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[HQR04-P04] 富山県小矢部市周辺に分布する鮮新-更新統のテフラ層序の再検討
キーワード:テフラ層序、鮮新-更新統、北陸層群
富山県小矢部市周辺に分布する鮮新-更新統のテフラ層序の再検討
はじめに:富山県西部に位置する小矢部地域には,北陸層群に属する鮮新−更新統が分布し,この地層には多数のテフラ層が含まれる.これらのテフラ層の対比・編年に関する近年の研究は2編あるが,小矢部地域内において両者の対比はなされていない.また,これらの研究では,テフラ層中の火山ガラスの主成分化学組成が対比の重要な根拠となっているが,組成データは定数和制約(総和の決まっている組成データにおいて,ある成分の大小が他の成分の割合に影響を与える)と呼ばれる制約条件のため,実数の比例尺度データと同等には統計処理を施せないことが指摘されている(Aitchison, 1986).そこで本研究では,小矢部地域において,鮮新−更新統のテフラ層序を整理し再検討することを目的として,従来の方法に定数和制約の問題を解決する手法を取り入れてテフラ層の対比を試みた.
調査地域の層序:小矢部地域に分布する鮮新−更新統は,下位より音川層,大桑層,埴生層である.調査地域では,これらの地層が北東−南西走向をもち南東方向に傾斜して分布する.
手法:調査地域において八伏,埴生,横谷,田川の4つのルートを設定し,各ルートでテフラ層の記載と採取を行った.次いで,採取したテフラ試料の全鉱物組成,火山ガラス形状分類を調べるとともに,EPMAを用いて火山ガラスの主成分化学組成分析を行い,その分析値に対して定数和制約から解放すべく対数比解析(相加対数比変換;太田・新井,2006)を施した.相加対数比変換の規格化成分はOhta et al. (2011)の不変量検定,および元素の移動度を考慮して複数選定し,以降の分析結果を比較した.最後に,対数比データの試料ごとの平均値を多変量としたクラスター分析を行って対比されうるテフラ層を絞り込み,その分布から対比されうるテフラを抽出した.
結果:八伏で13層(Hb1〜Hb13),埴生で2層(Hny1,Hny2),横谷で1層(Yk-1),田川で1層(Tg-1)のテフラ層が確認された.なおHb12,Hb13とHny1,Hny2は連続して堆積するユニットである.これらのテフラ層は葉理が発達し,一部に貝化石を含むシルト岩〜細粒砂岩に挟まれることから,水底に堆積したものと見なせる.このうち八伏上部の2層(Hb10,Hb11)を除く15層はガラス質火山灰で,Hb10とHb11の2層はガラス質結晶火山灰である.火山ガラスの形状は多様で,特別な傾向は認められなかった.火山ガラスの主成分分析値の対数比解析に当たっては,不変量検定の結果と元素の移動度からK2O,SiO2,Al2O3,TiO2を規格化成分とした.対数比データの試料ごとの平均値を用いてクラスター分析を行った結果,どの成分で規格化した場合でも,Hb1〜Hb7,Hb9〜Hb11の10層のグループと,Hb8,Hb12・Hb13,Hny1・Hny2,Yk1,Tg1の7層のグループに大別された.前者は同一ルート沿いにあり,上下関係が明確であるため,後者のみが対比されうるテフラ層と考え,対数比データの分布を確認した.その結果,規格化成分に依らず,FeO*で7層のテフラ層がHb8,Yk1,Tg1の3層とHb12・Hb13,Hny1・Hny2の4層に分かれた.なお,組成データでも2つのグループに分かれる傾向は認められたが,対数比データほど明瞭ではなかった.
考察・まとめ:主成分化学組成の対数比データで分布の重なるHb8−Yk1−Tg1,およびHb12・Hb13−Hny1・Hny2はそれぞれ層相と鉱物組成も類似しており,対比されるものと見なせる.Yk1,Tg1は小矢部市横谷−上野間の大桑砂岩層下部に分布するとされてきた第三軽石層(槇山,1930;角ほか,1989)に相当し,Hb12,Hb13は田村・山崎(2004)の報告したO2の下部,上部に相当する.本研究により,これらのテフラ層がより広範囲に分布することが確認され,小矢部地域の鮮新−更新統のテフラ層序が整理された.
引用文献:Aitchison, J., ed., Chapman & Hall, 416p, 1986; 槇山, 地球, 14, 161-174, 1930; 太田・新井, 地質雑, 112, 173-187, 2006; Ohta et al., Math. Geosci., 43, 421–434, 2011; 角ほか, 5万分の1地質図幅「石動」, 地質調査所, 1989; 田村・山崎, 地質雑, 110, 417-436, 2004.
