日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-GG 地理学

[H-GG01] 自然資源・環境に関する地球科学と社会科学の対話

2022年5月23日(月) 09:00 〜 10:30 105 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:古市 剛久(森林総合研究所)、コンビーナ:上田 元(一橋大学・大学院社会学研究科)、大月 義徳(東北大学大学院理学研究科地学専攻環境地理学講座)、コンビーナ:佐々木 達(宮城教育大学)、座長:古市 剛久(森林総合研究所)、上田 元(一橋大学・大学院社会学研究科)

09:15 〜 09:30

[HGG01-02] 静岡県中部の農業地域における湧水地コミュニティの変遷

*今野 明咲香1、成澤 実咲1 (1.常葉大学)

キーワード:地域コミュニティ、農業地域、変遷、湧水地

湧水地は、暮らしを支える水資源としての利用のみならず,農業用水として利用されることでコミュニティの場としての役割を持つ。例えば静岡県中部では茶栽培や果樹栽培に湧水が使われており,湧水に関連する古くからの祭りや慣習が続けられている。しかしながら,農業従事者の減少により,特に集落単位での水路の管理が必要となる稲作では水路を軸に形成されてきたコミュニティに変化が生じていることが指摘されている(牧野,2017)。このような水路を中心とした集落単位の比較的大規模かつ密接なコミュニティだけでなく,湧水を利用する比較的小規模な農業地域にも,コミュニティの変化が生じている可能性がある。そこで本研究は,農業の衰退と湧水地コミュニティの関係およびその変化について検討した。
静岡県中部地域の農業地域に存在する姥が池、智者の湧水、翡翠の滝、吉永コミュニティーパークの4か所の湧水地を対象にヒアリング調査を行い,湧水地の維持存続・衰退理由,利用頻度や湧水地の利用時の人との繋がりの程度について調査した。また,土地利用の変化から湧水地周辺の農地の変化,統計資料から集落の人口変化を読み取った。
調査の結果,姥が池、智者の湧水、翡翠の滝では,過去から現在にかけて湧水地の利用者数および利用頻度が減少していた。また定期的に湧水地に集まる掃除や祭りなどのイベントが消滅・減少していた。湧水地を利用する目的としては,親の世代から受け継いだという回答が最も多かった。湧水地周辺では1970年代から現在にかけての土地利用は農地から荒地に変化していた。一方、吉永コミュニティパークでは湧水地の利用が過去から現在にかけて利用者数と利用頻度ともに増加していた。また湧水地を利用する目的は住民から教わった,という回答が最も多かった。土地利用は1970年代から現在にかけて農地から住宅地へ変化していた。
以上のことから,姥が池、智者の湧水、翡翠の滝では元々湧水地を介したコミュニティの繋がりはあったが,家族内でのみ利用継承がされていたため,農地減少・跡継ぎ不足によって湧水地の利用減少と同時にコミュニティが縮小したと考えられる。これらの地域の湧水地は,存在が忘れ去られることで消滅する可能性がある。一方,吉永コミュニティパークでは,農地は減少したものの住宅地に変化したことにより,先祖から受け継いだ人の他にも,住民同士の伝達により新規利用者が増加した。このように集落全体で利用継承がなされたことによって,湧水地の利用が継続されていることが明らかとなった。