日本地球惑星科学連合2022年大会

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[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS09] 人間環境と災害リスク

2022年5月30日(月) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (14) (Ch.14)

コンビーナ:佐藤 浩(日本大学文理学部)、コンビーナ:中埜 貴元(国土交通省国土地理院)、座長:佐藤 浩(日本大学文理学部)、中埜 貴元(国土交通省国土地理院)

11:00 〜 13:00

[HDS09-P03] 地震災害におけるボランティアによる作業量の実態調査

*水井 良暢1,2藤原 広行1,2 (1.筑波大学、2.国立研究開発法人防災科学技術研究所)

キーワード:自助、共助、災害ボランティア、益城町、枚方市

1.はじめに
近年,日本国内では毎年のように甚大被害を伴う広域災害が各地で発生している.被災者が自助活動として行う自宅の片づけ作業では常に人員が不足する.その不足分を補うために地域内外から自発的に参加する,共助活動である災害ボランティアの存在がある.
筆者は,2011年3月11日の東日本大震災以降,各地の災害ボランティアセンター運営に関わり,被災現地での実作業量と,必要とされる災害ボランティア人員調整の難しさを実感してきた.人員調整等の課題を解決するためには,実行しないといけない作業量と,自助と共助における活動者の全体数を把握し,全体の中の共助部分の人数の内訳を明確化することが重要である.
今回の研究では災害事例として2016年熊本地震の益城町と2018年大阪府北部の地震の枚方市における災害ボランティアの作業件数と作業内容について,それぞれの災害規模や都市と郊外の実態について検証した.益城町では内藤・他(2018)「航空写真目視判読にもとづく2016年熊本地震による建物被害調査」による家屋の被害区分を利用し特徴の比較を行った.

2.調査方法
災害発生後に実施される災害ボランティアセンターの作業管理データを活用し,災害ボランティアの作業総量を把握する.また作業内容の種別についても内訳量を区分けする.熊本地震では航空写真による家屋被害の判読が行われている.その被害区分ごとに作業量と作業内容について,月曜日で始まり週末の日曜日で終わる1週間の期間を単位とし,災害ボランティアセンターが開設されてから閉所するまでの全期間をグラフで可視化した.災害規模の特徴として,地震により2回連続で震度7が発生した益城町と震度6弱以下の比較的軽微な枚方市,地域特性として,熊本市に隣接している郊外の町である益城町と,大阪府で主要鉄道沿いの都市である枚方市.これらの特徴と作業量と内容,および期間の差異について検証した.
なお,枚方市が概ね市街地区にて構成されているため,益城町についても今回比較する場所は市街地区としている.
航空写真判読による建物の被害区分は内藤・他(2018)に基づく.LEVEL1は上空からの判読では被害なし,LEVEL2は屋根瓦の一部崩落またはブルーシートが屋根面積の半分以下,LEVEL3は屋根瓦の大部分が崩落または壁面落下またはブルーシートが屋根面積の半分以上,LEVEL4は建物が傾斜・ズレねじれが確認できるまたは高さが本震前後で3m以上変化している.なお,LEVEL0は判読写真前後で家屋の突合不可もしくは小規模建屋のため判読されないものとしている.

3.結果
熊本県益城町は,熊本市の衛星都市的な役割を担う.市街地では地震断層が地表に現れている箇所もあり家屋が多く倒壊する甚大な被害が発生している.
大阪府枚方市は,大阪市と京都府内へ通勤するための衛星都市的な町である.西側に淀川があり,それに沿うように鉄道が南北に通り枚方駅などがある住宅中心部・役場・主要施設がある.地震による被害が小規模なため,災害ボランティアによる作業期間も約1か月と短期間であり,発災から3年経過した2021年では被害の痕跡もほぼ無くなっている.

作成したグラフで2市町を比較した結果,以下の特徴が発見できた.
熊本県益城町では,
(1) LEVEL0と1は避難所や役場手伝いの割合が多い
(2) LEVEL2と3は屋外修理が多い
(3) LEVEL3は作業最終時期の2017年4月まで作業が発生し続けている
(4) LEVEL4は屋内掃除・片付け作業が少ない
(5) 貴重品の取り出し作業がある

大阪府枚方市では,
(1) 災害ボランティアセンター開設から2週目の益城町の約80件に対して枚方市は約120件であり,週間ニーズ対応数は枚方市の方が多い
(2) 電話問い合わせでの受け答えで完了する簡易ニーズがある
(3) 屋外作業の割合の方が屋内作業よりも多い傾向がある

結果として,2つの市町の特徴の差異は以下である.
益城町:被害規模が大きく作業が1年以上継続されている.避難所に対しても多くの支援作業が行われている.破損した設備を解体する作業が多くみられる.膨大な災害ゴミが発生したため災害ゴミ仮置き場への運搬作業も多い.倒壊家屋が多く貴重品の取り出し作業が多い.住民が素人作業で対処できない専門技能が必要な作業が多く発生している.
枚方市:大阪の地震では屋根の一部破損被害が多く,熊本地震のLEVEL1に相当すると考えられる.しかし,軽微な被害であるにもかかわらず屋内作業よりも屋外作業が多い.益城町と異なり町全体の被害規模も小さいため,多くの屋内作業を自助作業として住民が自力で処理していた可能性がある.
謝辞:災害ボランティアの作業管理データを作成された益城町と枚方市の社会福祉協議会,および支援団体の方々に心より感謝いたします.