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[G03-06] 鹿児島大学理学部における高校生向け先取り履修制度に向けた試行―「地震災害の科学」の例―
キーワード:高大接続、アドバンド・プレイスメント、高校教育、大学教育、地震学入門
2021年度に鹿児島大学理学部では「高校生向け理学部体験授業」(以下「体験授業」)を実施した。これは2022年度から開始する「高校生向け先取り履修科目」(以下「先取り履修科目」)の試行である。
「先取り履修科目」とは、学部生向けの科目を高校生も履修するものである。学部生と同じテストやレポートを受けて合格すれば、鹿児島大学理学部入学時に単位として認められる(以下「単位化」)。大学の通常の科目と同様に、所定の授業時間数が必要になる。
「先取り履修科目」では、高校生が大学の本格的な講義に触れ、将来の進学を考えたり、今後何を学ぶと良いのかを知ることができる。このような制度は Advanced Placement (AP) と呼ばれ、日本でも高大接続としてその取り組みが広がっている。
鹿児島大学理学部では、次の2つを目的としている。「1. 高校生の理系進路選択支援及び高大接続改革:単位取得を伴う本格的な理学部専門科目に参加する機会を提供し、数学及び理科に興味を持っている優秀な高校生の勉学意欲を刺激し、理系進路選択を後押しすること。同時に、その知識と学力を高め、大学における専門的な学習への接続性を向上させること。」「2. 優秀な高校生の獲得:鹿児島大学理学部の教員と勉学意欲の高い高校生との出会いの場を作り、鹿児島大学理学部の教育研究をアピールする機会を増やし、優秀な高校生に鹿児島大学理学部への進学を促すこと。」
当初、2021年度からの「先取り履修科目」の実施を検討していた。しかし、単位化の規則整備に時間がかかること等から、2021年度は単位化しない「体験授業」で試行することになった。「体験授業」には国分高校と大島高校の2校に参加していただいた。
1プログラム(学科に似た単位)1科目ずつの合計5科目を用意した。内容は学部生1年を対象とする入門レベルとし、学部生には1単位の科目とした。受講人数は、5科目全体で、高校生42人、学部生61人であった。
授業形態は、高校生はすべて遠隔とした。学部生は第1回と第7回のみ対面(第7回が対面なのは3科目のみ)で、このとき高校生はリアルタイム配信での受講とした。その他はすべてオンデマンド配信である。実施期間は高校側と調整し、7月24日~8月20日とした。
本発表では5科目中の1科目「地震災害の科学」を紹介する。この科目では3つの目標、a) 地震防災における学際性を理解し、幅広い分野の学習が必要であることを知る、b) 地震学の基礎(数学・物理学を含む)に触れ、地震学を学ぶには何を学習すれば良いかを知る、c) 科学的手法に基づく予測の難しさを理解し、科学とは何かを考える、を掲げた。
目標 a) について、第1回で、地震災害にはどのようなものがあるか、地震災害にはどのような学問が関わっているか、などを受講生に考えてもらいながら進めた。第2回で過去の地震災害での教訓とそれに関わる学問の講義をした。地震災害には多くの学問が関わっており、その中で理学的な地震学の役割を理解してもらうこととした。
目標 b) について、波動方程式までの数学・物理学に触れてもらった。これによって、今後の数学・物理学の履修の参考にしてもらうようにした。また、地震学の概観として、地球の内部構造、プレート・テクトニクス、震源と断層、地盤と強震動の講義をした。
目標 c) について、地震予知について科学的な手法で考えると難しいことを、各自で考えてもらいながら進めた。最後にレポートで「客観」「基準」をキーワードにして講義をまとめてもらった。
受講者数は他の科目より少なく、高校生3人、学部生4人であった。数学や物理学に関する小テストでは、学部生に比べて高校生が劣ることはなかった。レポートでは、文章の書き方について、学部生に比べ高校生は習熟度の低さが現れていた。
講義期間後アンケートを実施した。「総合的に見て、この授業はわかりやすかったですか」については、高校生、学部生ともすべて「わかりやすかった」という回答を得た。一方「授業の難易度はあなたにとって適切でしたか」では、学部生は「易しかった」2人、「ちょうど良かった」2人だったのに対し、高校生は3人とも「難しかった」であった。小テストでは学部生と高校生の差は出ていなかったので、高校生は頑張ってついてきたことが推測できる。
