-P04] 西部北太平洋深層での栄養塩変動

*青山 道夫1,2笹野 大輔3熊本 雄一郎1内田 裕1 (1.海洋研究開発機構 地球環境部門、2.筑波大学 生命環境系 アイソトープ環境動態研究センター、3.気象庁 大気海洋部)

キーワード:栄養塩、西部北太平洋、深層

1980年代のWOCEに始まり現在までの10年間隔程度の全海洋の精密観測のデータは徐々に蓄積され、そのデータを使った解析結果も報告されている。CCHDOのサイトでは西部北太平洋ではP1(北緯47度線4回)、P2(北緯30度線3回)、P9(東経137度線3回)、P10(東経145度線3回)、 P13(東経165度線1990年代に2回)、およびP14(東経180度線2回)がデータ登録されている。最も回数が多いP1では、1985年、1999年、2007年、2014年の4回に加えて昨年2021年に海洋研究開発機構研究船みらいでのMR21-04航海が行われた。P13東経165度線では2011年以降海底まで気象庁により毎年観測が行われている。
水温はデータの比較可能性と追跡可能性の観点では観測項目の中では最も優れている項目の一つであり、底層では過去の観測結果から明らかな昇温(Fukasawa et al., 2004, Masuda et al., 2010など)が観測されている。
しかし、硝酸塩リン酸塩ケイ酸塩の過去のデータでは比較可能性と追跡可能性が確保されていないことからこれら栄養塩の時空間変動の研究は、水温や塩分に比べると進んでいなかった。今回2021年にP1観測が行われたことで、1985年以降2021年まで5回の観測があるのをつかい、栄養塩濃度がどのような挙動をしているかを、比較可能性を確保したうえで検討することができるようになった。またP1との交点である気象庁東経165度線北緯47度付近のデータも合わせて解析することで、時間変動を詳細に検討することができる、世界でも例を見ない研究対象となる。
研究対象の空間は、P1との交点である東経165度線との交点である北緯47度東経165度付近の海底上1200mまでのデータを解析することとした。
栄養塩分析の比較可能性と追跡可能性の観点ではみると、P1ラインでの1985年と1999年の航海では自家製標準のみが使用され、2007年航海では認証標準物質CRMになる以前の参照物質RMが使用された。これに対し、2014年と2021年航海では栄養塩認証標準物質が分析の検量線に使用され、栄養塩分析の比較可能性と追跡可能性が完全に確保されている。また、硝酸塩リン酸塩ケイ酸塩の分析の繰り返し精度においても、1985年航海では0.5%程度であり、1999年航海でも同程度と推定される。これに対し、2007年,2014年と2021年航海では硝酸塩リン酸塩ケイ酸塩についておおむね0.1%程度を維持している。
気象庁東経165度線の航海では、2011年2012年ではRMを使用しているが2013年以降はCRMを使用している。現在では気象庁は栄養塩データは自家製標準で測定した値を公表している。今回の研究のために、これらの値をCRM/RM基準で補正し、2007年,2014年と2021年のP1航海との比較可能性と追跡可能性を確保した。
得られた結果の詳細は講演時に述べるが、北緯47度東経165度付近の海底上1200mまでの海水中の硝酸塩濃度の変化率は10年あたり0.14 micro mol kg-1 、溶存酸素量の変化率は10年あたり-0.44 micro mol kg-1 が得られている。リン酸塩濃度は硝酸塩の増加傾向とは逆の10年あたり-0.011 micro mol kg-1 との減少率が得られている。硝酸塩と溶存酸素量の変化率のモル比は-3.3であり、レドフィールド比の-6.6と近い値である。