日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG25] 堆積・侵食・地形発達プロセスから読み取る地球表層環境変動

2022年5月30日(月) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (15) (Ch.15)

コンビーナ:清家 弘治(産業技術総合研究所・地質調査総合センター)、コンビーナ:池田 昌之(東京大学)、成瀬 元(京都大学大学院理学研究科)、コンビーナ:高柳 栄子(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、座長:清家 弘治(産業技術総合研究所・地質調査総合センター)、高柳 栄子(東北大学大学院理学研究科地学専攻)

11:00 〜 13:00

[HCG25-P05] 礫質なハイパーコンセントレイテッド流堆積物の一典型:安倍川上流域に分布する成層礫層

*白井 正明1宇津川 喬子2 (1.東京都立大学、2.立正大学)

キーワード:ハイパーコンセントレイテッド流堆積物、トラクションカーペット、礫層、オリエンテーション、安倍川

1.はじめに
 ハイパーコンセントレイテッド流 (hyperconcentrated flow: HCF) は,砕屑粒子濃度が通常の水流と土石流の中間的(約40〜80 wt.%)な流れと,定義自体は単純だが,形成される堆積物は極めてバラエティに富む.ラハールや大規模土石流に伴い形成された数々のHCF堆積物が報告されているが,主要構成粒子の大きさ,級化,粒子のオリエンテーション(長軸の示す方位)など,堆積物の特徴は,報告により様々である.静岡県安倍川上流域に分布する大規模「土石流」堆積物(例えば,町田,1959)の一部を占める成層礫層はHCF堆積物と解釈されており(白井ほか,2020),この礫層はHCFのbedload部分にあたるtraction carpetの一つの典型と位置づけられると思われる.今回は主に礫の長軸の方位(オリエンテーション)から推測される礫の運搬・堆積様式をSohn (1997) のtraction carpet modelの記述等と比較する.
2.調査地域概略
 安倍川上流域では,18世紀初頭の宝永地震の際に大谷崩で発生した崩壊土砂が土石流となり,大谷川と安倍川上流の谷を埋めたとされる(例えば,Tsuchiya & Imaizumi,2010).谷壁の一部には,全体の厚さ30 m以上の中礫層と大礫層の互層が分布する.中礫層および大礫層各層の厚さは数10 cm〜数mであり,径1 m を超える飛び抜けて大きな礫 (outsized clast) が散在する点,各層には葉理が見られない点などの特徴(例えば,Smith, 1987)から,HCF堆積物と考えられる.
3.礫のオリエンテーション
 この堆積物の岩相記載および礫のオリエンテーションの測定方法の詳細については,日本堆積学会2021年大会(白井・宇津川,2021)においても紹介しているので割愛する.中礫層の上部・下部および大礫層の上部・下部の4区分について,露頭の各所で各区分合計200個以上の礫のオリエンテーションを測定した.大礫層では上部/下部とも流れに直交する礫に富み,中礫層では上部/下部とも流れに平行な礫に富む.また中礫層の下部には流れに直交する礫も比較的多く含まれた.
4.議論:先行研究との比較
(1) Sohn (1997) ではtraction carpetを構成する粒子の径が変動した結果,粗粒層と細粒層の互層が形成されたとされている.しかし安倍川の礫層の特徴からは,大礫層はtraction carpet上部のcollisional region,中礫層は下部のfrictional regionであり,後続のtraction carpetが次々と累重していくと考えたほうが自然である.
(2) Sohn (1997) では,traction carpet内で礫が下位から徐々に堆積していく(gradual aggradation)としている.安倍川の中礫層のオリエンテーションからは,frictional regionは集合状態(en-masse)で移動・堆積していると考えられる.また中礫層下半部の「流向に直交する礫」はfrictional regionとその下位の定置層の速度差を反映していると推測される.
(3) Smith (1986) はHCF堆積物の特徴として正級化を挙げ,また礫のオリエンテーションから大きな礫は転動し,小さな礫はsuspensionから堆積するとしている.しかし当該論文のHCF堆積物の写真 (Smith, 1986 のFig.2) では粗粒層と細粒層が互層をなしており,traction carpet 上部の粗粒層 (collisional region)とその上に重なるtraction carpet 下部の細粒層 (frictional region)を正級化と見なした可能性がある.また小さな礫はfrictional regionの構成粒子のため流れに平行,大きな礫はcollisional regionの構成粒子のため流れに直交した配列を示したと考えられる.
(4) 以上のように,frictional region とcollisional region を区別した上で特徴を比較することにより,礫質HCFのtraction carpet堆積物の性質を一層明らかにすることができる.安倍川上流域の成層礫層は礫質HCF堆積物研究上重要な露頭と言える.

謝辞 河尻清和(相模原市博),小林淳(静岡県富士山世界遺産セ),小田龍平・松風潤(首都大・当時),秋草慧一・佐藤潤一(都立大・当時)の各氏には,野外調査をお手伝いいただいた.また本研究には科研費(課題番号18K03762)を使用している.

文献
町田(1959)地理学評論, 32, 520–531.  
白井・宇津川(2021)日本堆積学会2021年大会講演要旨,45–46.
白井・宇津川・渡辺(2020)第四紀研究, 59, 17−29.  
Smith (1986) Geological Society America Bulletin, 97, 1–10. 
Smith (1987) Journal of Sedimentary Petrology, 57, 613–629.  
Sohn (1997) Journal of Sedimentary Research, 67, 502–509.   
Tsuchiya and Imaizumi (2010) Journal of Disaster Research, 5, 257–263.