2022年度では単位化が可能な「先取り履修科目」を開始する。また参加校も拡大する。提供科目は2021年度と同じである。「地震災害の科学」では、内容の大きな変更はしないが、さらなる工夫をしていく予定である。また受講者数の増加も図りたい。
「先取り履修科目」とは、学部生向けの科目を高校生も履修するものである。学部生と同じテストやレポートを受けて合格すれば、鹿児島大学理学部入学時に単位として認められる(以下「単位化」)。大学の通常の科目と同様に、所定の授業時間数が必要になる。
「先取り履修科目」では、高校生が大学の本格的な講義に触れ、将来の進学を考えたり、今後何を学ぶと良いのかを知ることができる。このような制度は Advanced Placement (AP) と呼ばれ、日本でも高大接続としてその取り組みが広がっている。
鹿児島大学理学部では、次の2つを目的としている。「1. 高校生の理系進路選択支援及び高大接続改革:単位取得を伴う本格的な理学部専門科目に参加する機会を提供し、数学及び理科に興味を持っている優秀な高校生の勉学意欲を刺激し、理系進路選択を後押しすること。同時に、その知識と学力を高め、大学における専門的な学習への接続性を向上させること。」「2. 優秀な高校生の獲得:鹿児島大学理学部の教員と勉学意欲の高い高校生との出会いの場を作り、鹿児島大学理学部の教育研究をアピールする機会を増やし、優秀な高校生に鹿児島大学理学部への進学を促すこと。」
当初、2021年度からの「先取り履修科目」の実施を検討していた。しかし、単位化の規則整備に時間がかかること等から、2021年度は単位化しない「体験授業」で試行することになった。「体験授業」には国分高校と大島高校の2校に参加していただいた。
1プログラム(学科に似た単位)1科目ずつの合計5科目を用意した。内容は学部生1年を対象とする入門レベルとし、学部生には1単位の科目とした。受講人数は、5科目全体で、高校生42人、学部生61人であった。
授業形態は、高校生はすべて遠隔とした。学部生は第1回と第7回のみ対面(第7回が対面なのは3科目のみ)で、このとき高校生はリアルタイム配信での受講とした。その他はすべてオンデマンド配信である。実施期間は高校側と調整し、7月24日~8月20日とした。
本発表では5科目中の1科目「地震災害の科学」を紹介する。この科目では3つの目標、a) 地震防災における学際性を理解し、幅広い分野の学習が必要であることを知る、b) 地震学の基礎(数学・物理学を含む)に触れ、地震学を学ぶには何を学習すれば良いかを知る、c) 科学的手法に基づく予測の難しさを理解し、科学とは何かを考える、を掲げた。
目標 a) について、第1回で、地震災害にはどのようなものがあるか、地震災害にはどのような学問が関わっているか、などを受講生に考えてもらいながら進めた。第2回で過去の地震災害での教訓とそれに関わる学問の講義をした。地震災害には多くの学問が関わっており、その中で理学的な地震学の役割を理解してもらうこととした。
目標 b) について、波動方程式までの数学・物理学に触れてもらった。これによって、今後の数学・物理学の履修の参考にしてもらうようにした。また、地震学の概観として、地球の内部構造、プレート・テクトニクス、震源と断層、地盤と強震動の講義をした。
目標 c) について、地震予知について科学的な手法で考えると難しいことを、各自で考えてもらいながら進めた。最後にレポートで「客観」「基準」をキーワードにして講義をまとめてもらった。
受講者数は他の科目より少なく、高校生3人、学部生4人であった。数学や物理学に関する小テストでは、学部生に比べて高校生が劣ることはなかった。レポートでは、文章の書き方について、学部生に比べ高校生は習熟度の低さが現れていた。
講義期間後アンケートを実施した。「総合的に見て、この授業はわかりやすかったですか」については、高校生、学部生ともすべて「わかりやすかった」という回答を得た。一方「授業の難易度はあなたにとって適切でしたか」では、学部生は「易しかった」2人、「ちょうど良かった」2人だったのに対し、高校生は3人とも「難しかった」であった。小テストでは学部生と高校生の差は出ていなかったので、高校生は頑張ってついてきたことが推測できる。
2022年度では単位化が可能な「先取り履修科目」を開始する。また参加校も拡大する。提供科目は2021年度と同じである。「地震災害の科学」では、内容の大きな変更はしないが、さらなる工夫をしていく予定である。また受講者数の増加も図りたい。