はじめに:富山県西部に位置する小矢部地域には,北陸層群に属する鮮新−更新統が分布し,この地層には多数のテフラ層が含まれる.これらのテフラ層の対比・編年に関する近年の研究は2編あるが,小矢部地域内において両者の対比はなされていない.また,これらの研究では,テフラ層中の火山ガラスの主成分化学組成が対比の重要な根拠となっているが,組成データは定数和制約(総和の決まっている組成データにおいて,ある成分の大小が他の成分の割合に影響を与える)と呼ばれる制約条件のため,実数の比例尺度データと同等には統計処理を施せないことが指摘されている(Aitchison, 1986).そこで本研究では,小矢部地域において,鮮新−更新統のテフラ層序を整理し再検討することを目的として,従来の方法に定数和制約の問題を解決する手法を取り入れてテフラ層の対比を試みた.
調査地域の層序:小矢部地域に分布する鮮新−更新統は,下位より音川層,大桑層,埴生層である.調査地域では,これらの地層が北東−南西走向をもち南東方向に傾斜して分布する.
手法:調査地域において八伏,埴生,横谷,田川の4つのルートを設定し,各ルートでテフラ層の記載と採取を行った.次いで,採取したテフラ試料の全鉱物組成,火山ガラス形状分類を調べるとともに,EPMAを用いて火山ガラスの主成分化学組成分析を行い,その分析値に対して定数和制約から解放すべく対数比解析(相加対数比変換;太田・新井,2006)を施した.相加対数比変換の規格化成分はOhta et al. (2011)の不変量検定,および元素の移動度を考慮して複数選定し,以降の分析結果を比較した.最後に,対数比データの試料ごとの平均値を多変量としたクラスター分析を行って対比されうるテフラ層を絞り込み,その分布から対比されうるテフラを抽出した.
結果:八伏で13層(Hb1〜Hb13),埴生で2層(Hny1,Hny2),横谷で1層(Yk-1),田川で1層(Tg-1)のテフラ層が確認された.なおHb12,Hb13とHny1,Hny2は連続して堆積するユニットである.これらのテフラ層は葉理が発達し,一部に貝化石を含むシルト岩〜細粒砂岩に挟まれることから,水底に堆積したものと見なせる.このうち八伏上部の2層(Hb10,Hb11)を除く15層はガラス質火山灰で,Hb10とHb11の2層はガラス質結晶火山灰である.火山ガラスの形状は多様で,特別な傾向は認められなかった.火山ガラスの主成分分析値の対数比解析に当たっては,不変量検定の結果と元素の移動度からK2O,SiO2,Al2O3,TiO2を規格化成分とした.対数比データの試料ごとの平均値を用いてクラスター分析を行った結果,どの成分で規格化した場合でも,Hb1〜Hb7,Hb9〜Hb11の10層のグループと,Hb8,Hb12・Hb13,Hny1・Hny2,Yk1,Tg1の7層のグループに大別された.前者は同一ルート沿いにあり,上下関係が明確であるため,後者のみが対比されうるテフラ層と考え,対数比データの分布を確認した.その結果,規格化成分に依らず,FeO*で7層のテフラ層がHb8,Yk1,Tg1の3層とHb12・Hb13,Hny1・Hny2の4層に分かれた.なお,組成データでも2つのグループに分かれる傾向は認められたが,対数比データほど明瞭ではなかった.
考察・まとめ:主成分化学組成の対数比データで分布の重なるHb8−Yk1−Tg1,およびHb12・Hb13−Hny1・Hny2はそれぞれ層相と鉱物組成も類似しており,対比されるものと見なせる.Yk1,Tg1は小矢部市横谷−上野間の大桑砂岩層下部に分布するとされてきた第三軽石層(槇山,1930;角ほか,1989)に相当し,Hb12,Hb13は田村・山崎(2004)の報告したO2の下部,上部に相当する.本研究により,これらのテフラ層がより広範囲に分布することが確認され,小矢部地域の鮮新−更新統のテフラ層序が整理された.
引用文献:Aitchison, J., ed., Chapman & Hall, 416p, 1986; 槇山, 地球, 14, 161-174, 1930; 太田・新井, 地質雑, 112, 173-187, 2006; Ohta et al., Math. Geosci., 43, 421–434, 2011; 角ほか, 5万分の1地質図幅「石動」, 地質調査所, 1989; 田村・山崎, 地質雑, 110, 417-436, 2004.