日本地球惑星科学連合2022年大会

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[E] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG22] 景観・レクリエーション評価に関する国際会議

2022年5月23日(月) 15:30 〜 17:00 106 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:青木 陽二(放送大学)、コンビーナ:高山 範理(国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所)、劉 銘(東京大学大学院農学生命科学研究科)、座長:上田 裕文(北海道大学)


16:00 〜 16:15

[HCG22-08] 若者の非公式緑地に対する認識
~非公式緑地の活用経験の有無及び意識の関係からみる非公式緑地の利用促進へのヒント~

*田中 祐理1,2古谷 勝則3 (1.千葉大学アセントプログラム、2.学校法人市川学園 市川高等学校、3.千葉大学園芸学研究院)


キーワード:若者の認識、非公式緑地、都市緑地、共存、SDGs

2015年9月の国連サミットでSDGsが採択された。私たちが身近に参加できる緑化運動を通じてSDGsの目標、例えば、目標3、11、13、15の人の健康、街づくり、気候変動対策、陸の豊かさなどに貢献できる可能性がある。緑化運動に関連し、都市の緑化や都市緑地についての研究が実施され、日本でも、公園、庭、森林など公式に認識されている緑地に関して政府の予算などでの対応が進んでいる。
しかし、都市で見られる緑地には、このような公式な緑地だけではなく、道端の草原、空き地の草原、線路脇や水路脇の植生など、公式な緑地とされていない緑(植物など)で覆われた空間「非公式緑地」が存在している。このような非公式緑地についても、都市に現存する緑地を最大限に活用しようとする試みが始まっている[1]
非公式緑地については、先行研究において、都市部の高齢者を中心とした居住者が近隣の非公式緑地の存在を認識し、潜在的な補助緑地として捉えていることや[2]、中高生などの若い世代も非公式緑地の存在を認識し、非公式緑地は生活を豊かにすると考えており、非公式緑地を生物活動の場、自然保護の場、散歩コースなどとして利用できる可能性があると考えていることが示された[3]

本研究では、まず千葉県千葉市の千葉大学の周辺における非公式緑地の実態を調査し、それらの位置情報、種類(先行研究を踏まえ9種類に分類)を記録した。次にこのデータに基づき、非公式緑地の使用および評価に対するアンケートを作成した。Googleフォームを使い市川学園の生徒および市川学園の教職員を対象に、回答を収集した。調査項目は,回答者の属性、非公式緑地の活用経験の有無、活用したことがある非公式緑地の種類、人々の非公式緑地に対する認知・認識(5段階、1:そう思わない、2:あまりそう思わない、3:どちらともいえない、4:ややそう思う、5:そう思う)、植物や動物と人間の共存に対する考え方などである。得られた回答は単純集計、クロス集計及びMann–WhitneyのU検定を用いて分析し、得られた結果について考察した。

市川学園の中高生と教職員を対象としたアンケート調査は、都市部に住む若者が中心となった(n=312)。内訳は、中学生77名、高校生184名、教職員51名、平均年齢は20.5歳、居住地は、千葉県が一番多く、東京都、埼玉県が続いた。
非公式緑地の活用経験の有無についての設問には、68%の回答者が非公式緑地を活用したことがあると回答した。活用したことがある非公式緑地の種類については、どの種類の非公式緑地も活用されていたが、vacant lots (52.8%)、unimproved lands (49.5%)、street vergers (39.6%)の順に多く活用されていた。(図1)。

次に、非公式緑地の活用経験の有無によって、人々の非公式緑地に対する認知・認識や自然に対する考え方が異なるのかどうか検討を行った。その結果、非公式緑地を活用した経験のある人の方が、有意に肯定的な回答を示すことが明らかになった(図2)。平均値が4(ややそう思う)以上の回答を見ると「非公式緑地を散策や自然観察等に使用しても構わない(有:4.3、無:3.9)」に有意な差が見られた(p=0.01)。一方,「非公式緑地は生物の生息地になる(有:4.4、無:4.3)」と「非公式緑地はいつか開発されたり、消えたりするかもしれない(有:4.3、無:4.2)」は共通の回答となっていた。次に平均値が3(どちらともいえない)から4(ややそう思う)の間を見ると,「非公式緑地でも人の心を和ませる効果があると思う(有:3.8、無:3.3)」(p<0.001)、「非公式緑地を色々な方法で自由に使用することは可能である(有:3.6、無:3.1)」(p=0.001)、「非公式緑地は子供たちが遊ぶことができる場所になりうる(有:4.0、無:3.3)」(p<0.001)で有意な差が見られた。非公式緑地に前向きな効果があると評価する設問について、活用経験のある回答者が有意に高い値となった。一方で、「非公式緑地は空気の浄化に役立つ(有:3.9、無:3.7)」「非公式緑地にある標識やフェンスによって、土地への立ち入りが困難である(有:3.5、無:3.5)」「非公式緑地は小さすぎる、または狭すぎて使用できない。(有:3.4、無:3.5)」については同じような値となっていた。なお、分析はMann–WhitneyのU検定により行った。

自然に対する考え方と、非公式緑地の活用経験の有無についても解析したところ、「植物や動物や人間は、共存することは大切だ(有:4.6、無:4.4)」という設問について有意な差が認められた(p<0.05)。「自然保護のための時間を設けたいと思う(有:3.9、無:3.7)」という設問については有意な差は認められなかったが、非公式緑地を活用した経験のある人の方が、人間と自然の共存について肯定的な傾向が認められた(図3)。

 本研究の結果から、都市に現存する緑地、特に非公式緑地の活用をさらに促進していくためには、まず、非公式緑地を活用してもらうための取組みが必要だと考えられた。この研究により、今後の行政や民間における非公式緑地の利用促進活動のための1つのヒントを示すことができたと考えている。


[1] Katsunori Furuya, et al. Private and informal green space as green infrastructure: towards participatory maintenance policies, Principal Investigator Katsunori Furuya, Co-Investigator Ruprecht Christoph, Yui Takase, KAKEN, 2017-04-01 - 2020-03-31
[2] Minseo K, Christoph DDR and K. Furuya. Residents’ Perception of Informal Green Space - A Case Study of Ichikawa City, Japan. Land, MDP, vol7(3),1-20, 2018.
[3] Yuri Tanaka, Yingming Mao, Katsunori Furuya. Young citizens’ Perception of Informal Green Space - A Case Study of Ichikawa and nearby cities in Japan (The 6th International Symposium for Sustainable Landscape Development, September 2021)